138 目指せ七十五階
あれから一ヶ月、俺たちはひたすら七十階で腕を磨いた。
俺は魔法と剣をバランスよく使うようにして、剣技では劣ると無意味に自身を卑下していたことを反省した。
根本的なところで魔法使いだからなんて思っていただが、そんなものは俺の努力不足なだけなせいなのだ。
ミハエルは俺よりも剣の訓練をしていたし、俺が劣るのは当然の結果だ。
結局俺は言い訳をしていたにすぎない。
そこからはきちんと相手によっては魔法を多めにするし、魔法が効きにくかったり、接近戦の方がいい相手にはそういう動きをするようにしている。
「さて、今日からは七十五階を目指そうか」
「おう」
「ええ」
「はいです」
俺たちはダンジョンに入り、七十階へと下りた。
「そういやオリハルコンって結構たまったか?」
「んー、まだだな。予想以上にドロップ率が低い。エアハルトさんもそれは言ってたんだよ、今回集めにきてたのも三回目って言ってたしな」
「そっか。まぁ急ぐもんでもねぇしいいか」
「そうだな」
ちなみに『シュラハト』は最高到達階層は七十一階までだ。
イーグルベアーがプルできずリンクするため難しくなったのだとか。
とはいえ、俺たちのように毒耐性や麻痺耐性魔法もなしで七十二階まで行ってるのだから、正直本当に凄いと思う。
もし俺が耐性魔法やダメージ軽減魔法を彼らにかけていれば、彼らはもっと下層までいけるだろうとそう思う。
エアハルトさんにそれを話したこともあるが、そのとき彼はこういった。
『そうだね、ルカ君にそんな魔法をかけてもらえれば私たちはもっと深くに潜れると思う。けどね、それは私たちの実力ではなくなるんだ。ルカ君のその魔法は君だからこそある魔法だ。それは私たちにはない魔法だ。だから、君にかけてもらえればという話は最初からないんだよ。私は君の魔法がズルいとも思わないし、それは君の実力だと思ってる。羨ましいとは思うけどね』
そう言われたとき、俺は自分の奢った発言を後悔した。
すぐに、失礼なことを言ったと謝罪をした。
エアハルトさんは笑って許してくれたけど、本当に失礼なことを言ってしまった。
俺が魔法をかければ、なんて言葉は、彼らを侮辱している以外の何物でもない。
ただ、エアハルトさんは最後に、こうも言ってくれた。
『本当に気にしないで。でも、そうだね。私たちがSランクになれて、ルカ君たちもSランクなったら耐性魔法をお願いするかもしれないね。私たちにもプライドはあるけど、そんなものよりも、もっと先を見てみたいという気持ちもあるからね。どこまでいっても私たちはただの冒険者だから』
そう言って笑うエアハルトさんに俺は本当に心から知り合えたことを感謝した。
俺たちの会話を聞いていたレオンも横から首を突っ込んでこう言った。
『そうそう、エアハルトの言う通りだぞー、ルカ。お前の魔法はお前の実力だ。だけど冒険者としてのランクでトップに立てたら、そっから先はもう冒険者としての道しかねぇんだよ。そうなったら実力だなんだはいいんだよ、もっと先を知りてぇの。だからそんときゃ俺たちが先にいくための魔法をかけさせてやんよ』
『こら、レオン。かけてもらう だろう?』
『いてぇな。んなもん、ルカが言い出したんだから、かけさせてやるで正しいんだよ』
『はぁ。本当にもう……ごめんね、ルカ君』
『いえ、レオンはむかつきますが、正しいので。俺たちもエアハルトさんたちに追い付いてSランクになれれば、魔法、かけさせてください』
『おう、むかつくってなんだこら』
『うん、そっか。ありがとう、ルカ君。そのときはお願いするよ』
『お前ら無視すんなよ!』
そんな会話を思い出し、俺は少し笑ってしまう。
そんな俺にミハエルが突っ込んだ。
「何笑ってんだ?」
「ああ、ちょっとエアハルトさんやレオンとの会話を思い出してな」
「ふーん? ま、レオンはどうせバカなことしか言ってねぇだろうよ」
「はは。そうだな」
そんな俺たちの会話にフィーネが混じる。
「そういえば、『シュラハト』はもうノームの鉱山街についてるわよね」
「ああ。ここから一ヶ月の距離らしいから、もう依頼はすませているんだろうと思うよ。どのくらいかかるかわからないけどな」
「オリハルコンだものね」
「ああ」
