ー第4節 死ぬためではなく生きるために明日もダンジョンへ、配信終了と共に訪れる新たな日々の始まり
第4節 死ぬためではなく生きるために明日もダンジョンへ、配信終了と共に訪れる新たな日々の始まり
夕暮れ時。
アパートに戻った相田は、久しぶりに配信アプリを起動した。
タイトルは『ただの晩酌雑談』。
開始と同時に、数万人の視聴者が雪崩れ込んでくる。
『待ってました!』
『英雄の帰還!』
『リッチ倒したってマジ!?』
『顔色が良くなってて草』
コメントの嵐。だが、相田はいつものようにマイペースだ。
「どうも、相田です。世界を救ったとか言われてますけど、私はただ喧嘩売ってきた骸骨を黙らせただけなんで、気にしないでください」
画面の向こうで、何千人もの人々がズッコケたのがわかった。
「今日は半額のアジです。これがまた美味いんですよ」
相田はカメラに向かって刺身を見せびらかし、嬉しそうに食べる。
その姿は、英雄などではなく、どこにでもいる幸せな男だった。
視聴者たちは癒やされた。
どんなに世界が混乱していても、どんなに明日が不安でも、この男が美味そうに酒を飲んでいる限り、世界は大丈夫な気がする。そんな謎の安心感が広がっていく。
「さて、明日はどうしますかね」
相田は独りごちた。
貯金は相変わらず心もとない。家賃の更新月も近い。
就職活動もしなければならないかもしれないが、今はまだいいだろう。
「またダンジョンに行きますか。美味い肉が落ちてるかもしれませんし」
死に場所を探すためではない。
明日の糧を得るために。
最高の晩酌を迎えるために。
『我らは行く。欲望の赴くままに。この世は巨大な宴会場だ』
毛玉が相田の肩によじ登り、画面に向かってプルプルと震えた。視聴者には見えないが、その意志は伝わっている気がした。
相田は最後のビールを飲み干し、カメラに向かって手を振った。
「それでは皆さん、良い夜を。そして、明日も美味い酒が飲めますように」
配信終了ボタンを押す。
プツン、と画面が消える。
部屋には静寂が戻った。
だが、それは孤独な静けさではない。
「師匠! 洗い物しておきますね!」
キッチンから麗華の元気な声が聞こえる。
膝の上には温かい毛玉がいる。
相田は畳に大の字に寝転がった。
天井のシミを見つめる。かつてはそれが絶望の象徴に見えたが、今はただの模様にしか見えない。
「……さて、寝るか」
相田悟、二十七歳。無職。
彼の人生は、ここからが本番だ。
苦味も渋味も全部飲み込んで、彼は明日もまた、ふらりとダンジョンへ出かけるだろう。
最高の「おつまみ」を探して。
――完




