125 久しぶりの家族との一日
一週間かけて再びクレンベルに戻った俺たちは宿で一泊したあと、そのまま皮工房へと向かった。
工房に入り、奥さんに声をかける。
「こんにちは」
奥さんは俺たちに気づくと驚いた顔をしていた。
「あら? 出発なされたんじゃ? 何か不具合がありましたか?」
「ああ、いえ、出発はしたんですが、道中でちょっと強いモンスターに会いまして。防具が壊れてしまったので戻ってきました」
「まぁ! 大丈夫ですか……? お怪我は?」
「いえ、大丈夫です。怪我はありません」
俺の言葉に奥さんは心底ほっとした顔をしてから、工房の奥へと案内してくれた。
「あなた、イストワールのみなさんが来られましたよ。あとはお願いしますね」
「おう。それでなんだ? どうした」
「帰りの道中で少々強いモンスターに遭遇しまして、腕防具が壊れてしまったんです」
「ヒュドラの鱗皮がか……? まぁいい、見せてみろ」
俺とミハエルははずしていた腕防具を取り出し、ニルベルトさんに渡した。
腕防具を見たニルベルトさんは大きく目を見開いていた。
「こりゃ、お前……。いや、まぁいい。修復はしてやるが、皮は余ってるか?」
「はい。何枚ほどいりますか?」
「そうだな――」
俺は取り置いていたヒュドラの鱗皮を取り出し、ニルベルトさんに渡した。
かなり激しく壊れているので修復に一週間かかるらしい。
待っている間は暇なので適当に狩りをして過ごし、一週間後、綺麗に修復された腕装備を受け取った。
「ありがとうございました、ニルベルトさん」
「おう、だが少しだけ強化しておいたぞ。詳しくは聞かんが、あの破損具合だとお前らの腕が粉砕してるはずだがな。とにかく、そういう相手からの攻撃だと一応強化はしたが然程意味はないだろう。それでも多少はな」
「お心遣いありがとうございます。もうないとは思いますが、次は普通にサイズ調整で来ます」
「おう、そうしてくれ。ただちょっと聞いておきたいが」
「はい」
「そのモンスターは倒したのか?」
「はい。倒してあります」
「そうか、良かった。ここから一週間の距離のところでそんなモンスターがいるのかと思うと恐ろしくてな。お前らが無事だったことも、そいつが死んでることも嬉しい知らせだ。次は無事に帰れよ」
ニルベルトさんの言葉に俺は苦笑しながら頷く。
「はい。俺たちもあんな敵にはそうそう会いたくないです。それでは、ありがとうございました」
「おう」
こうして俺たちはクレンベルを再度出発し、シュルプに向けて馬車を進めた。
途中でシュバルツデーモンと戦闘した箇所を通過する際、エルナに整備はしてもらっていたが更に整備しておいた。
土の色が掘り起こした色なので他とは違うがまぁそのうち分からなくなるだろう。
このあとは特に何もでることなく無事にシュルプへと帰りついた。
馬車を返却し、ギルドに馬車の札を返却して、大銀貨一枚を返してもらう。
ギルドマスターに渡す手紙があるのでいるかどうか尋ねたが、どうやら今は出かけているらしく、帰ってくるのは二日後になるそうだ。
またそのあたりで訪ねることを伝え、俺たちはギルドを出る。
「さて、とりあえずギーレンの宿屋に行ってみるか」
「そーだな。空いてるといいんだけどな」
「そうね」
エルナもコクコクと頷いている。
真っ直ぐにギーレンの宿屋に向かった。
受付にはいつも通り女将さんがいる。
俺たちを見つけると笑みを浮かべてくれた。
「おかえり! 無事で良かったよ!」
「ただいま戻りました。あの、部屋って空いてますか?」
「ああ、大丈夫だよ。あんたたちがいた部屋はできるだけ短期のお客に貸していたからね!」
女将さんの気遣いに俺たちは笑みを浮かべてお礼を言う。
「ありがとうございます」
無事に以前泊っていた部屋を借りることができた。
しばらくは遠出することもないので二ヶ月分先払いしておく。
ミハエルやフィーネたちも同じように先払いしていた。
鍵を受け取ってから全員に声をかける。
「じゃ、とりあえず三日間は休養期間でいいか?」
「ええ、色々補充したい物もあるからそれでいいわ」
「はいですー」
「おう、暇だったらダンジョン潜るから別にいいぜー」
こうして俺たちは三日間は食糧の補充なども兼ねて休養期間にした。
まだ昼なので俺は買い出しは明日にして、家族のところへ帰ることにした。
実に四ヶ月ぶりとなる。
家につき、扉をあけて声をかける。
「ただいま」
台所からマリーの声が聞こえた。
「ルカ?」
「うん、ただいま、母さん」
俺のところへ走ってきたマリーはそのまま俺をぎゅっと抱きしめた。
「おかえり! 心配したわ……無事で良かった」
「ごめんね、心配させて」
「無事ならそれだけでいいの」
もう一度俺をぎゅっと抱きしめたあと、マリーは俺を解放した。