そんな会話をしつつ、俺たちはいつものように狩りを始めた。
七十五階までどのくらいかかるかはわからないが、いつも通り、臨機応変にやっていけば問題はないはずだ。
どちらにしろこの七十階で最低二日はかかるだろう。
ダンジョンも成長するごとに次の階段への道のりが遠くなっているし、階層自体が広くなっている。
そのうえ、モンスターの数も多い。
とはいえ、自身を守るためであればこうなるのは当然ではあるけども。
それでも転移柱をきっちり作るあたり、ダンジョンにも何かしら設定みたいなものがあるのだろうか。
転移柱を作らないと階層が作れないとか、そういうのがあるのかもしれないな。
転移柱がある意味人間でいう重要器官だったりするのかもしれないし。
――まぁ、そんなことを考えたところで俺に分かるわけもないんだが。
そうして二日かけて七十階をクリアし、七十一階へとついた。
モンスターの数は八匹、種類は七十階のモンスターのままだろう。
増えたのは多分イーグルベアーだとは思うが、さてさて。
そのまま歩き、出会ったモンスターグループの確認をする。
予想通り、イーグルベアーが四匹に増えていた。
「やっぱりイーグルベアーか」
「んー、こっからは熊はルカ、俺がタコのがいいかもしんねぇな」
「確かに、そうだな」
ミハエルの言う通り、ここからは得意な方を担当する方がベストかもしれない。
「そうね、了解よ」
「はいです」
そしてそのまま七十一階の攻略を始めた。
たった二匹増えただけだが、それなりにきつくなる。
だが今までの傾向で言えば、次の階層はさらに二匹増えるはずだ。
それでもまだ俺たちには問題なく狩れる数だ。
交互ではなく得意な方をやっているので厳しくなることもない。
ただ、次の階層でどちらが増えるかだな。
クラーケバタフライならミハエルの技量があればそこまで問題はないが、イーグルベアーならさすがの俺もリストレインやグラビティを駆使していくしかない。
イーグルベアーが魔法に弱いのは確かだが、こいつは近接戦闘が得意なモンスターなのだ。
とはいえ、現状四匹なのでまだなんとかなってはいる。
そうして七十一階を進むこと四日、やっと七十二階の階段が見えてきた。
予想以上に時間がかかっている。
やはりSランク相当の狩場は色々と大変だ。
セーフゾーンへと入り、机や椅子を出して席につく。
食事をとりつつ会話をする。
「多分だが、七十二階はイーグルベアーかクラーケバタフライのどちらかが二体増えると思うんだよ」
「そうね、これまでの感じからすればクラーケバタフライだとは思うけども」
「ああ。それで、クラーケバタフライなら二体増えてもミハエルなら問題ないと思う」
「んーまぁ、そうだな。多分いけると思うぜ」
ミハエルの言葉に頷き、続きを話す。
「ああ。だが、もしもイーグルベアーが増えた場合は俺には荷が重くなる」
「そう。それならどうしようかしら」
「んー、俺が熊いくか?」
「いや、ミハエルはそのままでいいさ。俺がイーグルベアーにいく」
「でも荷が重いのでしょ? 何かあるの?」
「ああ、一応な。まだみんなには見せてないが、リストレインっていう魔法がある」
「ほーん?」
「ま、正直ミハエルとの次の戦いも想定して使いたくはなかったんだが、そんなこと言ってる余裕もないからな」
そう言って俺は苦笑した。
「おー? 隠し玉かよ」
「そういうことだな。で、そのリストレインってのは五秒間だけ相手の動きを完全に拘束する魔法だ」
「げっ」
「まぁそんなわけで、もしイーグルベアーが増えた場合はそれをかけるから、エルナはイーグルベアーをできるだけ狙ってくれ」
「わかりました!」
「場合によってはグラビティも使うから、そこは臨機応変に頼むとしか言いようがない」
「任せてくださいです!」
力強くそう言うエルナに俺は笑みを浮かべる。
「ああ、任せる」
「はいです!」
話し合いも終わり、俺たちはそれぞれ用事やすることをすませて眠りについた。
この鉱山ダンジョンの最下層は一体何階になるのか、俺たちは最下層までいけるのか。
少し不安もあるが、楽しみでもある。
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