119 素材ダンジョン
クルツの宿屋に腰を据えてから一週間が過ぎ、俺たちは休養と観光を終えてから、ダンジョンに潜ってみることにした。
最初は普通にダンジョンを下りようと思ったのだが、倒していくのも、ドロップを拾うのも正直面倒だったので途中からは飛行魔法と光学迷彩、消音魔法と通話魔法をかけて飛んでいくことにした。
道中で見たことのない敵のときだけ人のいないところで狩りをしたりしたが、五十階までほとんど無視し、途中であった宝箱もさすがにズルなので取ることなく無視した。
「さて、ここからは普通にいこうか。というか、嫌な思い出しかないな、五十階は。もし黒いあれだったら俺は絶対戦わないからな」
俺の言葉にミハエルが苦笑する。
「ああ、あれだったらまた飛んできゃいいだろ」
「そうする」
俺の反応に全員が苦笑しているがあれだけはだめだ。
ただ、結果は普通のモンスターだった。
鉱山ダンジョンでは見たことのないタイプである。
体高は一メートルほどで、真っ赤な毛皮を纏い、眉間からクリスタルのような立派な赤い角が縦に二列生えたレッドボアだ。
基本的に動きは真っ直ぐだが、角が炎を纏い、振れば炎がまき散らされるらしいので結構面倒かもしれない。
そんなレッドボアが四匹だ。
ただ戦ってみた結果としては猪だけあって猪突猛進で攻撃ルートが読みやすく、実に狩りやすいといえる。
おかげで、正直まったく物足りない。
結局ここの階層はエルナだけが全員のサポートでエルナ以外はソロに決まった。
エルナにとっては動き回る前衛のサポートの訓練、俺たちは後衛がいかに攻撃しやすいように動くかの訓練だ。
エルナにとってはほぼ休憩なしの訓練になるので、時々休憩を挟ませてはいる。
――とはいえ、レッドボアがエルナの方に来たときは休憩中のメンバーがエルナを守るけども。レッドボアは動きが直線的なのでタゲが切れてエルナに向かってしまう場合もあるからだ。
ドロップ品は実においしそうな猪肉と、レッドボアの皮、そしてレッドボアの角だ。
角は赤いクリスタルのようで、クリスタル状の角内部には小さな炎がゆらゆらと揺れていて実に美しい。
火属性がある角らしいが使い道としてはあまりなく、基本的には観賞用で人気があるようだ。
確かにとても綺麗なので人気はある気がする。
猪肉は安いが、皮が銀貨六枚、角が大銀貨一枚するようだ。
その割に角のドロップはそこまで悪くもないのでよい稼ぎになるだろう。
猪肉はせっかくなのである程度とっておくことにした。
安いというのもあるが、かなりよさそうな肉だったので俺たちの旅で消費するのも悪くない。
いずれは食材ダンジョンなども行ってみたいものだ。
角に関しては結構な数が出たので、欲しい人はいるかと話したところ、みんな欲しがったのでそれぞれに渡している。
全員が欲しがったのでお金はなしだ。
ミハエルはどうやらマルセルへのお土産にするらしい。
俺はマルセルや家族には別でお土産を用意しているのだが、リリーが喜びそうなので、リリー用に購入している。
そして、結局五十三階までが猪ゾーンだった。
五十四階からはまた別のモンスターで、頭にピンク色の花が咲いたフラワードライアドと、アラクネだ。
アラクネは上半身が人型で下半身が蜘蛛のモンスターだ。
一応上半身は人型ではあるが、腕は四本生えていて鋭く尖っており、顔は蜘蛛のような丸い目が六つあって、鼻はなく、口は蜘蛛とほぼ同じで、二本の牙がチキチキと動いている。
蜘蛛の頭部が人型になったような感じだな。
正直ちょっと気持ち悪い。
フラワードライアドは花粉を撒くことでスリープ効果があり、バインドもしてくるようで、攻撃方法は腕を蔓状にしての鞭攻撃だ。
アラクネは口から吐くねばねばした糸での足止めと手足がトゲのように鋭く尖っているので、それによる突き刺しである。
蜘蛛ではあるが、どうやら壁に登ったりはできないらしい。
どちらも足止め系が基本のようだ。
さすがにスリープは避けるも何もしようがないので耐性魔法をかけておく。
フラワードライアドのバインドはそのときだけなのでまだしも、アラクネの吐いた蜘蛛の糸が吐き出されたあとも粘々が続くのでこれは予想以上に厄介だ。
全てを倒し終えてからミハエルと話し合う。
「これアラクネを最優先で倒さねぇと面倒だな」
