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V-113 ウエリントン王国の総指揮官


 2月程で先行の穴掘りが終了した。

 ようやく解放されるかと思ったら、今度はそれを広げる作業を仰せつかってしまった。

 まあ、自分の領地の施設だからねぇ……。


 とりあえず方向転換用のホールから始めることにした。

 1区画を抉るようにして岩盤を掘り進める。

 規定の奥行きに達したら、今度は横に掘るのだが、岩盤にマス目状に切れ目を入れて、横から岩盤を切ると、野菜をサイコロ状に切るような感じでブロック状に石が切り出される。


 1辺が2m程の大きさなんだが、その形を見て現場監督が喜んでいた。

 中継点の外に作るバージ用桟橋の拡張工事に使えるらしい。

 外側に向かうトンネルもムサシが拡張しているから、そのうち50tバージがホールに入ってこれるんじゃないかな。

 

 いつの間にか、工事用の獣機も数を増している。

 急ピッチで改修工事が進んでいるようだ。


 そんな中、王都から客人がやってきた。

 ヒルダさんと1人の女性が一緒だけど、歳は俺より上に見えるな。とは言っても、ヒルダさんよりは若く見えるけどね。


 カンザスのリビングのソファーに座った2人に、俺とエミーにローザ、それにドミニクがお相手をすることになった。


 「エミーの頼みを国王がお許しになったわ。教育は均等でなければならないとも言っていたわよ」

 「中々のお考えです。では先生は?」


 「こちらのラミーネが先生を勤めますわ。旦那様もこちらで働いているそうですから都合が良いでしょう」

 「それはありがたいお話です。現在は居住区の一角を使っていますが。中継点の改修工事に合わせて学校を作る予定です。運動場は今のところはないんですが、将来は桟橋の地下に作ろうと計画しています」


 「学校であれば、その工事費を私に申告してください。内部調査を行い還付金をお支払いします」


 教育は国の責任と言う奴か?

 それはありがたい話だ。それだけ施設を充実させてやれるぞ。


 「ところで、マクシミリアンからおもしろいお話を聞きましたよ。何でも5千のプレートワームを葬ったとか……」


 さすがに無理があったか。

 ヒルダさんが同行したのは、その真偽を確かめたかったのか?


 「何とか我等でドレスダンサーを倒したのじゃが、プレートワームの数が多くてのう……。最終的に全てを葬って片付けてくれたのは、他でもないマクシミリアン率いる第3軍じゃ」

 「そういう訳ですか。リオ殿がいたからマクシミリアンはプレートワームを何とかできたという事ですね」


 おもしろそうな目を俺に向けてそう言った。

 ここは頷いて置くほうが良いだろうな。


 「これで、マクシミリアンは次ぎの代の総指揮官となれるでしょう。そして、リオ殿とのチャンネルを持ったという事は喜ばしいことです。

 現在の総指揮官は12騎士団とはそれなりの交渉口を持っているようですが、リオ殿とは持っておりません。どちらかと言うと何か事があっても頼らない方でしょうね。新参者と思っているようです」


 総指揮官を交代させるのか?

 ウエリントン王国は平和なように思えるが……。


 「ガイデル総司令では、スコーピオ対応は不可能じゃ。やはり変え時ではあるのう」

 「騎士団ではそれ程悪い噂も聞きませんが?」


 「でも、良い事も聞いた事がないでしょう? 

 彼は古い考えなのよ。騎士団の持つ武装でさえ否定してるし、ましてや戦機は全て国が管理するものだと思ってるわ。

 そこで行き着いたのが、ヴィオラ騎士団の戦姫ね。絶対に奪いに来るわよ」


 「それは、父様も了承しておるのか?」

 「いいえ。ガイデルの独断になるわ。発掘したものは騎士団に所属は法で認められていることよ。となれば、方法は1つ!」


 「強奪ですね。戦艦で脅しに来る可能性が高いということですか?」

 「そうなるわ。そしてそれが海賊行為である事も自覚が無いのよ。もし、やってきたら、その戦艦に乗っているのは子飼いの連中ばかり。殲滅しなさい!」


 戦艦相手に戦うのか?

 ちょっと願い下げだな。


 ヒルダさんは1泊して帰って行った。

 ラミーネさんはマリアン達と打合せを行なって早速授業を開始するようだ。

 ちゃんとした先生だし、美人だから子供達も喜ぶだろう。


 そして、俺達は新たな問題について話し合いを始める。

 戦艦の主砲は38cmで射程は25kmある。

 艦砲射撃を受けて中継点は無事だろうか?

 敵の目的はアリスとムサシの2機だろう。

 だが、俺達から2機だけを取り上げるなら、他の騎士団には影響がない。

 先ずは交渉で威嚇し、次ぎは艦砲で脅すってことになるだろうな。

 

 まてよ、中継点の構築には3カ国の王族も資金を供給してくれている。それを破壊すると言っただけで、叛旗を翻すことになるんじゃないか?


 「基本は静観で良いわよ。私達に断りなくこの領土に入る事は出来ないわ。そして、この地に砲弾を1発落としただけで、彼は失脚するわ」

 「居座られると面倒になるわ」


 「その時は王都で国王から臨時の演習を通達して貰いましょう。総指揮官が出られないというならその理由が追求されるわ」


 「父君の臨時演習を逆手に取るのじゃな。演習開始の通達と同時に時間を計測されるから、ちょっと面倒なことになりそうじゃな」


 ひょっとして、俺達を上手く使って総指揮官を更迭するつもりじゃないのか?

