魔術書を一緒に読む2人、そしてプロポーズ
ソファに座ってコーヒーを飲んでいる私の目の前に、ルーイの魔術書が置いてある。私には触らせないと言っていたはずなのに、なぜあるのだろうかーー。
「今日は、アリアと一緒に魔術書を読んでみようと思ってな」
ほぉ。今日は、あの何を書いてあるのか分からない謎の魔術書をルーイと一緒に読むのか。私は、触らないでと一応一度言われているので、無闇に本を開いて読んだりするのは辞めた。それよりも、今朝のこのコーヒーは、とても、美味しい。
すっと私の横に座ったルーイは、今日は藤色のワイシャツと黒いスラックスを履いている。私は、オペラモーブ色、淡いピンクのワンピースだが、先日ルーイに褒められたことが嬉しくて長い髪をポニーテールに結っている。正直、この方が、頭が重くなくてスッキリして生活しやすいのだ。
「じゃあ、魔術書の30ページだが……」
ルーイは早速、本を開いて、私に説明をし始める。その姿はまさに先生のようで知的な雰囲気が漂っている。よく考えたら、魔術師のルーイってめちゃくちゃ頭もいいんだよね。初等部の頃の成績はどんな感じだったんだろう?
「あ、あの。ルーイって、小さい頃から成績はものすごく良かったの?」
「あ? ああ。王家のフィンリーと一位争いをするくらいだった。幼い頃は王家を守る護衛のため、そして、魔術師としての魔力を鍛えるために、よく第二王子のフィンリーとは一緒に過ごしていたが……。今思うと俺の方が賢かったかもしれないな」
だからか! 何かすごく余裕そうな顔で私に教え始めるもの。
「それで、この回復魔法だが、回復魔法というのは、ポーションという薬をまず作れるようになることが大切と書いてある。ポーションは使ったことがあるか?」
「あるけど、全然出来が良くなかったから、それ以来使ってない」
「分かった。醸造したりと作り方は色々あるのだが……。アリアにはまず、薬草を小さく切り粉状にして、それをお湯に溶かして作る簡単なポーションの作り方を教えよう。ページは45ページ……」
ルーイは淡々と本に書かれている内容を私に話してゆく。魔法の座卓の授業は大学までもあったけど、なかなか実技に活かせることが少なかった。しかし、こうしてルーイという優秀な魔術師の横に並んで直接学ぶと、言葉がスイスイと頭に入ってきてイメージできる。
「どうだ? 分かったか?」
「うん。すごい。ルーイに魔法を教わると、具体的にイメージが湧き上がってくる!」
これも、感じれば感じるほど魔力が上がる体質になったおかげなんだろうか。いや、それがなくても充分に分かりやすくて、わざわざこんな体質にしなくても、私は魔力を上げることができたんじゃないかと思い始めた。
「ね、ねぇ、ルーイ……」
「なんだ?」
「ど、どうして、わざわざ私の身体をこんな体質にしたの? 敏感に感じやすくして、感じれば感じるほど魔力が上がっていくって……」
「ーー」
ルーイは黙り込んだ。これと言った理由はやっぱり無かったのだろうか。
「魔法が下手なやつの魔力を上げる簡単な方法が、これだから強引にここまでしたんだ」
本当にそれだけ? 私にはルーイが、私に好意があるからここまでしたかったように思えるのだけど。だって、身体を敏感に感じさせる魔法、そして、そう言う体の関係になること自体、もう普通の関係性じゃないじゃない? 私の魔力を上げるため、それだけにそうしたとは思えない。ルーイは口ではこう言っているけど、絶対違うよねーー。
口ではなかなか私のことを好き、愛してると言わないけれどルーイが私のことを溺愛しているのはもうバレバレだった。
「ああ、もう、いいだろ。今日は辞めよう」
そうして私がいつになくどうして? と迫っているとルーイは取り乱した。ルーイは私のことを好きだからこうしたの一言が言えない。素直に私のことを好きと言って欲しい、それだけなのに。
「分かった。ちょっと散歩してくるね」
私は家を出て、外を散歩して気分転換することにした。初対面の時のあの感じ。まるで始めから私のことを狙っていたようにすら思える。
私が外を歩いて気分転換していると、フィンリーとカミラが一緒に歩いているところを見つけた。婚約破棄されて、魔法使い失格を言い渡された私。幼い頃から、フィンリー王子の婚約者になるために側で頑張ってきたつもりだったのに。まるで誰も私の努力をわかってくれないようだった。その時の悲しみが込み上げてくる。
するとその時、背中から手を回され、ぎゅっと抱きしめられた。誰と疑問に思うまでもなく、それは、ルーイだった。
「アリア。俺はフィンリー王子の側で努力してきた魔法が下手くそなお前のことが好きだーー」
「えーー?」
突然の告白に目の前が真っ白になった。私のことが好きーー。やっぱりルーイは私のことが好きだったんだ。安心感で満たされた。
「結婚して欲しい」
fin