128 地下六十五階
「おはよう」
「おはよう、ルカ」
「おはようございます」
いつも通りの朝の挨拶をして席につく。
今日からは再びダンジョン探索だ。
少しして下りてきたミハエルと一緒に朝食をとり、俺たちはダンジョンへと移動をはじめた。
ダンジョン管理所へとつき、中へ入り、一階にある転移柱へと向かう。
六十五階へ飛んでミニマップを確認した。
「お、宝箱があるぞ」
「ほお?」
「この階層にある宝箱なら期待できそうね」
「そうだな」
宝箱へ向かいつつ、まずはこの階層の敵を調べないといけない。
数は六体、さてどんなモンスターか。
最初に出会ったモンスターグループは人型と植物型だった。
背中からコウモリのような翼が生え、肌の色は灰色、上半身は人型だが、下半身は鳥のように羽毛が生え、足もダチョウのような感じだ。
手には大きな弓を装備している。
そんなメンシュラプタが二体。
攻撃方法はウインドカッターと弓による遠距離攻撃だ。
もう一種類は植物型で、茶色い丸いボールのようなものが浮いており、その茶色いボールの下に蕾のようなものがあって、蕾の周囲からはたくさんの蔦のような触手が垂れさがっている。
攻撃方法は毒の噴霧と触手による攻撃のようだ。
そんなポイズンプラントが四体。
「毒攻撃か。これは耐性をかけておくよ」
「おう。とりあえず優先すべきは弓だな」
「でもあのポイズンプラントも危険そうね」
「そうだな。俺がポイズンプラントに初撃をいれるから、ミハエルが弓にいってくれ」
「おう」
「なら私たちはまずポイズンプラントへの攻撃ね」
「ああ、頼む」
「はいです」
そうしてまず俺が走りサンダーをポイズンプラント四体に撃ち込んだ。
二体が少し痺れて動きが鈍り、残り二体は普通に俺に向かってくる。
蕾だった部分ががぱっと開いてこちらを向き、そこから毒煙を吐き出してきた。
さらに触手による鞭のような攻撃と、触手の先端にある小さな蕾が開き、それが噛みついてくる。
最初はメンシュラプタの弓がこちらへ飛んできていたが一回のみで飛んでこなくなった。
すでにミハエルが攻撃を仕掛けているのと、ポイズンプラントのせいで俺が見えなくなったせいだろう。
というか、普通にこれはきつい。
毒攻撃は問題ないが、鞭だけじゃなく噛みつきがあるのがしんどい。
ある意味でヒュドラと同じだ。
たくさんの長い首があるのと同じである。
サンダージャベリンを撃ち込んでは俺は大きく後退する。
触手を切ってもすぐに再生するのでキリがない。
頭部だと思われる茶色いボール部分を攻撃してもたいしてダメージはなさそうだ。
むしろ攻撃した部分から毒煙が吐き出される。
どこが弱点なのか。やはりあの蕾部分か?
ミハエルの様子をみる余裕がまったくないな。
俺の腕に噛みついたポイズンプラントの触手を切り払う。
ヒュドラの鱗皮を貫通できるほどの噛みの強さはないようだな。
近づいてきたポイズンプラントの触手を切り裂きながら、サンダージャベリンを撃ち込む。
もちろん蕾部分を狙ってだ。
そこに俺のサンダージャベリンが刺さると、『キュオオオ』という高音の声を発してポイズンプラントは煙となって消えた。
弱点さえ分かってしまえばあとはそこを攻めればいいだけだ。
サンダージャベリンをやめ、植物の苦手なファイアジャベリンに切り替える。
触手を切り裂きながらファイアジャベリンを撃ち込む。
ポイズンプラントは火を嫌がりつつも、触手を犠牲にして蕾部分を守っている。
おかげで触手からの攻撃が極端に減ったのでやりやすい。
俺のファイアジャベリンを防いだポイズンプラントが『キュオオオ』と鳴き声をあげて煙となった。
どうやら背後からエルナのファイアジャベリンが突き刺さったようだ。
残りは二体になった。
ここでやっとミハエルの姿を見る余裕ができた。
一体は倒したようで、今はもう一体のメンシュラプタに取り掛かっているようだ。
ミハエルにしては倒すのに手間取っているな。
とはいえ、そうゆっくり観察もしていられない。
こいつらはこいつらで面倒なのだ。
噛みつこうとしてくる触手や、鞭のように飛んでくる触手を躱しながら切り裂き、蕾を狙う。
触手の隙間を塗って青緑色に淡く光る矢が蕾に突き刺さった。
途端ポイズンプラントが触手をばたつかせた。
そこにエルナのファイアジャベリンが突き刺さる。
見事な連携だ。
残りは一体。
