EP28 ぷー太郎、異世界にて楽しむ
サーカスの始まりは、十八世紀に遡る。
英国人のフィリップ・アストリーが円形のリング内で乗馬してのアクロバットを披露したのが始まりとされている。この円形リングの直径が十三メートルであり、この数字が現代の世界共通基準の原型になっているのだとか。
こんな知識があったところで、一度としてサーカスを見に行った記憶がない俺である。学校で時たま割引券を貰ったような気もするが、わざわざ行く気にはならなかった現代っ子なもので。
「はあ……休みって訳では、無いんですね?」
そんなサーカスに、行くことになったのだ。まさかの仕事で。
「ああ。息抜きではあるが、護衛は任務として扱う都合な……我々としては、君達に仕事を押し付ける立場にあるのだから。美味しい役回りくらいは、率先して回す良くできた上司なのさ」
執務室のソファに腰掛けてアドリアンさんの言を右耳から入れつつ、秘書さんが出してくれた紅茶を啜る。処刑隊の隊長として報告に赴けば、こうしてさらりと新たな仕事を与えられるのだから、やっていられない。
「口ばかりは達者なのは、確かに組織の上に立つ者という感じはしますね」
「言ってくれるな。そういうのならば、花街の側に回しても良いのだけれど?」
「まだ済んでいなかったんですね」
「厄介なのさ、ああ言うのは。社会と密に関わり過ぎていてな……下手に触れて、貴族連中といざこざを起こしたくも無いからな」
「です、か……」
アドリアンさんの話に適当な相打ちを返すと、空間を沈黙が支配した。彼が喋りながらも行っている書類作業の音が近く、遠くからは慌ただしい人の活動音が響いてくる。
今回、言い渡された指令は、ここ王都よりもセントリア領に近い小規模都市で開かれるサーカスの観覧だ。俺一人ではなく、ニホニさんと共に。特に某を行えという指令もないため、目的を何と定めているのかは知れないが、厄ネタがあるに違いはない。保険的な枠割であると信じたいが、果たして。
「………………では」
鳴り止まない静寂に話すこともないのだと判じた俺は、立ち上がり出口へ向かう。アドリアンさんは仕事の手を止めないままに、「そうだ」と明らかに今思い出した風でもない落ち着いた声音で追記する。
「レイズだが、今後は使用を禁止する。公式的に使用禁止の決議が行われたというのもあるがね、ノエルに怒られてしまった。お大事にね」
「わかりました。では、後日返却に来ます。……いつからヤブ医者になったので?」
「クワック・サルヴァーかい? 生憎と、そうした役柄を名乗った試しはないな…………私はね」
フッと鼻で笑うアドリアンさんは、どこか想いを馳せる乙女チックな空気を見せていたが、そうした何かを語りたいと言った雰囲気を醸しているからと問うというのも乗せられている気になり癪だな、と。俺は一抹の未練を心には抱えれども、「では」と扉を開いて執務室を後にした。
それから、数日が経過した。
サーカスが来ている小都市は、名をタニシアと言う。街並みも往来を行く人々も至って平凡で、特徴らしいものを見受けられないその街は、しかしだからこそだろうか、どこか哀愁にも似た心地を与えた。
俺は聖堂塔前の広場、その隅にある花壇に腰掛けていた。今年の正月に引いたくじに何と書かれていたのかはもう覚えてはいないが、待ち人来る、と期待しておこう。
広場の向こうには赤と白のストライプの巨大なテントが鎮座しており、付近からはガヤガヤと賑わいの声が雑踏と共に響く。大人から子供まで、老若男女の区別をせずに人を惹きつけるあのテントこそがサーカスであった。
「すみません。お待たせしてしまいましたか?」
そんな中、トトトッとこ気味いい急ぎ足の音を打ち鳴らしながらも近付いてきた彼女は、心配そうに、問うてきた。