「そうだな。バインドよりもずっと残る蜘蛛の糸の方が厄介だ」
「おう、さっき蜘蛛の糸踏みかけて危なかったわ」
「というわけで、フィーネたちもアラクネ最優先で頼む」
「わかったわ」
「はいです!」
ただ倒してしまえばアラクネが吐いた糸は消えるので、最初に倒してしまえば問題はない。
そうして俺たちは五十五階までそのまま進んでいった。
アラクネからは上質な蜘蛛の糸というのがそこそこドロップした。
さすが素材ダンジョンだ。
これが鉱山ダンジョンならどちらかというとレアドロップになっていただろうアイテムだろう。
ダンジョンから出たところで先に出ていた人がいたらしく俺たちは受付があくのを待った。
それなりに良い装備をしているのでBか、もしくはここを常駐にしているというAランクだろうか。
なんとなしに俺が見ていると、そのメンバーのうち金髪で長髪の男がこちらを振り向き、俺たちを見たあと、ふっと鼻で笑っていた。
その態度にあまり気持ちのいいものを感じはしないが、装備がしょぼいというのはギルドでも他の冒険者に言われたのできっとそういうことだろう。
ただ、もしAランクだとするなら相手の力量を見抜く力はあまりないように思える。
俺はまだしも、ミハエルなんかは実力で強いはずなのだ。
そう考えるとやはり『シュラハト』は全員が基本的に高い能力を持っていたのだとそう思える。
むしろ『シュラハト』が特殊なのかもしれないが。
ミハエルは先ほどいたパーティに特に関心を示してもいないので多分俺と同じく強い相手には見えなかったのだろうけども。
まぁ、彼らがAランクかはわからない、もしかしたらBランクかもしれないしな。
そんなことを考えつつ清算するためにギルドへと向かう。
ギルドに入ると、先ほどの冒険者パーティが精算所にいたので俺たちはギルド併設の酒場にいって待つことにした。
適当に飲み物を注文して彼らの清算が終わるのを待つ。
待っていると周りの冒険者からの声がチラホラと聞こえてきた。
「おい、あれ。レッドボアの角だよな? やっぱすげーよなぁ」
「だよな、俺らもいつかAランクなれっかな」
「無理無理、俺らは精々いけてCくらいだろ」
「夢がねーな、おまえは」
なるほど、彼らはまさかのAランクだったか。
Aランクにまでなって相手の力量を見れないのか。
そう思っているとミハエルがポツリと呟く。
「へー。あれでAなんだな」
ミハエルの言葉に俺も言葉にはしないが頷く。
彼らが精算所から離れたところで俺が精算所に向かう。
「おう、坊主。清算か? アイテムだしな」
「はい、結構な数があるんですがかまいませんか?」
「ほう? いいぞ、出してみろ」
精算所のおっさん職員がそう言うので俺は清算アイテムを魔法の袋から出し始めた。
最初に出した上質な蜘蛛の糸でまず驚かれた。
「ほお! お前すごいな。これは、もしかして五十四階のアラクネの糸か!?」
「ええ、まぁ」
シュルプもそうだが、精算所担当の職員のおっさんはどうしてこうみんな声が大きいのだろうか。
あまり大声を出してほしくないのだが、と思いつつ清算するアイテムをどんどん出していく。
「これは本当にお前が倒したのか?」
シュルプでも最初はこんなやり取りがあったなと思いつつ、冒険者タグを取り出しながら頷く。
「ええ、一応俺たちこれでもBランクですので」
「おう、ちっと見せてもらうぜ」
おっさん職員は俺のタグを受け取り、裏と表とじっくりと見ていた。
「本当にBか。いやしかし、まさかBランクで五十四階とはなぁ……。こりゃまたすげぇ逸材だな」
そう言ったあとは問題なく全て清算してもらえた。
清算が終わり、ミハエルたちのもとへ向かおうと振り向くと、酒場にいた冒険者たちの視線のほとんどがこちらを向いていた。
どうやらおっさんとの会話が聞こえていたようだ。
まぁこれで変に突っかかってくる冒険者は減るだろうからいいか。
そんなことを思いつつミハエルたちのもとへ向かう。
「お待たせ」
「おう、ほんじゃ帰るか」
「そうね」
「はいです」
俺たちは席を立つとギルドをあとにする。
何事もなくこの街での時間を過ごせるといいのだが。
そんなことを考えながら宿屋へと帰った。
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