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魔の主  作者: 猫親爺
第一部 -邂逅編-
3/23

1章-3 従属と後始末

他の作品と比べると、漢字比率が高いのかな。。。

 ぼくの家は「小角(おづの)」という姓が表す通り、役小角(えんのおづの)の末裔だ。

そのため、ぼくも祖父から役小角伝来の修法や秘法を伝えられており、この山間の屋敷を拠点として修行も積んできた。

実はこの屋敷が山深い修験場に近いところに建っているのは、その為でもある。


どれほどの最上級悪魔を召喚したところで、それだけでは使役できないと解っていたぼくは、最初から召喚した後は代々の秘法を試すつもりだった。

前鬼・後鬼を従えていたという役小角の末裔であるぼくであれば、なんとかなるのではないかと漠然と考えて。


だけど正直なところ、西洋の悪魔に日本で練られた秘法が効くかどうかは賭けだったんだけど、どうやらこの賭けには勝った様だ。

しかし、ベリアルのこの変わり様は少々面食らう。


「ベ、ベリアルさん?」

「ベリアルとお呼び下さい」

「……ベリアル」

「はい、なんでございましょう、我が主」

「ぼくもそれは止めて欲しいな。来栖でいいよ

それに、もう少し砕けた調子に戻って欲しい」

「解ったよ、来栖様。

これでいい?」


いきなりフレンドリーになった。


「この契約って有効なの?明らかにベリアルの力でこうなったんじゃないよね?」

「勿論、有効だよ。

さっき来栖様が何かをしただろ?

あれで強制的に契約が発効したんだよ。

だから、あたしの意思は関係ないんだ」

「へぇ、そうなんだ。

でも、こんなお願い他にもする奴居るだろうから、結構な悪魔が誰かの下僕になってるのかな?」

「そんなことはないよ。

普通の人間は希いを言えと言われれば、目先の欲望に走るからね。

悪魔なんて下僕にしようなんて奴は、少なくともあたしは聞いたことないよ。

それに、普通の人間じゃそんな希いをした瞬間に魂を取られて終わりだね。

さっきのは、それだけ凄い力だったんだよ。」

「ふぅん、少し考えればなんとかできそうな希いなのにね」

ベリアルは鼻を掻きながら困った様に言う。

「そういう風に考えられて、どうにかしちゃう来栖様が特別なんだよ。

まぁ、あたしもそんな特別な人の下僕ならしょうがないや」

「ところで、これを解除する方法ってあるの?」

「来栖様の希いは『未来永劫』だったから、解除は不可能だね。

あたしか来栖様が塵に還るまで破棄されることはない」


勢いに任せて付けて足ちゃったけど、『未来永劫』というのはまずかったかもしれないな。


「そうか……それじゃベリアルには気の毒なことをしたね」

「……いや、今後は来栖様に喜んで付き従わせて貰うよ」


そう言って、更に頭を下げるベリアル。

自分でやった事ながら、凄く気の毒な気がする。

でもぼくは、今はベリアルの気持ちを斟酌している余裕はないんだ。


「それじゃ、早速だけどお願いというか、知恵を貸して欲しいことがある」

「なんだい?」

「楓……ここに居る娘をなんとか蘇らせられないかな?」

「それは……契約前にも言ったけど、生に関してはあたしは無力なんだよ」

「でも、ぼくの希いはベリアルの力が増してってことだったよね?」

「幾らあたしの力が増してもだめなんだよ。そもそも種類が違うんだ。

強弱じゃなくってカテゴライズって言うか」


なるほど、強さが増したところでベクトルが違うとだめなんだ。

これはかなりの誤算だった。


「そうか……駄目か……」

「うん、ごめんな来栖様。他のことなら大抵のことはできると思うけど、こればっかりはね」

「それじゃもう、楓を戻す方法はないかな?」

「うぅん……。この娘、もう天上界に行っちゃってるからな……。」

ベリアルは楓を覗き込み暫く考えていたが、突然振り返った。

「あっ、そうだ!天上界に着いてるんだったら手があるよっ!」

「えっ? 何?」


ぼくは思わず勢い込んで尋ねる。


「転生だよ、転生。この娘を転生させちゃえばいいんだ」

「でもそれだと、どこかの女性から赤ん坊として産まれるんじゃないの?」

「いや、あたしがここに人型を現出させて、そこに魂を転生させればいいんだ」

「えっ? そんな方法があるの? でも、それって蘇生とは違うのかな?」

「全然違うよ。だって、この娘であってこの娘じゃないからね。

確かにそっくりの人型は作れるしその娘の魂は入るけど、その娘の記憶やなんかは無くなってる可能性が高いし。

第一この死体は、このまま残るよ」


記憶が残らない……。


「それは、ぼくという存在を楓は記憶してないってことだよね?