「いえ、待ってはいませんよ」
答えながらも声の方へと視線を動かせば、嫌でも目を奪っていく美しい金の渓流。たはは、といつでも困ったような微笑を浮かべている彼女こそはニホニ・フォニィであった。
駆け寄ってくる彼女は王立騎士隊の制服に身を包み、腰には左右にバインダーを装備しており、どうやら武器の類いを携帯しているのだと見える。思いがけぬ完全武装に一瞬、気圧されたものの、しかし思い返してみればこのサーカス観覧はあの仕事人間・マシーン職業斡旋場なアドリアンさんが齎したものなのだから、魔族関連のものであると気を引き締めておかねばならなかったのだ。つい、久し振りの心安らげる日に気を緩めて、彼と相対している最中の緊張を忘れてしまっていた。
まあ、レイズの使用が禁止された今、俺にできる準備など心持ち以外には何も無いのだが。
「……重装備ですね」
「はい……モースさんより、装備の重さに慣れるようにと言われてしまいまして。見た目程は重く無いんですよ?」
「へぇ……俺は、どうにも武器の類いは上手く扱えず、姿などは相も変わらずにこうした形ですよ」
「私だって、別に得意って訳じゃないですよ? フェンシングなんて、習っていませんでしたから」右手を突き出して、それっぽいポーズを取りながらニホニちゃんは続ける。「でも、こうなっちゃった以上、やらなきゃ嘘じゃないですか!」
立ち上がり、サーカスのテントに向かう。
そんな、ありふれた日常の中であることが、今はどうにも座りが悪い。俺もニホニちゃんも、互いにそうした人間ではなかった筈なのだから。この世界に来て、郷に入って郷に従う……しかし、従っている間に慣れてしまい、歪められた価値観は己に既定されてしまう。
「………………」
こうした些事に心動かされ、一喜一憂を支配されてしまっているから俺は、英雄たる器になれないとは理解しているのだから。変わらず、変われない。
「戦わなくとも、良いのですよ」とは、心に思えど声に発して彼女へと伝えられはしなかった。彼女の選択、一体何を考え感じて心変わりしたのかは知れないけれど、一度これと心を決めたのならば横合いから口を出すべきではないだろう。尊重、だなんて重たい言葉を遣うのも違うのだろうけれど、俺の乏しい語彙ではそうした表現しか出来やしない。
それから一つ、二つの益もなければ不益もないような、最近の話とか昔の話とか、そうした話を脈絡なく繋げながらテントの中へ侵入する。チケットは、ニホニちゃんがアドリアンさんから預かっていたお金で購入した。ニホニちゃんが支払いを済ません中、背後で待っていると、何だか彼女にお金を払わせるヒモにでもなったような情けなさを感じたり……。
騎士隊の制服を着た二人組に、受付の女性は一瞬ギョッと驚いた顔を見せたものだが、すかさず「仕事をサボっているんです。秘密で、よろしくお願いしますね?」と小さく告げれば、その表情は緩んだ微笑へと戻った。警察が制服のままコンビニ等で買い物をするとウダウダと文句を口にする人がいるように、身分を示す服装はそこにあるだけで意図の有無を言わさずに身分の持つ力を振り撒く。犯罪の抑制に繋がる一方で、無意な緊張を走らせるのも、やはりまた事実ではあるのだろう。
そんなことは、横に置いておいてだ。
「何やるんですかね〜!」
「ですね、ですね!」
俺達は、何気に期待に胸をときめかせて席に着いた。どうやら自由席方式らしく、運良く二人横並びで座れたが、後で見てみると最後尾の列で立っている人もいた。
テント内は中央の舞台と、それを取り囲む形で客席が五段に渡り設置されている。視線を上に向ければ、どうやら天幕の中心部には結界の発生装置が取り付けられているようで、安全性に関してはしっかりと配慮が行き届いているようだ。結界に限らず、魔術に関する知識は未だ発展途上にあり、仕組みの程は知らない。
