1 大器晩成の四月 1
さあ、また新しい一年が始まる。
俺は、古い石造りの校舎、木製の階段を一段ずつぎしぎし鳴らしながら二階へ上っていく。
教師七年目になっても、新年度のこの瞬間だけは、妙に緊張する。
今年はどんな生徒がくるんだろう。そう考えると楽しみでもある。
まあ、その倍くらい「また大変な一年が始まるな」という気もするんだが。
特に今年は、この京都市立鴨川高校というなかなか個性ある高校へ転勤してきたばかりで、いろんなことが新しいことずくめだった。
二階教室。「一年一組」、木札のかかった扉の前で、一呼吸おいて扉を開けた。
入学式を終えたばかりの新入生たちの顔が一斉にこちらを向く。高一、まだまだ青さを残した顔、そして期待と不安の顔たちだ。
うん、きらきらしてる感じ、いいねえ。
俺は、教卓に手をついて、生徒たちを見回した。
さあ、みんな、新しい一年を始めようか。
まず、最初は簡単な自己紹介が定番だ。「テーマは好きな食べ物」
ど定番な感じだが、これだけでもけっこう、いろいろと情報がもらえる。
とりあえず、自分から口火を切る。
「名前は葉山将大。しょうだいと読む。このクラスの担任だ。国語科で一年の現代の国語を担当する」黒板に自分の名前を書く。
「将大って書くけど、俺が生まれた時、千三百グラムしかなかったんだ。だから親父が、小さく生まれても大きく育つようにって、「小大」と名付けたらしい」
教室から、少しだけ笑いが漏れる。
「でも母親が、それはあんまりだと言って『将』に変えた。ところが小学校、中学校と、ずっと背の順では一番前。周りからは、将大はいつになったら大になるんだ、と言われ続けた」
そこで俺は胸を張った。
「ところが大学に入ってから、急に伸びた。今は179センチだ」
俺は教室を見回した。
「誰だ、そこまで高くないだろって言ってるのは。十分平均越えだろ」
クラスから笑いが起きた。
「というわけで、大器晩成。あと1センチあれば、完全に大器と胸をはれたんだけどな。ちなみに好きな食べ物はチョコパフェ。大学時代はチョコパフェ研究会会長だった。以上、よろしく」
笑いも多少はとって、場を少し温めたら1組は30名、出席番号順に、最初は1番の天見空だった。
ショートカットの前髪から、猫の目を思わせる切れ長の目がのぞいている。
彼女はすっと立ちあがった。だが、両手は固く握られていた。
「天見空です。ソラって呼んでください」一度、息を吸う。
「好きな食べ物は……病気になった時に食べるりんごです」
妙な答えだった。けれど、その言い方があまりに真剣なので、誰も笑わなかった。