 また、恨まれる筋合いが増えるんじゃないかな。


 「そのうちに盗賊団がやってくるかと思ってたけど、大きいのが来るわね」

 

 フレイヤは他人事だな。

 まあ、ここはどうするかだ。


 「潰しても良いんだろうか?」

 「そうね……。良いわ。潰しなさい。でも、ちゃんと言葉質を取ってからにするのよ。その後は破壊しても責任は相手に取らせる事が出来るわ」


 カテリナさんの言葉に全員が頷く。

 これで方針が決まったな。……でも、ホントに来るんだろうか? かなりの越権行為が、それには付き纏うような気がするぞ。

               ・

               ・

               ・


 一月ほど経ったある日のこと。

 リビングでスクリーンを展開してニュースを見ていたら、ウエリントン王国の戦艦が巨獣に襲われたとアナウンサーが告げていた。


 「西方を巡回中の戦艦『ベヒモス』が、大河を横断中に巨獣に襲撃を受け撃沈。乗組員は絶望視されています。

 不思議なことにベヒモスには正規の乗組員ではなく、他の部隊から兵員が乗船していた模様です。

 ガイデル総指揮官が艦長を自ら勤めていた模様ですが、そのような人選で西を目指した理由は良く分かっていません……」


 呆気に取られて口を開いたので、タバコがソファーに落ちるところだった。

 これって、俺達のところにやってくる予定の戦艦じゃなかったのか?


 確かに、途中の大河には大きな奴がいたけれど、そんなに簡単に巨獣にやられる戦艦なら、返って邪魔になるだけだと思うけどな。


 だが、逆に言えば俺達は巨獣に守られているとも言える訳だ。

 王国から西の地は、やはり物騒な土地ってことになるんだろうな


 その夜の食事では、あまりの不甲斐なさに皆が怒ってるぞ。

 

 「折角戦艦を我が沈めてやろうと思っていたのに残念じゃ!」

 「ガリナムで、ブリッジに88mmをプレゼントしてあげったかったな……」

 

 意外と途中で沈んで良かったかも知れないな。

 こっちに来てたら、それこそタコ殴りで沈められたかも知れないぞ。

 巨獣にやられたとなれば、少しは名誉が残るだろう。こっちに来ればタダの盗賊だからな。


 「これで、マクシミリアンさんの総指揮官着任は決まりね」

 「そうだとは思うけど……。ちょっと気になるんだがマクシミリアンさんとの、あの時の取引って何だったの?」


 「この中継点にいる駆逐艦の譲渡よ。そういえば、教えてなかったっけ?」

 「ああ、聞いて無いよ。でも、貰っちゃって良いのか?」


 「辺境の中継点への譲渡なら、会計検査上も問題はないわ。それに老朽艦という触れ込みだから、王国軍は新型を手に入れられるわ」


 そして今度は戦艦か……。マクシミリアンさんも嬉しいんじゃないか?

 となると、駆逐艦の新たなクルーを探さなくちゃならないぞ。


 「クルーは、メイデンさんが紹介してくれると言っていたわ。ガリナムの2番艦にする予定よ」

 

 また、過激な人が来るんだろうか?

 今度は大人しい感じの人が良いな。


 「殴りこみに備えてあまり遠くに行けなかったけど、これで少し中継点を離れられるわね。」

 

 ドミニクの言葉に皆が頷く。

 ここしばらくは、往復5日程の航行を繰り返していたからな。

 

 「山裾を更に西に行って見ましょうか?」

 「それは、ちょっと待ってくれないかしら? ガリナムの改装があるから、ガリナムを使えないわ」


 クリスの言葉にカテリナさんが待ったを掛ける。

 だけど、ガリナムの改装なんて聞いてないぞ?

 そう思うのは俺だけじゃ無いらしい。皆がカテリナさんを見ているというか……睨んでるな。


 「プレートワームの一件でかなりガリナムが使える事が分かったでしょ。だから、カンザスに遅れを取らないように、ちょっと改造してるのよ。中身だけじゃなくて外形も少しいじったから改装になるわ」


 問題は、その中身だな。

 

 「たぶん基本仕様を変更したんだと思うのですが、具体的には?」

 「速度を速めたわ。ガリナムの搭載した反重力装置のメビウスコイルを2重にして、多脚式走行装置の足を強化したわ。

 そして、外装式のラムジェットエンジンをブリッジの両側に取り付けられるようにしてるから、最大巡航速度は時速600kmを地上50mで出せるわよ」

 

 絶対に乗りたくないぞ。

 カンザスのように内部の人間に対して加速度を抑制するような機構は設けていない筈だ。まるで巡航ミサイルに乗ってる感じになると思う。

 

 「それって、メイデンさんは知ってるんですか?」

 「知ってるも何も、メイデンのリクエストよ」


 それなら仕方がない……。皆の表情はそんな感じに見えるな。

 確かに、メイデンさんならと俺だって思うもの。

 とは言え、そうなると救援に駆けつけるラウンドクルーザーがもう1隻増えるわけだ。そしてそれがガリナムならば、かなり巨獣との戦いを有利に運べるな。

 ある意味、戦鬼以上の働きを期待できる。

 

 「しかし、クリスの姉様はとんでもない人物じゃな。確かに軍では弾かれる訳じゃ」


 そんな達観したローザの言葉に、全員が頷いてるのも問題だぞ。

 

 「少なくともスコーピオの幼体が現れた時には使えそうね。後2年はないはずよ」

 「12騎士団の1つが、エルトニア王国の依頼を受けて拠点作りを始めているそうよ。基本は頑丈な砦と言う感じらしいわ。

 スコーピオとの戦に駆けつけた騎士団に効率よく資材を補給する為の基地って感じね」


 となると、俺達の弾薬が問題になりそうだな。

 要請があることを考えて、先方にコンテナで送っておくのも手かも知れない。


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