売り子からホットドッグを二つ買い、食べながらも待てばサーカスは長く待たずに始まった。
軽快な挨拶から始まった舞台は、空中ブランコや火の輪潜りなどテンプレート的なものから、魔術を用いた火の玉ジャグリングからの花火や、恐らく光の屈折を操る魔術なのだろうか……イルミネーションじみた出し物までが行われたのだ。正直に話してしまうと、俺はあまりの興奮からずっと叫んでしまった。隣のニホニちゃんも同じだった。
現代でも行われているサーカスと言えば、といったものも観覧でき、更にはこちらで独自発展した魔術を用いた芸までも目に焼き付けられては楽しくないとは口が裂けようとも言えない。敢えて言葉に表して、「滅茶苦茶楽しいですね!」なんてチャチな表現をしても、燃え上がった気持ちは人の深層心理を表層に押し上げて、「ですね!」といつになく快活な返事がニホニちゃんから返される。
芸は佳境を迎え、テントの明かりは落とされた。
薄暗いテントの中、司会は声高々に語り出す。
「皆様、本日はハトホルサーカスにお越しいただき有り難うございます! 皆様の熱気も最高潮を迎えた今! 我らが団長はハト・ホルによる一世一代の大芝居を行いたいと思います! さあさあさあさあ御覧じろ! どうか目に焼き付けてください、どうぞ!」
司会の声が終わる間際、スポットライトが天幕を照らし、その中央に一つの影が伸びている。片手を上げるような仕草の後、影はふっと前へと踏み出した。あわや落下と見えるや、落ちる軌道は円弧を描いている。どうやらライトの逆光で視認できないものの、空中ブランコがあるらしい。
そして、描いた弧に従いテントの中央へ近付くにつれて肥大した影は、舞台上へと着地する時には一回り……いや、二回りは大きなものへと変じていた。演出のためだろう、いつの間にか撒かれていた舞台上の粉を舞い上げて着地したハト・ホルの影は、粉煙の向こうで歪んでいるにしても、人としての形すらも保ってはいない。
「ニホニちゃん!」
「はいっ!」
粉煙が薄まり始めて動き出したハト・ホルに、一瞬遅れて俺達は動き出す。席を立ち上がり、舞台へ向けて駆け出した頃には振られた左腕が客席を薙ぎ倒しながらも接近していた。莫大な破壊音に混じり聴こえてくる困惑と恐怖の叫びは、しかし未だ一部に収まっている。
踏み出した右脚に力を込めて跳躍することで腕による薙ぎ払いを避けつつも、舞台上へと転がり込む。振るわれた腕の風圧により退けらて、粉煙の中でハト・ホルの姿を目撃する。
肩口から頭部を巻き込んで変化した角は巨大で、頭部を巻き込んでいるためか目や口など顔のパーツが所々に付いている。左右に伸びる腕は非対称であり、ティラノサウルス・レックスのような小さな右腕と第三の脚とも言える程の巨大な左腕。身体全体を包む黒毛はさながら炎のようで、本能的な危険を脳内の鐘が打ち知らせていた。
魔族の怪物態——だが、どうしてだろうか。異形に違いはないハズなのに、心霊写真のように、どこか歪められただけの人間という感じがするのは。
「私が行きます!」
言うや早く、俺を抜いて加速を掛けたニホニちゃんはハト・ホルとの距離を詰める。腰のバインダーは展開され、内部から取り出された細剣は遊びのない鈍色の輝きを見せた。俺も追いつこうと一歩踏み出し、腰へと腕を回すがしかし、そこにある筈のレイズは既に返却・使用の停止を求められており、今の俺に戦う力などというものは残っていないと気付かせるのだ。
一瞬の逡巡の末、俺は踵を返して客席へ舞い戻る。客席内は既に混乱が巻き起こり、我先にと逃げ惑う人々によって出入り口の前はごった返しになっていた。
