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V-102 捕食者が何時も捕食者とは限らない


 朝食を済ませた俺とエミー、そしてローザとフレイヤはコーヒーを飲みながら、カテリナさんの話を聞いている。


 「攻撃の方法は分ってるわね。とどめを刺すのが爆弾と言うのが、ちょっと意外な話だけど、内部からの破壊は効果が期待出来るわ。

 爆弾は50kg爆弾の炸薬を3個合わせた特製爆弾よ。ちゃんと遠隔爆破のシステムを仕込んであるからスイッチを押さない限り爆発しないから安心していいわ」


 「ちゃんと当るんでしょうか?」

 

 フレイヤの心配顔に微笑むと話を続ける。


 「投下装置のセンターに合わせて投下スイッチを押せば、円盤機が自動的に最適な投下コースで接近して投下するわ」


 自動操縦装置と爆弾投下装置を連動したシステムを作ったのか。意外と後々まで使えるかも知れないぞ。


 「エミーはドレスダンサーの後方三分の一付近を狙う事。背中をV字型に2回抉れば深い傷が開くわ。出来れば抉った背中を吹き飛ばしたいんだけど……。リオ君、55mm砲で試してくれない?」


 「上手く行けば、1kgの炸薬でも効果があるかも……、という事ですか。了解です」


 ダメなら、レールガンと言う手もある。

 色々試してみるのもおもしろいかもしれない。


 「爆弾は4発作ってあるわ。現在、バージターミナルとドレスダンサーの距離は約100km。2匹の間隔は約10kmよ。時速5kmで東に進んでいるわ」

 「残り、20時間ですね。先ずは先頭のドレスダンサーを始末します。……さて、出掛けるぞ!」


 俺の言葉に、俺達4人が席を立つ。

 例のカプセルで移動するんだけど、これの問題点は到着後に直ぐマットからどかないと、次の人間が上から降ってくることだ。

 何とかならないものかな。

 先に降りて、次々と彼女達をマットから降ろしてあげる。

 

 エミーとフレイヤは艦後方へと駆けていく。円盤機の収容庫がカーゴ区域の後方にあるためだ。

 俺達が戦姫で装甲甲板に上がると、片隅に偵察用円盤機が待機していた。

 ムサシが装甲甲板に移動したところで、円盤機が上昇する。


 俺達3機はカンザスから飛び降りると、南に向かって滑走する。


 「このまま海辺まで向かうのじゃな?」

 「そうだ。そこから西に向かう。フレイヤが先行しているから何かあれば連絡してくれる筈だ」


 ムサシの滑走速度は時速80km程だ。

 少し滑空するような形で荒地を駆けている。

 

 アリスとデイジーは更に速度を上げられるのだが、俺達だけ先行しても意味は無い。

 ちょうど中間位置位だから、1時間も掛からずにドレスダンサーを直に見ることが出来る筈だ。


 「ドレスダンサーの真上500mに付いたわ。海辺から5km程内陸を進んでいるわよ」

 「了解。周囲にプレートワームはいるか?」


 「全く見えないわ。カンザスに付いて行ったみたいね」


 それなら都合が良い。

 ドレスダンサーだけに注意を注ぐ事が出来る。


 距離が20km程になったところで、休憩を取る。

 俺は、コクピットを解放して、アリスの手の平でのんびりと一服を楽しみ、ローザはジュースを飲んでいるようだ。


 「我が最初で良いのじゃな?」

 「ああ、横から狙ってくれ。触手が伸びるから100m以上離れるんだぞ」


 「分っておる。兄様は前からじゃな?」

 「ローザが始めてから、前に回るよ。出来ればとび出してる目を潰したい」


 デイジーもコクピットを空けているから、少し大声を出せば通信機はいらない。

 ローザが俺に手を振るとコクピットを閉じた。


 俺も、タバコを携帯灰皿に入れて火を消すと、バッグに納める。

 いよいよ、ドレスダンサーとの戦いになるのか……。


 デイジーが時速60km程の速度で西を目指す。

 腰を落としてレールガンを構えている姿は勇ましく見えるぞ。

 俺の方は、レールガンを両手で持ってデイジーの後方200m離れて滑走している。

 その後方をムサシが続く。

 

