V-110 物流システムの新たな提案
8日程の航行を終えて俺達は中継点に帰ってきた。
戦機は見付からなかったけど、……まあ、これは仕方が無い。
南西の戦機発見現場周辺にはだいぶ騎士団が集まったが、見付かった戦機は結局8機だけだった。
喜怒哀楽を騎士団ごとに味わった事だろう。
やはり、戦機の発見は偶然の産物になるんだろうな。
「それで、リオは中継点に着いたら商会の人達と打合せをするの?」
「ああ、ちょっと物流システムに提案があるんだ。上手くいけば、カンザスが空を飛んでもバージを曳く事が出来るかもしれない。ダメでもそれなりのメリットがある筈だ」
ソファーの片隅でタバコを楽しんでいるとフレイヤが突然聞いてきた。
「おもしろそうな話ね。具体的には?」
カテリナさんの言葉に、スクリーンを展開して説明を始める。
さすがはドロシー、俺の意図を汲んで図面に仕上げている。
「コンテナという発想です。バージはがらんどうの荷台を持つ浮上装置と言っても良いでしょう。
このバージから荷台を取り去ります。そうすることでかなりの改造の余地が出てきます。カンザス用のバージには反重力装置の出力を上げれば良いでしょう。
そして、荷台はこのように平板にします。
この上に、長方体の箱を乗せるんですが、この箱がコンテナになります」
コンテナはそれ自体を鉱石荷箱としても良いし、この大きさに規格を作ってその規格内で荷物運搬用、冷凍食品の運搬用、真水や油も運べるように出来る事を説明した。
「なるほどね。コンテナの大きさを規格化することで荷役用重機も規格化が進むわ。そして、商会の取引も楽になるわね。さらには物流を規格化することに繋がるからバージターミナルの積み込みだって楽になるわ。
ターミナルでは鉱石を分別する手間も省けるわね。商会が飛び付きそうだわ」
「どうじゃろう。商会の賛同が得られたなら、王家に規格化を具申しては?」
「国家規格とするのか……」
急速に普及しそうだな。
新たな製品の大量受注と生産、そして販売。
商会が喜びそうな話だな。王国としても税の増収に繋がるだろう。
「それはローザに任せるよ。先ずは商会との打合せだ。先ずは彼らに利便性を説明しないとな」
「ならば、我も一緒じゃ。姉様も良いな」
そんなローザの言葉にエミーは微笑んでいる。
「でも、次ぎの日からは一緒に穴掘りですよ」
そんなエミーの言葉に口を尖らして抗議してるぞ。
そんな光景を見て皆が微笑んでいる。
仲の良い姉妹だからな。
次ぎの日。
マントと刀を持たない騎士の出で立ちで、中継所の居住区に向かう。
エミーとローザも同じような格好だ。
やはり、正式に会議に臨むならちゃんとした服装で行った方が相手にも良い印象を与えるだろう。
モノレールで居住区のターミナルに着くと、早速事務所に向かう。
カウンターのお姉さんにマリアンを呼んで貰えるように伝えると、待っていたかのように彼女が奥から現れた。
「お待たせしました。約束の時間には未だ間があります。こちらでちょっと待ってください」
そう言って俺達を近くの会議室に案内してくれた。
小さな会議室だが、タバコはOKって言ってくれた。
ありがたくタバコを楽しませて頂く。
先程のお姉さんが紅茶を持って現れた。マリアンは紅茶党だったか。
「資料は事前に読ませて頂きました。パテントは資料を送付して頂いた次ぎの日にウエリントンの特許局に提出してあります。
それから、2日後の今日ならば、商会が特許取得に走っても間に合いません。
先ずは、先手を取りましたよ。かなりのパテント料がリオ様に入るでしょう」
嬉しそうな顔でマリアンが教えてくれた。
パテントとは気が着かなかったな。
「売れると思う?」
「ラズリーは革新的だと褒めてました。物流の革命だとも言ってましたよ」
褒め過ぎじゃないか?
確かにコンテナ輸送は色々利点があるけどね。
「ところで話はかわるけど、前にプールを作る話があったよね。あれって凍結に成ってるの?」
「優先順位が低いだけで凍結ではありません。現在の中継点拡張、そして新たな桟橋へのビルの建設……、そんな急ぐべき施設建設が優先しているだけです」
確かに現状ではそうなるな。
でも、これでパテントが得られるならその資金を使って別の商会に仕事を渡すのも手じゃないのかな?
その辺りはついでに商会と話し合ってみるか。
「さて、そろそろ行ってみましょう。約束の時間の10分前です。ここからなら、5分と掛かりませんわ」
マリアンの後に付いて俺達3人は小さな会議室を出て、階段で下の階に向かう。
通路を少し歩くと、1つの扉の前でマリアンは立止まり俺達に振り向く。
どうやら、ここらしいな。
マリアンが開けてくれた扉を、俺が先頭になって入っていく。
俺の到着を知って、14人の来客が席を立つ。
「座ってくれ、俺はそれ程偉くはない」
彼らにそう言って用意された席に座る。
俺達4人が席に着いたところで彼らも席に着いた。
各商会の代表者が部下を1人ずつ連れて来たようだ。
「我等に御用とはどんな内容でしょうか? 現在、我等の商いは順調に行っております。中継点の拡張工事も今のところ何の問題もありません」
商会の連中はちょっと戸惑ってる感じだな。
一体どんな事を言って召集を掛けたんだろう?