というところで俺がファイアージャベリンをポイズンプラントに撃ち込んだところで、後方からミハエルが蕾に剣を突き刺し、ポイズンプラントは煙となった。
「おつかれ」
「おう。ちっと苦戦したなー。思ったよりあいつ厄介だぞ」
「俺はポイズンプラントに手がいっぱいでそっち見れなかったな。どうだった?」
「あれな、ものすげぇ動きが特殊だ。翼も使ってありえねぇ動きしやがるし、足も早くてよ。もう消えてるが、弓のなんつーの? 持ち手以外のとこが刃になってやがるんだよ。だからフィーネみたいに弓で接近戦もしてくるしよ。フィーネとの訓練してなきゃやばかったかもしれねぇな」
「なるほどな」
「次は俺がポイズンプラントやっから、ルカはメンシュラプタいけば?」
「ああ、そうだな。ちょっとやってみるか」
「じゃあ最初は私がポイズンプラントに軽い初撃をいれるわね」
「おう、頼むわ。そのあと俺が全部タゲ取り返す」
「ええ、お願い」
ドロップ品を拾い、宝箱へ向かいつつ、次のモンスターグループへ向かう。
すぐに次のモンスターグループが見えてきた。
「じゃ、行くぞ」
「おう」
「ええ。いいわよ」
俺が走り出したと同時に風を切る音が四回した。
フィーネの放った矢は見事ポイズンプラント四体の茶色いボール部分に突き刺さり、そこにミハエルが躍り込んだ。
俺はポイズンプラントを無視して、弓を放っているメンシュラプタにジャベリンを撃ち込む。
メンシュラプタは翼を強く羽ばたかせると後方に飛び、俺のジャベリンは床を突き刺した。
すぐにメンシュラプタからウインドカッターが飛んでくる。
ヴァールシールドを張ってウインドカッターを防ぎ、さらに後方に逃げた一体のメンシュラプタの足元にアイスゾイレを展開した。
アイスゾイレが発動し、メンシュラプタの一体が鋭い氷で串刺しになる。
まだ生きているが、とりあえずは放置してもう一体へ走った。
生きている一体に切りかかるが翼を羽ばたかせヒラリと逃げる。
ああ、確かに面倒だ。
動き的に左へ逸れると思っても翼があるのでまったく違うところへ移動する。
そんな厄介なメンシュラプタとしばらく切り合いを続けた。
大体の動きを見れたので、攻勢に移る。
牽制でバレットを撃ち込むが、どうやらシールドを張れるらしく、バレットは当たらずにシールドに当たって消える。
ジャベリンは避けるくせにバレットは避けないのか。
翼によって急激な移動をして離れたメンシュラプタの足元にインフェルノを発動した。
レオンのように気づいて避けることはなく、見事炎の柱に飲み込まれた。
少しして炎の柱から転がるようにして出てきたが、翼は焼け落ち、全身に火傷を負っていて動きは鈍い。
そこに俺はファイアジャベリンを撃ち込み止めを刺す。
アイスゾイレで貫いた方がいたところには青緑色に淡く光る矢が落ちているのでフィーネが止めを刺してくれたのだろう。
メンシュラプタを倒し終え、ミハエルがいる方へと視線を向けると、ちょうど最後のポイズンプラントが煙となって消えるところだった。
やはり俺だとミハエルより倒すのは遅いようだ。
ただ正直やりやすさで言えば、メンシュラプタの方が楽ではあるな。
そんなことを思っていると、ミハエルがポイズンプランタのドロップ品を拾って怪訝な顔をしていた。
「なんだ? どうかしたか?」
「いやよ、これなんだ? 果実っぽいんだけどさ」
ミハエルが手にもった拳大の大きさの実を見せた。
それを受け取り鑑定をかけてみる。
「へぇ。ポイズンプラントの実だってさ。レアドロップらしくて、さっぱりしてるのに甘くておいしいらしいぞ?」
「ええ……。毒吐いてたやつの実だぞ……?」
「鑑定の説明にはそう書いてあるからな。解毒魔法あるし、あとで食ってみるか?」
「そうね、解毒魔法あるなら試してみたいわ」
「ちょっと興味があります!」
「うまかったら売らずにおいとこうか」
「そうね」
このあと昼まで狩りをしてセーフゾーンへと移動した。
普通の昼食を食べ終え、俺はポイズンプラントの実を取り出した。
「さて、それじゃ剥いてみるか」
ポイズンプラントの実の皮は鉄では刃が通らず、ミスリルの短剣でやっと刃が通った。
「それ、実は大丈夫なのかしら……?」
「皮だけじゃないか? 多分だが。でないと味の感想なんて鑑定に出ないだろうし」
「食べてみればわかるです!」
目をキラキラさせているエルナに俺もフィーネも苦笑してしまう。
皮自体の剥いた感じはアボカドっぽいが、中の実は少し柔らかい梨という感じだろうか。
