④ 肩入れする魔女
雪子は「照和」の研究所の地下2階に戻って来た。
しかし、何だかあの吉川正義のことが、気になって仕方がないのである。
「ひょっとして私、遅れて来た思春期なのかしら?」
そんな独り言さえ言ってしまうほどに。
思春期の少女にありがちな、❝ちょっと悪そうな男に魅力を感じてしまう❞症候群?そんな病気はないけれど、その傾向はよく聞く話である。
えっ、この私が?そんな誰にでもありふれた事になっているの?
自分の事ながら、にわかには信じられない雪子であった。
そしてまた、気になって吉川組のその後の歴史を調べてしまう。
あら、コレはちょっとマズいわね。
その中で、気になる状況を見つけてしまった。
もう一度行くしかないわね。
目指すは、先ほどの昭和の時間軸の1年後、山城組との紛争の場面だ。
場所はまたしても、例のコンテナ埠頭だった。
装置の座席に着くとスイッチを入れた。
吉川正義は困っていた。
色々なブツのやり取りに、この港のポイントは必要不可欠なのである。
それを山城組が急に「ウチのシマだ。」とかぬかしてきた。
彼としては、できるだけ先方と穏便に話し合いを進めたかった。
しかし、血の気の多い若い衆どうしが、ドンパチを始めてしまった。
そして、最早収拾がつかない状況になっていたのだった。
事態はもう、どちらかの組をつぶさなければ収まりそうもない状態だった。
吉川組長が物陰で頭を抱えていると、後ろから肩をトントンする者があった。
彼がギョッとして振り返ると、セーラー服の魔女が笑顔で立っていた。
「ああ、アンタか。」
「お困りの御様子ね?」
「まあ、困っているのは確かだ。」
「随分騒がしいじゃない?」
「実は他所の組と抗争になっちまって…。」
「貴方さえ良ければ、私がなんとかしてあげようか?」
「すまねえ。頼めるかい?」
「いいわよ。任せて。」
そう言うと、雪子は何のためらいも無しに、拳銃をバンバン撃ち合っている、吉川組と山城組の真ん中に歩いて行く。
そして双方のちょうどド真ん中にたどり着くと、そこで両手を振り上げて、全ての拳銃の弾丸を空中で止めてしまった。
紛争の真ん中で、セーラー服の少女が、異常な事をやっているのに気づいた双方の組員は、一斉に銃を撃つのをやめた。
あたりはすっかり静かになった。
彼女が腕を降ろすと、空中の弾丸も全て地面に落ちた。
「さて、ここにお集まりの皆さん、ちょっと聞いて下さるかしら。」
雪子は声を張り上げた。
「吉川組が使っていたこの港を、山城組も使いたくなった。そういうことよねえ?」
周りの者は皆、黙ったままだ。
「仲良く折半てことにはできないのかしら?お互い、イイ大人なんでしょう?」
まだ誰からも返事は無い。
「双方の代表者、出てきなさいよ。」
すると、その言葉を受けて、先に吉川正義が物陰から姿を晒した。
とたんに反対側から、一発の弾丸が彼に向けて発射された。
しかし次の瞬間、雪子がそれを空中で止め、弾の向きを逆にして、正確に発射された方に返してしまった。
「ギャアアア!」
物陰で悲鳴が上がる。
「今みたいな卑怯者は、何度でも同じ目に合せてあげるわ。どうする、まだ誰か試してみる?」
雪子が叫ぶと、反対側からも動きがあった。
「わかった。もう撃つな。」
出てきたのは山城組の組長、山城孝之だった。
少女を挟んで二人の組長が向き合う。
「アンタが噂の魔女かい?」
先に山城組長が口を開いた。
「そうよ。そして私が吉川組のお目付け役のような者よ。どう?私の提案を受け入れて下さらないかしら?」
「仕方がねえな。」
「男に二言は無いわね?」
「無い。オレだってもともと、戦争を仕掛けるつもりは無かったんだ。」
「吉川さんはどう?それでいいかしら?」
「ああ、仲良く半分ずつってことなら。」
「じゃあ、これで話はついたわね。どうやら死人も出ていないようだし、ドンパチはもうお終いにしましょう。」
「わかった。」
そう言うと山城組長は子分を集めて帰って行く。
「ああ、ちょっと待って。」
雪子がそのうちの一人を呼び止める。
そしてチカラを使って、先ほど太ももに突き刺さった弾丸を、取り出してやった。
「もう、オイタはダメよ。後でちゃんと消毒しなさい。破傷風になるわよ。」
それから雪子は、帰る面々に向かってもう一度大声を出した。
「もしも私との約束を破ったら、皆殺しにしますからね!魔女はいつでもどこでも、あなた達を見ているからそのつもりで!」
「それじゃあ、これで失礼するわね、吉川さん。」
「ああ、いつもすまねえな。」
「未来のパートナーのためですもの。どうってことないわよ。」
「…ああ、そのことだけど。」
「また今度お話ししましょう。またね。」
そう言うと雪子はフッと消えてしまったのだった。
吉川正義は途方に暮れた。
「やれやれ、とんだ押しかけ女房だな。」
彼はつい、独り言を言ってしまうのだった。




