139 七十二階で料理
「さて、今日は七十二階だな」
「おう。ま、その前にちっと狩りしなきゃだけどな」
「ああ」
俺たちは朝食を取り、少し休憩したあとセーフゾーンを出て階段へと向かった。
途中何度かモンスターと戦闘はあったが問題なく階段へと到達した。
階段を下り、俺はミニマップを確認する。
「うん、十匹だな」
「おし、んじゃ確認にいくか」
「そうね」
「はいです!」
まずは何が増えたのかを確認するために足を進める。
「あー、クラーケバタフライだな。増えてるの」
「お、んじゃルカの魔法みれねぇのか。対策考えれると思ったのにな」
ミハエルの揶揄うような言葉に俺は苦笑する。
「やめてくれ」
「ははは。んじゃま、やるか」
「ああ」
増えていたのはクラーケバタフライなので、これならミハエルは問題なく対処できるはずだ。
とりあえず戦闘を開始する。
俺は先ほどまでと同じ数の対処なので特に問題はなく倒せた。
ミハエルの方はやはり倒す時間は遅くなっているが、特に問題なく倒せたようだ。
「大丈夫そうだな」
「おう、まぁ増えた分倒す時間は遅くなってるが問題はねぇよ」
「じゃあこのまま進もうか」
「はいです」
「ええ」
こうして俺たちは七十二階を順調に攻略していった。
ただ少し気になるのは、ここでドロップしたクラーケバタフライの皮だ。
説明としては魔法抵抗が高く、物理には強くない、らしいのだ。
この階層まできてこれか? と思うには思うのだが、もしかしたら次の階層に関係していたりするのだろうか。
もしくはまったく関係ないのか、だな。
どちらにしろ次の階層からは情報があるかないかは不明だ。
スマフォは基本的には誰か、もしくは一定数以上が知っていたりする情報が記載されているだけなので、誰も、もしくは一定数以上が知らない物や人であれば名前も特徴すらも表示はされない。
俺としてはスマフォは最初はなんでも知れると思っていたのだが、スマフォで調べものをしていてにそのことに気づいたのだ。
ただ、そうなると鑑定ももしかしたら同じ可能性もある。
多分次の階層からは新しいモンスターになるはずだ。
鑑定が機能すればいいのだが……。
七十二階を進むこと四日目、次の階段まではまだかかりそうだ。
数が増えたことによる戦闘時間が延びたのもあるが、やはり広さとかなり遠回りしないと階段につけないようになっているのが大きい。
セーフゾーンでご飯を食べつつ会話する。
「しっかし、昔と違って一階層攻略すんのに時間かかるようになったな」
「そうだな。七十二階に入ってもう四日目だからな」
「あとどれくらいかしら?」
「んー、距離的にはあと二日くらいかな。真っ直ぐいければ今日にでもつくんだが、結構遠回りしないといけないようになってるな」
「うぇー。めんどくせぇな」
「まぁ、ダンジョンが生物だとしたら、自身の心臓部にたどり着かせないようにしないといけないからな」
「そーなんだけどなー」
「でも、そうなるとダンジョンってどうして五階層ごとに転移柱を設置しているのかしら?」
「ああ、俺もそれは考えたけど、人間の重要器官みたいになっててさ、それがないと次の階層が作れないとか、そういうのあるんじゃないかなって思う」
「そうね、そういうのもあるかもしれないわね」
「あとはやっぱり人間をエサにしているなら、簡単に飛べるようにしておかないと人が来なくなるからかもな」
「なるほどです。確かにそうですね」
「ま、どっちにしろめんどくせぇな」
そう笑いながら締めくくるミハエルに俺たちは苦笑した。
だが気持ちはわからなくはない。
俺なんかはマップで見えている分余計に遠く感じてしまう。
そうして七十二階を攻略しているとき、ミハエルからリクエストがあった。
「ルカー」
「なんだ?」
「今日の夜、俺、豚汁食いてぇ」
「なんだ、突然だな」
「もう屋台の飯に飽きた」
ズバリとそう言うミハエルに俺は苦笑する。
「ああ、なるほどな。分かったよ、俺も飽きてきてたし、作るとするか」
「お、やったぜ」
そうしてその日の狩りを終え、セーフゾーンへと入った。
とりあえずは机と椅子をまずだしてから、俺は薪を出してミハエルに火の管理を頼む。
「んじゃ、ミハエルは火の管理しておいてくれ」