「王立騎士隊です! 落ち着いて! 一人ずつ、確実に避難してください!」
声を上げても、周りの声に掻き消されて広がらない。それに、混乱しているとは言えど、開かれない扉に不信を感じ数秒観察すれば、どうやら最前線の彼らが扉を開こうと足掻いているものの、扉はガンとして沈黙を貫いている様子だ。
思い至るのは、結界の発生装置。
准教授の一件の報告書にあったが、結界というものは内と外とを別ける都合、様々に応用できるらしい。准教授との戦闘では自らに有利な場面を作るに扱われたらしいが、今回はより単純に、監禁の結界として用いられているようだ。
ならば、今の俺が為すべきはあの装置の破壊にある。
見上げた装置は、設置・整備のための足場が一本繋がっており、そこは舞台裾の側から行けるらしい。しかし、位置は対角上……向かおうとすればハト・ホルに捕捉されるのは目に見えている。
「………………いやッ!」
だとして、狙われたのであればニホニちゃんの負担も少し減る。俺は客席伝いに舞台裾を左回りで目指した。
舞台へ視線を向ければ、ニホニちゃんの突きをハト・ホルがあの超大な左腕で受けていた。硬質な皮膚、浅く表面に刺さるのみに見えた細剣であったが、ニホニちゃんが握りを強めるやその刃は柄から射出され、ハト・ホルの腕へと深々突き刺さる。
後退しつつも剣身を失った柄をバインダーに納めれば、抜剣時には再び剣身は不適な輝きを取り戻して。再度距離を詰めるべく進むニホニちゃんへ、ハト・ホルが左腕を巻き上げる形で逆風に振り上げたが、まるで先の動きを読んでいたように身を翻したニホニちゃんは、通り過ぎる腕——先程は手の甲の辺りであったが——の肘辺りへ刃を深々刺突する。
距離を取らず納剣・抜剣し、剣身を新たにするや勢いはそのままに攻めるニホニちゃん。だが、ハト・ホルはどこを見ているのか知れない頭部で俺の姿を捉えたらしく、垂直に跳躍し向き直れば、俺の直上へ左腕を振り下ろした。
強く踏み込み退避しようと試みるが、間に合わない。
心には思いながらも何故か必死に舞台袖を目指す俺の頭上で、迫る左腕は一瞬、輝きに包まれたかと思えば炸裂した。迸った稲妻は、辿れば源流をニホニちゃんに持ち——その力、その姿は正しく勇者のそれである。
「助かった!」届いているかは知れないけれど、口にして舞台袖を目指して駆ける。「……嫌になるね、ああも晴々とした姿を見せられると。ジェラシー、感じてしまうよ」
辿り着いた舞台袖には、茫然と眼前の光景を目にするサーカス団の団員達がいた。信じられないと姿が語り、あり得ないと目が泳ぐ。
俺は、最も近場にいた派手な格好の少女に定めて、片膝を突き、腰を抜かしてへたり込む彼女と視線を合わせた。
「すまないが、天井の装置を止めたいのだけれども。あの装置へは、どう迎えば?」
成る可く聴き取りやすいようにと、ゆっくり優しい声色を心掛けて口にする。
「あ……えっと、そこの梯子から…………上へ……」
反射なのだろう。俺の質問に、少女は傍にある梯子を指差して答えた。
「ありがとう。さ、もっと奥に……君が怪我をしては、俺は悲しいよ」
支えながら立ち上がり、奥へ逃げるように促している最中である。脊椎に沿ってザラザラの、猫の下で舐め上げられるような不快感が走ったのは。
そして、俺はその感覚を知っていた——こちらへ来て、幾度となく味わって来たが故に。
「さあ、早くッ!」彼女に語り掛けながらも振り返れば、寸前に巨腕が迫っていた。回避の選択は取れない。ハト・ホルの背後で瞬いたのは、ニホニちゃんの雷霆だろうが……間に合わない。拳の方が早く、俺に直撃する。受け止めれば、背後の彼女は逃がせるか? 止まるだろうか?