 「見えてきたのじゃ。大きさが実感出来ぬが、近付けば分るじゃろう」

 「ガリナム以上、ヴィオラ以下と思う他ないな。確かに実感が出ないよな」


 どうもウミウシの大きさがデフォルトになってしまう。 

 大きいのだろうが、周囲に比較対象物が無いから実感が伴わないのだ。


 『全長220m。体高は40m程です。カテリナ博士は触手の届く距離は体長の三分の一と言っていましたから、80m以内に近付かなければ良いでしょう』

 「そうだな。ローザには注意してあるからだいじょうぶだろう」


 そして、ドレスダンサーの姿が段々と大きくなる。ムサシは俺達から離れて、ドレスダンサーを大きく迂回して奴の後方に消えていった。


 奴の側面にデイジーが消えていく。

 配置に付けば連絡をしてくるだろう。


 「エミーです。ムサシの準備は完了です」

 「デイジーも位置に着いておる。あと、10秒で攻撃をするぞ!」


 いきなりだな。

 ドレスダンサーから200m程の距離を取ると、デイジーの攻撃を待つ。


 奴の頭部から斜め上に光が走る。

 始めたようだ。

 光が突き抜けるたびに、身震いするように体を振るわせる。

 

 口径40mmでも秒速4kmの弾丸だ。空気を圧縮して弾丸が白熱しているから光が走ったように見えるんだろう。

 そして、弾丸の周囲には大きな衝撃波が生まれる。それが大きく奴の体を傷つけている筈なのだが、原始的な体にはあまり効果が出ないように見える。


 ターゲットスコープに奴の目玉を捉えて、秒速4kmの弾丸を撃つ。

 目玉が弾け飛ぶと、残りの目玉を狙う。

 

 両目を潰したところで、弾速を秒速6kmに上げると奴のヌメヌメしたカタツムリのような足に向けて水平に数発撃った。


 「カートリッッジを1個使ったぞ。。今は2個目じゃ!」

 「あまり効かないな。ムサシに期待するしか無さそうだぞ」


 「姉様がやりやすいように、頭部に散発的に撃ってるのじゃ!」


 ローザがそういった途端、これまでに増してドレスダンサーが大きく震えた。


 『ムサシが斬りつけたようです。次の攻撃の後に55mm砲を撃ち込みましょう』

 「そうだな。ライフルを交換してくれ」


 アリスがライフルを交換している隙に、ローザに炸裂弾で攻撃する事を伝える。

 55mm砲を抱えてデイジーの後を回りこむようにして後方に移動した。


 ムサシがイオンビームサーベルを薙刀のように振りかざして、ドレスダンサーの背中を斜めに抉った。

 奴の背中長く体液を噴出しているスジが見える。


 そのど真ん中をローザがレールガンの弾丸を低い角度で撃ち込んだ。

 震えるというより悶えるような感じで奴が体を振るわせる。


 そんな奴のレールガンが抉った傷口に向けて、55mm砲の弾丸を全弾つるべ撃ちにする。

 炸裂した弾丸がムサシの抉ったV字型の傷を深く抉った。


 「フレイヤ!……出番だぞ!!」


 俺の声に、デイジーとムサシがドレスダンサーを離れる。数百m程離れて振り返ると、上空から、円盤機が急降下してくる。


 投下された爆弾がドレスダンサーの傷口に向かって落ちていくのが見えた。


 「爆弾は有効なのじゃろうか?」

 「こればっかりは、やってみないとな……」


 円盤機が急速上昇していくと、ドレスダンサーの背中が炸裂音と共に弾けとんだ。


 体長の後ろ半分がスプーンで切り取ったような感じで無くなっている。

 奴の苦しみ悶える姿は見るに耐えないが、急所と言うべき場所が無いから放置しておく他は無いようだ。


 「まだ動いておるぞ。とどめに、もう2、3発は欲しいところじゃな」

 「一旦、カンザスに戻って新しい爆弾を装着しなくちゃならないな」


 やはり、150kg爆弾では不足だったな。出来れば3倍は欲しいところだ。


 『カンザスから緊急連絡です。「プレートワームの進行方向が変わった。現在、そちらに向かって進行中」……以上です』

 

