二度目です
二回目の時田さんへのメール送信。
コチラは時田さんにループの情報を伝える。そのこと自体よりも、むしろ翌日の時田さんの反応の方が、私たちの関心事だった。
朝六時に同じ内容のメールを送ったが、十時を過ぎてもまだ返事は来ていない。
カラオケボックスでルーパーたちと繋いだ後、私は挨拶をしてからそのことを報告した。
「今日は少し文章を変えて送ってみたのですが……効果はなかったみたいです」
ため息をつきながら、今朝送ったメールを皆にも見せる。
【ご無沙汰しております。突然のご連絡失礼いたします。
時田さん、どうか落ち着いてお読みください。私がお伝えする内容は、事実に基づいた非常に重要な話です。
にわかには信じがたいと思いますが。
私は、今日・7月11日をすでに体験しています。
かんとう地方は朝から、雨が激しく降ったり止んだり、
日差しが差し込むと湿度が上がるという、
天気の繰り返しでした。
いちばん目に報じられるニュースは、
アメリカとロシアのトップ会談がテロにより中止 。
メインで報じられるのは
沖縄諸島沖で発生した台風の進路情報、
あと、7時37分頃、大阪のJR阪和線にて雷によリ、
停電で電車が止まるという速報が流れます。
デイデイ占いは、
1位:山羊座、12位:天秤座。
スポーツニュースは、
日本時間9時過ぎにメジャーリーグで大山選手がホームラン、
NBAでは谷口選手がブザービーターを決めました。
!!そしてコチラはいちばん伝えたいことです!!
11時11分、ELEVENタワー4階の喫茶店[Onze bonheurs]に、
工事現場のクレーンから吊るされた鉄骨が突入するという事故が発生します。
なぜ私がこのことを知っているのか、なぜあなたに伝えるのか。
それについて、改めてご説明させていただきたいと考えています。
どうか、その時に私の話を聞いてください。】
マイちゃんにはあらかじめ「秘密」は伝えておいたので、彼女は「わ〜本当だ! さすがナオコさん」と感心してくれたが、他の人は首を傾げている。
『昨日と文章を少し変えました?』
フランツがそうコメントする。
「いや、内容自体は同じです」
佐藤宙が補足し、日本語を理解できないメンバーに説明してくれる。
「時田氏がミステリー好きだから、初めてのメールじゃないというヒントを仕込でおきました。
もし昨日の記憶が残っているなら気づいてくれると思ったのですが……」
「あっ! 縦読みか!」
土岐野廻が声を上げた。
「このメール、各行の最初の文字を拾うと『ニドメデス』になる。つまり【二度目です】ってことだよ。昨日に続いて二回目だ、という意味を隠してあるんだ」
皆はその仕掛けに感心したが、肝心の時田氏がどう受け取ったかは分からない。
今回はあえて返信時間を指定しなかった。
彼はこうした遊び心に敏感で、私の作品でも同じような仕掛けに気が付いてくれていて、楽しんでくれていた数少ない読者だ。
だから、もし記憶が残っているならすぐ連絡してくれるはずだ。だが返事がないということは、やはり記憶はないのだろう。
会社の会議の合間に、メールの内容通りの出来事が現実に起きているのを確かめているのかもしれない。
マイちゃんは話を聞いて、なぜか悔しそうにして「もう一度ナオコさんの本を読み直さないと!」と、カバンから本を取り出して読み始めている。
十一時二十八分。昨日より少し早く、ようやく連絡が入った。
[あ、結さん! あの、これって、事故……いや、メールのことなんだけど]
動揺は相変わらずだ。
「時田さん、ご連絡ありがとうございます。変なメールを送ってしまい、申し訳ありませんでした」
私はできるだけ冷静に返す。
[それはかまわないです! でも、どうして? 事故のことも……それに二度目って?]
