作戦開始
私たちが次に挑戦したのは、どうやってELEVENタワーの事故を止めるかということだった。
工事現場に直接出向いて「作業をやめてください」と訴えるのは現実的ではない。忍び込んで機材を壊すなど到底無理だし、仮に止められたとしても、その後の問題が大きすぎる。
「一番とっかかりやすいのは、時田さんに出したような予言メッセージをSNSで拡散する方法かしら」
「しかし、ただ発信しても広がらないだろう。事故の後なら騒がれるかもしれないが」
佐藤宙の言葉に私は頷き、言葉を継いだ。
「単なる井上のアカウントでは広がらないでしょう。でも、インフルエンサーを中心にメッセージをばら撒けば違います。今日起こるニュースを先読みして並べ、その最後にELEVENタワーの事故を告げるんです。世間で騒がれれば、1日だけでも作業を止められるかもしれません」
『ただ11時までだから、通勤時間を利用して噂を広げたいところだな』
フランツが面白そうに相槌を打つ。
日廻永遠は苦笑した。
『工期の問題もあるから、作業を止めるのはよほどの事情がないと難しいけど……。
まあ“騒がれたせいでより慎重に作業し、その結果事故が起きなかった”でも、目的は果たせるか』
現場側だった立場として、彼にはこの作戦に思うところがあるようだった。
「インフルエンサーが朝から動いてくれるかどうかですね。すぐ反応して騒いでくれる人がどれだけいるかが勝負」
マーケティング経験のある土岐野が悩ましげに呟く。
「それって、天さんとかですか?」
マイちゃんが小さく口にする。
『なるほど。ついでに、そういうメッセージを個人的に受け取ったらどう反応するか、もう一人の月代も含めて試してみるのもいいか』
ミラーが意見を出す。
そこで私たちはメッセージ内容を見直すことにした。天気やTVの占いだけではインパクトが弱い。海外ニュースを織り交ぜることにし、電車の遅延情報、北朝鮮のミサイル、フィリピン沖の小さな地震と「津波の影響なし」まで未来の情報を組み合わせ、最後にELEVENタワーの事故を告げる。
そして、人が動き出す朝四時前に、マイちゃんと手分けしてメッセージを送った。
最初の試みでは、ある程度話題になったものの事故を止めるほどの広がりにはならなかった。
実際に事故が起きてから「予言メッセージ」として爆発的に拡散した。
「なぜ警告されていたのに工事を止めなかったのか?」という建設会社への非難。
「このメッセージは何なのか」という検証騒ぎが巻き起こった。
フランツに教えてもらった海外の匿名メールアドレスから作ったアカウントで発信したので、私まで特定される心配はまずないだろう。
天環の反応は早かった。
【なんか変なDM来た? 何コレ】
【なんかこのメッセージ通り事件起こってるんだけど、怖い!】
そんな調子で細かく投稿し、大騒ぎ。
【工事現場は、話題が上がっていた事実があるなら、中止とまでは言わないけど、より安全対策をして事故を防ぐべきだった】
事故後にはもっともらしく、コメントして多くの「イイネ」を得ていた。
しかも、その後は寿司をしっかり堪能している。より美味しい寿司が楽しめたようだ。
一方、月代さんの投稿は夕方のラジオ番組の紹介だけ。フルフルフルーツに行った話題もなかった。
人気とフォロワー数はそれなりにある二人だが、反応は正反対だった。
『頭のいいインフルエンサーは、怪しい話には関わらないものだからな。次は発信者のタイプを変えてみるべきだ』
ミラーが感想を述べる。
まとめサイトのコビーを眺めながら、皆で考え込む。
『これ、現場にはどれくらい噂が流れているんだろう?』
日廻が尋ねた。
「七時には【謎のメッセージ】がトレンド入りしてます。九時過ぎには【予言メッセージ】【予言】がトレンド入りして、そのまま話題になっています」
私はメモをしていた手帳を確認しながら答える。
「それなら現場に噂が届いていてもおかしくないか。慎重に作業してたはずなのに事故が起きたのは……単なるミスではなく別の要因か?」
日廻が呟く。
『事故の瞬間、眩しい光が走ったという証言がありました。
雷か?とも言われていますが、あの時どころか今日は雨が降ったり止んだりで、雷は鳴っていなかったはずです』
「風は?」
私はその時の天気を思い出す。
「少し前までは叩きつけるような雨でしたが、その瞬間は小降りで風もなかったはず。
今日は蒸し暑くて、逆に風が欲しいくらいでした」
私の答えに、日廻は考え込む。
「称央子さん、今度のメッセージ送信にこの二人を入れてみてくれないか」
土岐野がメモを差し出した。
一人は辛口お笑い芸人・ミタラシ。もう一人は元IT企業の社長で、今は経営コンサルなのかコメンテーターなのか曖昧な多川。インフルエンサーというより、嫌われ者に近い。
「え? この人たちで大丈夫ですか?」
私が首を傾げると、土岐野は頷いた。
「ミタラシは何でも政治のせいにする飛躍発言で煙たがられ、多川は頭が良すぎるせいか正論を吐いては人を見下す態度で嫌われている。二人とも少数のコアな信者と、大勢の強烈なアンチを抱えてる。炎上請負人だよ」
そう言ってから彼は溜息をつく。
「多川が“ニシムクサムライで食事した”ってだけで、ウチの会社がどれだけ面倒なことになったか……」
憎々しく語る土岐野に、私たちは苦笑するしかなかった。
そこで炎上系著名人も加え、再トライすることに決めた。
「確かに炎上体質で自己顕示欲の強い人を混ぜた方が、話題性は増すだろうな。えてして、そういう人の発言の方が広がりやすいかもね」
ミラーがのんびりと呟く。
私たちは、一般的な有名人も混ぜつつ、主張が激しいYouTuber、余計な発言をして叩かれる芸能人、陰謀論好きのSNSアカウント、さらには超常現象専門家にもメッセージを送った。
二回目。ネットでの騒ぎは前回より大きくなった。だが事故は防げなかった。しかも死者まで出てしまう。事故現場を撮影しようとした愚か者が現れ、喫茶店でライブ中継していた三人が亡くなったのだ。
建設会社には工事中止を求める電話やメールが殺到したが、工期の問題か、それでも事故は起きた。より強い批判は建設会社と、そして施設のオーナーへ向かった。ELEVENタワー自体にも矛先は及んだが、果たしてどんな安全対策をしていれば防げたというのか。
『被害のあったELEVENタワーに目が行っていたけど、これMAZIMA物件だったのか! ここはスケジュールがシビアで有名なところだ』
日廻が顔をしかめる。過去に何か因縁があるようだ。
『称央子さん、次のメッセージ内容を少し変えて試してほしい』
日廻の提案に皆が耳を傾ける。
『施工主であるMAZIMAと、この施設の施主の名前を入れてくれ。施主が世間体を気にして依頼すれば、施工主も動かざるを得ない。建物ができる前に事故なんて、施主としては絶対避けたい話だから』
もっともな意見だった。
そこで私たちは、お騒がせな人々が攻撃先を定めやすいよう内容を調整し、三度目のチャレンジに挑むことにした。