「あら、気にしてなかったけどそれは皮鎧?」
マリーに言われて鎧を脱いでくるのを忘れていたことに気づいた。
旅の間ずっと着ていたので違和感がなかったのだ。
「ああ、うん」
「随分柔らかいのねぇ」
「そうだね、でも結構硬いんだよ」
「そうなの? すごいわね。でも家では鎧は脱ぎなさいね」
「うん、ずっと着てたから脱ぐの忘れてた」
そう言って俺は鎧に手をあててアイテムボックスに収納する。
脱ぐのだけは楽なんだよな、アイテムボックスがあると。
「にちゃ」
可愛らしい声が聞こえたので振り向くと金の髪を揺らした愛らしい天使がいた。
超かわいい。
「リリー! お兄ちゃんだよー」
リリーを抱き上げて優しく抱きしめる。
「あー可愛いなー」
「にちゃー」
「相変わらずね、ルカは」
そう言ってマリーが笑っている。
仕方ないじゃないか、だって可愛いんだから。
リリーを抱っこしたまま、マリーと会話する。
「母さん、リリー少し大きくなったし、言葉もちょっとしっかりしてきたんだね。四ヶ月離れていただけなのに、子供の成長って早いね」
「そうね。随分お喋りさんになってきたわよ。それに、リリーも大きくなったけど、ルカも大きくなってるわよ?」
「え? ほんと?」
「ええ、少し大きくなったわ。案外自分では気づかないものよ」
「そっか。あ、そうだ、今日は夕食を家で一緒にしたいんだけど、大丈夫?」
「あら、嬉しい。大丈夫よ、今日はママが作るわね」
「うん。ありがとう」
そうして昼の三時過ぎ、カールが家に帰ってきた。
「お、カールお帰り!」
俺が両手を広げてじっと待っていると、カールが苦笑しながら俺の胸の中に飛び込んできてくれた。
「おかえり、兄ちゃん」
「ただいま、カール」
俺がしつこく抱き続けているとカールから抗議の声があがった。
「兄ちゃん、もういいでしょー」
「ぬう。仕方ないな……」
カールを解放し、今度は昼寝から起きたリリー含め三人で遊ぶ。
夜になって帰ってきたウードに頭をわしわしと撫でられ、剣の具合を聞かれた。
「それで、剣はどうだ?」
「うん、すごくいいよ。ただ結構強い敵と切り結んだから、あとで少し見てもらえる?」
「ああ、もちろんだ」
食事を終えたあと、家族にお土産を渡し、危なくないように加工してもらったレッドボアの角にリリーがうっとりしている間にウードに剣を渡した。
ウードは剣を鞘から抜くとじっと刀身を見ている。
カールも近くでそれを見ていた。
カールは成人したらウードの元で鍛冶師見習いを始めるらしい。
今は時々休みのときにウードの鍛冶場に行って邪魔にならないように見学しているそうだ。
ウードはそれに関しては肯定も否定もせず、カールのさせたいようにしているのだとか。
カールは手先も器用なのできっといい職人になるだろうと俺は思っている。
ただ、ウードは十歳から十三歳までの三年間はバルドゥルさんの元で修業をさせるらしい。
鉄と木という違いはあるが加工という点では繊細さは同じではあるし、何より学んで欲しいのは商売に関する心構えのようだ。
どうも俺含めて商売となったときにウードは自分の感覚ではダメだと痛感したそうで、すでにバルドゥルさんには話をしていて、引き受けてもらえることになっているそうだ。
刀身を見終えたのか、ウードがミスリルの剣を鞘に納めた。
「うむ。特に刃こぼれもしていないし問題はないだろう。お前のは一体型だからいいが、ミハエル君には時々メンテナンスに持ってくるように伝えておいてくれ。頻繁でなくていいが、半年に一回程度はな」
「うん、伝えておく」
「あとはお前たちは成長期だからな、いずれ剣も作りなおさないといかんぞ」
「あー、そっちもか。分かった。また材料集めておくよ」
「そうしなさい。ただオリハルコンになった場合はパパは作れないから、加工ができるノーム族がいる街へ行かないとならんがな」
「そういえばその街ってどこか知ってる?」
「ああ。そう遠くない場所にあるぞ。ここからだと一ヶ月くらいの距離か」
「へぇ、クレンベルと同じくらいなんだね」
「ああ、ただ場所が主要な街道から離れていてな、正直、あまり道は良くない。だから行くときになったらちゃんと調べておきなさい」
「うん、ありがとう、父さん」
こうして夜も更けたころ、俺は家を出て宿屋へと向かった。
明日は食材の調達などをしなくてはならない。
とはいえ、そう時間もかからないだろうから、そのあとはマルセルへお土産を渡しにいって、時間に余裕があればダンジョンに軽く潜ってもいいな。
そんなことを考えながら俺は宿屋へと到着し、軽く訓練をしたあと風呂に入って、ベッドへと潜り込んだ。
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