 まさかな……。


 「フレイヤ。こっちにプレートワームが向かってる。一旦、東に移動してカンザスと合流するぞ」

 「何ですって! そうすると、あの黒いのがそうかしら? 凄い速度でこっちに来るわ。北北東からだから、真東に向かえばだいじょうぶよ」


 了解を告げて、デイジーとムサシを先行させる。

 後ろの状況を見ながらアリスを殿に据えた。


 「しかし、何故急にプレートワームが移動方向を変えたのじゃろう?」

 「捕食者の立場が変わったのさ。何時もはドレスワームがプレートワームを食べるが、弱ったドレスワームはプレートワームに食べられるんだ。

 俺達が攻撃したドレスワームはかなりの深手を負っている。匂いか何かでそれをプレートワームの群れが知ったんだ」


 捕食者が常に捕食者であるわけではない。

 それは状況によって容易に立場が入れ替わる危ういものなのだ。

 

 1時間程掛けて少し離れた場所でカンザスと合流する。

 ハンガーにアリスを入れると、直ぐに俺達の部屋へと向かった。


 「おかえりなさい。上手く行ったわね」


 俺達4人がリビングに入ると、スクリーンに見入っていたカテリナさんが振り替えりもしないで俺達を労う。

 食入るように見てるのは、ドレスダンサーに群がるプレートワームの群れだ。


 俺達がソファーに座ると、ライムさんが冷たいソーダの入ったグラスを配ってくれた。早速一口飲む。……甘い柑橘系の味がするぞ。


 「円盤機の落とした150kg爆弾が抉ったところに群がってるわ。まだもがいてるけど、たぶん生きながら食べられてしまうわね」


 踊り食いって奴かな。

 まだ、生にしがみ付くように、体を震わせながら触手でプレートワームを体から叩き落している。

 だが、プレートワームの群れは巨体の周囲を真っ黒に取り囲んでいるから、ドレスダンサーが命の灯火を消すのは、そんなに遠くでは無いだろう。


 「もう1匹いるんですよね?」

 「そっちにも向かってるわ」


 そう言って、もう1つのスクリーンを展開する。

 そこに映っている光景は、巨体に踏み潰されているプレートワームの群れだった。


 「こっちは元気だから、向かって行ったプレートワームはあの通りよ。でも、私達にとっては都合が良いわ。

 このまま、しばらく様子を見ることでテンペル騎士団とも合意が取れてるから、少し休んで頂戴」


 俺達は顔を見合わせると、エミーとローザが席を立った。


 「数時間は掛かるでしょうね。私達はジャグジーで汗を流して少し部屋で休みますわ」

 「そうね。結構疲れたんじゃない。私もそうするわ」

 

 そんな会話をフレイヤとして、エミー達はジャグジーに向かう。


 「カテリナさん。あの爆弾、もう少し強力に出来ませんか?」

 「一応、あれが限界よ。騎士団の円盤機の爆弾搭載量は150kgとされている……。っ!そうね。ヴィオラ騎士団のリオ君は公爵だったわね。最大250kgまで搭載できるわ。でも、今回は無理よ。投下装置も改造しなくちゃならないわ」


 どうやら、貴族の私兵の持つ特例が適用出来ると考えてるようだ。

 だけど、あの円盤機にさらに搭載重量を増やすとなると、色々制約が出てこないか?

 俺の心配等気にした様子も無く、フレイヤとカテリナさんでその改造を話し始めたぞ。


 まあ、そっちは2人に任せておこう。

 今は、のんびりとタバコが楽しめれば良い。

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