「おう」
豚汁自体は簡単に作れるのだが、ふとそういえば、と思い出す。
「あ、そういえば、クレンベルで手に入れた猪肉、あの肉使うか」
隣で野菜を切ってくれていたフィーネが答えた。
「そういえば、そうだったわね。猪肉って食べたことがないから楽しみだわ」
「少し独特な匂いがするけど、これはかなり良質な肉だからきっとうまいと思うぞ」
「食べたことがあるの?」
「かなり昔な。というか前世だけど。だからこの世界の猪肉は初めてだな」
「そうなのね」
前世の友人のお爺ちゃんが猟師さんで猪肉を食べさせてもらったことが一度だけある。
独特の臭みはあったが、実に脂身が甘くておいしかった記憶があるのだ。
まぁ猪肉の臭いがダメな人はいるが、この肉はそこまで臭みもないし、きっと大丈夫であろうとは思う。
風魔法を駆使して猪肉を薄く削ぎ切りしていく。
白い脂身とピンク色の綺麗な肉のコントラストが実に美しい。
今回は豚汁だが、次回は牡丹鍋をしたいな。
肉はまだたくさんあるしな。
鍋に野菜と水とだしの素を入れミハエルが管理していた火にかける。
本当は野菜の下茹でをしたりとかするべきなんだろうが、俺は豚汁ではそこまでやったことはない。
味噌をいれれば大体問題ないのだ。
味噌は万能である。
――ちなみに俺の中では豚汁は主食になるので豚汁をおかずにご飯を食べる。その分野菜はたくさんいれてあるが。
野菜が茹で上がったところで猪肉をいれていく。
脂身の部分が溶け、表面に油膜を作っている。
猪肉の独特の香りがして、実にいい匂いだ。
肉に火が通ったところで火から下ろし味噌を溶いていく。
味噌と猪肉の甘い香りが混じり合ってたまらなく食欲が湧いてくる。
「うお、なんかすげぇいい匂いだな」
「ああ、これはたまらないな」
俺の腹の虫も、ミハエルの腹の虫も、フィーネたちも可愛らしい腹の虫が鳴いている。
「前に炊いてあった米があるから、それも提供しよう。絶対うまいぞ」
「さんきゅー、とにかく早く食いてぇ」
ミハエルに急かされつつも、器によそって、それぞれに配膳する。
「よし、じゃ、食おうか」
「おっし」
それぞれに食前の感謝の言葉を言ってから豚汁を食べる。
――最近は俺の影響か、みんな「頂きます」と言うようにはなってきている。もちろん食べ終わったら「ごちそうさま」もセットである。
味噌がうまいのは当然だが、猪肉の脂身が味噌と絡んで実にうまい。
脂身も全て溶けているわけじゃないので、口にいれると脂身の甘みが口いっぱいに広がる。
赤身の部分も脂身も実においしい。
「うお、うめぇ」
「これは、本当に驚くほどおいしいのね。脂身が甘いと感じたのは初めてよ」
「脂っこくないのが驚きです。とってもおいしいです」
「ああ。これは本当にうまいな。そのうち肉がなくなったらまた取りにいきたいな」
「そーだな。こんな肉ならまた行く価値はあるよな」
「そういえば肉の分配はせずに俺のアイテムボックスにいれっぱなしだったが、分配しておこうか」
「そんなにあんのか?」
「ああ、結構な量があるぞ」
「それならとりあえず分配でいいんじゃね?」
「そうね、腐るわけでもないし、いいんじゃないかしら?」
「お任せしますー」
「よし。なら、分配しておこうか」
そうして俺はアイテムボックスから猪肉を取り出しつつ、全員にきっちりと分配した。
もし俺が作る際は全員が材料提供をしてくれるそうなので問題はないだろう。
俺じゃなくて、誰かが作るときも同じだ。
おかわりをしつつも、俺たちは実に満足できる食事だった。
今日はいい夢が見られそうだ。
猪肉料理は俺の記憶にはほとんどないのが残念ではあるな。
牡丹鍋くらいしか知識にはない。
とはいえ、豚肉に近いものだし、色々試してみるのも悪くはないな。
今度は猪カツなんかもしてみるかな。
うん、おいしそうだ。
食事を終えて色々とすませたあと、俺たちはベッドへと潜り込んだ。
今日は久しぶりに屋台以外の料理だったので実に満足できた。
七十五階まではまだ遠い、また何かしら作るのもいいかもしれないな。
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