「これから話す内容は、ヴィオラ騎士団のちょっとした課題を解決する目的でもあるんだが、それが実用化すると物流に変化が起きるかもしれない。
そこで、始める前に商会の目で、このシステムの導入に利点があるかどうかを判断して欲しかったんだ」
「物流システムですか……。今のバージシステムに、私は特に問題を見出せませんが……」
「いや、そうではない。リオ殿は、その問題点を見出して解決策を見つけたか、はたまた、全く異なる物流システムを考えたという事だろう。少なくとも現状よりは遥かに優れていると考えておいでだ。
だが、所詮個人の考え。それを実用化する時に問題があるかを我等に聞いておるのだ」
俺は一服しながら、そう言った商会の代表者を見た。
中々だな。全くその通りだ。
コーヒーが運ばれてきたのは、俺がコーヒー党だからだろう。
甘いコーヒーを一口飲んで、商会の連中を見渡した。
「早速説明したい……」
そう前置きして壁際に大きくスクリーンを展開する。
そして、ドロシーが作ったCGのアニメを交えて、コンテナを使った物流システムの説明を始めた。
「と言う訳で、この直方体の箱が全ての鍵になる。この直方体を積み込むバージ、台車、クレーン類が統一出来るだろう。更に、商会はこのコンテナを単位として取引が出来る訳だ……」
コンテナの規格を統一する事で、騎士団は荷が積まれたコンテナをターミナルに下ろし、新たな空荷のコンテナを積むだけで出航できる。
商会は鉱石ごとに異なる倉庫を持たずに済む。コンテナをそのまま倉庫に積めば良いのだ。
「コンテナに積荷のラベルを貼れば、そのまま1つの倉庫で管理出来ますな……」
「それ程大規模な改造にはなりますまい。小さな騎士団でも十分に可能ですぞ。しかも、工場の要求に合わせてコンテナを積んで高速輸送が可能です」
俺のプレゼンテーションが終ると、商会の代表者達が活発に意見を戦わせている。
「どうだろうか? この物流システムは役立つだろうか?」
「役立つどころではありません。物流の革命が起きます」
「ところで、このシステムを我等に話したという事は……」
「既にパテントを申請しています」
「場合によっては、ウエリントン王国を動かすつもりじゃ。そのコンテナの寸法と材質の統一規格を作るつもりじゃ」
ローザの言葉に商会の代表者が驚いて顔を上げた。
「既にそこまでお考えでしたか……。ですが、それでしたらなおの事都合が良いお話です。既に作りつつある外のバージ用桟橋、そして南のバージターミナルこれの完成に合わせて導入が可能でしょう。
中小の騎士団のバージの改造は時間が掛かるでしょうが、バージそのものはそれ程改造を必要としないでしょう。
コンテナは何百か標準タイプを作って商会から貸し出す事も可能です。目先の利く商会なら、無償で貸し出すでしょうな。商会が欲しいのはその中身ですからね」
「やってくれるか?」
「是非ともやらせてください。出来れば、100tを標準タイプとしていただけたらと思います」
100tバージを引く騎士団は多いからな。
問題は俺たちが200tバージを使ってることだ。100tコンテナを2台乗せられるようにしなければならないだろう。
新造しても良いけど、出来れば改造で済ませたい。
後で、ベルッドじいさんに相談だな。
「ところで、このパテントは我等に使わせていただけるのでしょうか?」
大事な事を思い出したように、発言した人物に商会の連中の視線が移る。
「リオ殿はパテントを申請しています。そして、そのパテントに王国が規格を付加しています。我等がコンテナを作るのは簡単ですが、使うにはリオ殿の許可が必要です」
今度は俺に視線が移ったぞ。
確かに気になるだろうな。
「パテント料は付けたいですが、それによってシステムの発展が阻害されても問題です。この収入も中継点の改修資金にしたいと思っています。製造コストの5%でどうですか?」
「消費税より安くするのですか?」
「それでもタダではありませんし、数が増えればそれだけパテント料が入ります。最終的には10万単位でコンテナが作られますよ。コンテナ1台当り千Lでも1億を越えるパテントが入ります」
俺の顔を呆れたように商会の連中が眺めている。
温くなったコーヒーを飲みながら、タバコに火を点けた。
そんな俺の仕草を見て、彼らもコーヒーに手を出す。
今まで飲むのも忘れていたようだ。
「しかし、知恵者ですな。もしも騎士団員出なければ私の商会の役員として迎えても十分に成果を出して貰えたでしょう」
「所詮、思い付きですよ。貴方達のように実際にそれを作り出すような腕はありません。俺はこのままで十分です」
どうやら、話合いが付いたと考えた商会の連中は世間話を切り出してきた。
「ところで、新たな西の桟橋に作る事務所なんですが、各王国の推薦する商会を1つずつ。残った区画は入札としたいのですが?」
恐る恐る俺に紹介の1人が提案を出してきた。
それって、俺が決めても良いのだろうか?
「そうですね。その案を騎士団内で確認しましょう。回答はマリアンに後で連絡します。俺としては、新たなホテルを1つにアパートが2つほど欲しいところです。だいぶ人口も増えてるようですからね」
「そうですな。学校も出来ましたが、教室が1つでは問題でしょう。その辺の工夫もしたいところですな」
人が集まるだけでは町は出来ない。そこでの生活を保障しなければならないのだ。
小さな町にあるもの全てを、この空間に作らねばなるまい。