中に種はなかったので適当に切り分ける。
「さて、それじゃ食べてみようか」
それぞれが一切れずつとり、口へと運ぶ。
しつこい甘さではない。矛盾してる気はするが、さっぱりしてるのに、すごく濃厚で甘い。
「わぁ……。すごくおいしいです。あまいですー」
「本当、おいしいわね……」
「うめぇな……」
「これは、驚きのうまさだな」
味はなんだろう、桃っぽくもあって、メロンのようにも思える。
実にうまい。
「これ、高い値段で売れるけど、取り置きでもいいか?」
俺の言葉に全員が即座に頷き、満場一致で取り置きが決まった。
食後の休憩をしてから、再び宝箱目指して狩りを進めた。
ミハエルとはメンシュラプタとポイズンプラントとの戦闘を交代で繰り返した。
慣れから倒す速度は多少早くはなったが、ポイズンプラントの手数や、メンシュラプタの動きが厄介なのには変わりない。
しばらくはここで訓練を兼ねた狩りをした方がいいかもしれないな。
このまま進んでいくのもあまりよくないだろう。
それにもう少し実を集めたいというのもある。
そうして狩りを続けながらも宝箱へと辿り着いた。
レア宝箱ではなかったが、罠もないので普通に開ける。
「腕防具か?」
「ぽいな」
宝箱の中には腕防具が入っていた。
黒い革がベースで、手の甲と、腕の剣を受ける部分がミスリルで覆われている。
皮の素材は明記されていないが、この様子ならかなり丈夫なのだろう。
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魔法の腕防具
状態:良
詳細:物理防御(大) 攻撃反射(中) 攻撃力上昇(中) 攻撃速度上昇(小) 毒耐性(中) 自動修復
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「これはいいな。自動修復までついてるのか」
「おー。結構いいじゃん」
「これ、ミハエルが装備しろよ」
「え、いや、ルカがつければいいだろ」
「いや、どう考えてもミハエル用だろ、これ。それにミハエルが強化されれば狩りが楽になるしな」
「そうね、私もどちらかといえば純粋な前衛であるミハエルが装備した方が効果は高いと思うわ」
ミハエルは少し渋っていたが、最終的には頷いてくれた。
純粋な前衛であるミハエルが強化される方が狩りは楽になるのだ。
「おお、なんかカッコイイな、それ」
グレーの革鎧に腕防具だけが真っ黒い革で、一部ミスリルに覆われている。
妙にマッチしていてカッコイイ。
当然ながら少し大きかったのだが、ミハエルが装備すると腕防具はミハエルのサイズに合わせて小さくなった。
今はもうピッタリのサイズになっている。
攻撃速度上昇がついているのでミハエルが剣を振っているが、わかるほどに上がっているのだろうか。
「どうだ?」
「僅かだけどあがってるな、攻撃速度」
「体感でわかるほどか」
「おう、俺はな」
「ああ、なるほど。ミハエル以外だと分からないかもしれないな」
「どうだろな? わかんね」
「まぁ、実戦といくか」
「そうね。ミハエルの動きがきっと若干変わるでしょうし、確かめたいわね」
「すまねぇな」
「大丈夫よ。貴方たちが後衛を気遣ってくれてるのに、私たちが何もできないんじゃダメだもの」
「ですです! 頑張ります!」
そうして俺たちは再び狩りへと戻った。
何回か狩りをしたところで、ミハエルに確認したが、いい感じのようだ。
「攻撃力も結構上がったし、速度も僅かだけど上がってるな。それにこのミスリル部分がさ、攻撃を反射すんだよ。だからかなりいいな」
「ほお。壊れないシールドみたいなものか」
「あー、そうだな。そんな感じだな」
なるほど。攻撃反射か。ミスリルを媒体にして作られてるんだろうな。
実際に戦闘をやってみた感じ、ミハエルが敵を倒す速度はわかるほどに上がっている。
「なるほどな、いい感じだな。この調子でやっていくか」
「おう」
そうして俺たちは夕方まで狩りを続けた。
しばらくはこの階層で訓練を続けることになるだろう。
ギルドマスターにはAランクになるまで七十階以上は行くなと言われているので、まぁのんびりと訓練を兼ねて狩りをしてもいいだろう。
狩りを終えて、実を分配してからギルドで清算をし、宿屋へと戻った。
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