メールも丁寧に読み込んでくれたようで、縦読みの仕掛けにも気づいていた。
「メールに書いた通りなんです。前のターンでも時田さんに同じような内容を送ったのですが、覚えていらっしゃいませんか?」
[いや……覚えてない。今日が初めてだよ。だけど本当にあんな事故が起こって……]
最初のターンで私が死んだことを話すと、時田さんは大きなショックを受け、「どうしたら助けられるのか? 俺は何をしたらいい?」と必死に問いかけてくる。
どう対応すべきか迷っていると、日廻永遠が『直接話してみたい』と提案してきた。
核候補でありながらループ現象に巻き込まれていない人物と、本当に繋がれるのか試したいという狙いもあるらしい。
一度こちらの会議を解散して、時田さんに日廻のWEB会議室へ入ってもらおうとした。だが、うまくいかなかった。
仕方なく私の二台のパソコンを使い、ひとつには日廻が作った会議室、もうひとつには私の会議室を立ち上げる。そしてタブレットで日廻の会議室を映し、それを私の会議室に中継する――そんな力業で繋ぐことになった。
画面はスッキリさせたいし、登場人物を一気に増やすと人は混乱する。
なので会議室に残ったのは核ルーパーのみ。
時田さんからしてみたら【死者の会議室】とも言えるWEB空間に、時田さんは最初「AIによる偽動画では?」と疑いの目を向けた。
だが日廻たちの冷静な語り口と、私が未来の出来事を既に正確に言い当てていたこともあり、次第に信じてくれた。
そもそも騙して得られるものなどない。加えてアニメの脚本家という職業柄か、この手の不思議を受け入れる土壌があるのだろう。
「あなたの協力が必要です」「あなたしか頼れません」「一緒に称央子さんを救いましょう」
日廻はそんな言葉を重ね、時田さんに使命感を植え付け、積極的に協力するよう仕向けていく。その誘導の見事さに、私は感心してしまった。
そして時田さんが出した意見は、なかなか興味深いものだった。
――事故がきっかけでループが始まるのなら、その事故自体を防げばいいのではないか?
過去の災害を止めることはできなくても、今日これから起こる事故なら未然に防ぐ余地があるのでは?
もし私を救えれば、過去のループにも綻びが生まれるのではないか?
さらに彼は続けた。
ネットでこうして繋がれるなら、未来に向けてメッセージを送ることもできるはずだ。自分のメールソフトの予約送信だけでなく、外部サービスを利用して複数の経路から送信すれば、たとえループで記憶が消えても、未来の自分や他の核候補に情報を届けられるのではないか?
ただ、それが実際に届くかどうかは、このループ世界では確認できない。結果がわかるのは、次の7月11日になってからだ。
[称央子さん、一緒に未来に行こう]
アニメのセリフのような言葉を残し、時田さんはさっそく未来に向けたメッセージ送信に取りかかるため会議を離脱していった。
元の形に通信を戻し会議を再開する。
マイちゃんが不安そうに眉を寄せてつぶやいた。
「あの人、あんなノリでになってたけど本当に大丈夫なんですか?」
『大丈夫。彼には今回の記憶は残らないから』
そう答えたのはミラーだ。精神科医らしく落ち着いた声で続ける。
『それに、彼はミスマイが心配するようなタイプじゃない。内向的だけどロマンチストで利他的。攻撃的なところもないよ。さっき色々提案してくれたのも、自分のためじゃなく称央子さんを救うためだ』
――なるほど。先日のやりとりを観察し、時田さんの心の傾向を分析した上で、今回の日廻の誘導に反映させたのだろう。確かに勉強になる。
『それにしてもナオコもなかなか役者だね。さりげなく時田の身を案じるような言葉をかけつつ、見事にヒーローに仕立て上げ、協力的にさせていた』
慌てて私は首を振る。
「それは日廻さんの手腕ですよ!」
日廻は苦笑しながら認めた。
『まあ、多少はね。効率よく本題に入るためだ。彼とは限られた時間しか接触できないから……。
でも面白い人物だよね。発想が柔軟で、考え方も独創的だ』
「職業柄でしょうね。脚本家はただ物語を書くだけじゃない。人間の心理を深読みして、分解し、世界を再構成する力が求められるんです」
『なるほどね。時々呼んで、意見を聞いてみようか』
楽しそうに目を細め、歌うような口調でそう言う日廻。
どうやら飛行機メンバーは、すっかり時田さんを気に入ってしまったようだ。