様々——考えは頭を巡るけれど、取れる択など実質的に一つ限りであった。
振り返り際に捻った上体に合わせて、左足を軸に回転して上段に構えた右脚で受ける。接撃と同時、体内を駆け巡った振動は内から鼓膜を揺らして、みしり、と明快な破壊音を響かせた。
「クリスタル——」
喧しい程に主張してくる痛みを噛み殺しながらも、声を絞り出す。意味はない。ダブル・ダウンの形態に無い俺が扱おうとしても、体内に魔力が流れていない以上、それを扱うこともまた不可能なのである。
しかし、そんな潰れた声であっても、ハト・ホルは俺との接触を避けるように後退した。そして、導かれるようにニホニちゃんの雷撃をその身に受ける。
格好付けで続けてきた技名を叫ぶ行為が、情報通の中で広がり、カンダ・ライトという存在と共に拡散されていたのだろう。だから、クリスタル・ストライクの予兆に対して反応し、回避行動を取った……細かな積み重ねの勝利、と言ったところだろうか。
だが、こうも虚しい勝利もない。例え一時生き残ったとて、脚が動かなければ逃げも何かを成すこともできやしない。
「………………例え……」ハト・ホルは、尚もこうして俺を狙って攻撃を仕掛けてくる。「……例え王の採決であれ………………私は…………このピエロは……民を…………ッ!」
ハッとさせられた気分だった。
それは、そうだ。その通りだ——彼にとって、いや彼らにとって俺は……。
「……ああ、そうだねピエロ。君の行為、その正しさは私が保証しよう。君の正気と共に…………」
回り込むようにしてピエロというらしい魔族と俺の間に割り込んだニホニちゃんが三度の雷霆を放ち彼を後退させ、そのまま押し込む形で俺から引き離していく。俺も、泣き言をいう身体に鞭打って這いずりながらも団員の少女が教えてくれた梯子へ向かって身体を進めた。
一歩、腕を進めた時だ。俺の身体の右側へ回り込む影があり、立ち上がらせるや肩に手を回した。
「キミ……」
先の、団員の少女だった。
「アレを……どうすれば良いんですか⁉︎」
「危険だ! 君は逃げているんだ!」
「もう遅いですよ! さあ!」
恐怖に陰る表情ながらも奮い立つ姿を見せられては、それ以上、何も言えなかった。
「……破壊する。そうすれば、観客だけでも外へ逃がせる。それからは、それからだね…………そしたら、君も逃げてよね?」
「破壊………………なら、吊っているワイヤーを降ろせば! 落っことして壊せ……ます、よね?」
「どうだろうねぇ……でも、やってみる価値はあるだろうね」
少女の肩を借りながらも進み、雑多な道具類が置かれている場所に辿り着く。そんな中、支柱らしき太い柱にひとつのレバーを見つけた。回転式のハンドルに歯車、そして伸びるワイヤーを目で辿ればテントの中央へと伸びている。
「これです! これの、留め具を外せば……」
そう口にしながら歯車に挟まる形で回転を止めていた留め具を外せば、巻き付けられていたワイヤーは空を裂く音を打ち鳴らして伸びて、続きテント中央からガチャァンと炸裂音にも似た音が響いた。
「これで……」祈るように呟いて戻れば、やはり読み通りに観客は我先にとテントを飛び出していく姿が映る。初撃で多くの被害を出してしまったが、これで、どうにかこれ以上の被害は防げるだろう。
「君も、さあ早く」肩を貸してくれた勇敢な彼女にも、逃げるようにと促すが、彼女の瞳は吸い込まれるように舞台上に向かって「いえ、もう……終わります」とポツリ。
誘われるように視線を動かした俺の目に映ったのは、跳躍するニホニちゃんと地のピエロ。ニホニちゃんは剣を高々と掲げており、剣身は光り輝く雷光を纏い本来の長さ以上のものとなっている。対するピエロは、見ていない間にも相当の雷電を受けたのであろう。体毛を超えて負った痛々しい火傷の数々を抱えながらも、全身を捻り左腕を打ち上げた。
決着は、一瞬の違い。
ニホニちゃんの放った雷が——恐らく、打ち込んでいた剣身は避雷針の役割を果たしているのだろう——まるで狙い澄ましたようにピエロの左腕からその身体をひび割らせたのだった。
数日が経ち、俺が別件の報告で騎士隊の本庁へ出向いた時だ「——あぁ⁉︎」再び、サーカス団の少女と出逢ったのは。
互いに驚きの声を上げ、そして笑い合った。
「こうして再び出逢ったのも何かの縁です。どうです? どこかで、お茶でも」
「えぇ。では、エスコート……よろしくお願いしますね? ……えっと?」
「カンダ・ライトです。そちらは?」
「シェセムです。では、折角なので甘味があるところをお願いします」
「お任せを、フェア・レディ」