まったく憶えてないのかな?」

「そうだな……普通は天上界に暫く居て、その滞在中に前世の記憶を忘れていくらしいから、今回みたいに早く転生させれば、ある程度は憶えてるかもしれないな。

尤も、それがどの程度なのかはあたしにも解らないけどさ」

「そうか……でもそれは、楓なんだよね?」

「そうだよ。人間の価値はこんな身体なんかじゃなく魂で決まるから、その魂が入ってる以上は間違いなくこの娘だよ」

「人間の価値っていうのは、魂の価値なのか」

「そうだよ。だからあたし達悪魔は人間の魂と引き替えに召喚され、希いを叶えるんだ」


楓はもう、今までの楓としては戻らない。

でも、楓の心が残るなら……


「よし、それでいこう。

ベリアル、頼むよ」

「解ったよ来栖様。 それじゃまず、人型を作る」


そう言うとベリアルは体ごと少し横を向き、口の中で何かをぶつぶつと唱え始めた。


「……×★△○○※※★△×……」


すると、正面の空間が光り始め何やら人の格好を取り始める。

数瞬のうちそこには楓そっくりの少女が目を瞑って立っていた。


「来栖様、こんなもんかな?」

「うん、そうだね……ぼくも楓の裸は見たことがないから断言できないけど……」


現れた少女は裸体で、その豊満な胸もささやかな茂みも、隠すことなくぼくの目の前にある。

これは目のやり場に困るな。


「それじゃ来栖様、これに転生させるよ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

その前に何か服を着せてくれないかな?」

そう言って眼を逸らすぼくを、ベリアルは悪戯っ子の様な目で見る。

「ありゃ? 来栖様は童貞なの?可愛いなぁ」


そう言って、現れた時の様に、にたにたと笑っている。


「う、うるさいなっ!ぼくは今までそんなことに縁がなかったんだよ!」

「あれ?でもこの娘が居たんじゃないの?」

「楓は妹みたいなもんで、そういうことの対象外なのっ!」

「へぇ……それじゃ、あたしが来栖様の童貞貰っちゃおうかなぁ」

やはり大悪魔といえど悪魔は悪魔、その淫猥な性質に変わりはない様だ。

「そ、それより、早く服を着せろよっ!」

「はいはい。来栖様のお好みはあるかな?」

「ぼくはそういうのよく判らないから、ベリアルに任せるよ」

「了解!」


ベリアルが答えると同時に少女の回りに靄の様なものが立ち籠め、あれよあれよという間に黒を基調としたエプロンドレスのメイド服姿になった。


「……メイド服なんて、よく知ってたね」

「だって、魔界でごろごろしてるのも結構暇なもんでね。

普段はあたしの配下の悪魔達だけでなんとかなる事ばっかりだし。

だから、召喚されるのはかなり久し振りだけど、人間界はたまに覗いたりしてたんだ。

でもこれ、可愛いだろ?」


あれ?

召喚した時には忙しいって………ま、いっか。


「いやまあ。うん、これはこれでいいよ。

それじゃ転生の方もよろしく」

「あいよ。それじゃいくね!」

またまたベリアルは口の中で何かを唱える

「……★×△○※★○※△×……」

「……んっ……んぅ……」


少女の口から吐息が漏れ始めた。

が、目を開ける様子がない。


「どうしたんだ? 失敗?」

「いや、大丈夫。 成功してるよ。

魂が落ち着くまで、少し時間が掛かるだけだよ」


そう言うとベリアルは、満面の笑みでぼくの首に抱き着いてきた。


「終わったよ、来栖様!

さぁ、ご褒美ちょうだいよ!」

「ご、ご褒美?って?」

「忠実な下僕に対するご褒美だよ。

さぁ、このあたしに来栖様の溜まりに溜まった欲望をぶちまけようぜ!」

「だ、だめだよ!ベリアル!

そ、それに今日はまだまだ後片付けや今後のことなんかもあるから、それはまた今度ね」

「うぅ……来栖様、意地悪なんだから……」


そう言うと、ぼくの頬にちゅっとくちびるを付けて一歩下がった。


「でも来栖様のご命令とあれば、しょうがないな。

但し、来栖様の童貞はあたしにくれよ?」

「う、うん、考えとくよ……。

じゃあとりあえずこの強盗の死体を……あれ?」


そもそもの事の発端となった強盗の死体を片付けないといけない、と思い魔方陣に目を移すと死体がどこにもなかった。


「あぁ、召喚に使った生贄だよな?

あれは召喚の触媒に使われたんで、塵に還ったよ」

「召喚に必要なのって、心臓だけじゃなかったの?」

「違うよ? 一定の手順と正しい「言葉」を使って、その上で魔方陣の上で生命が消えれば、その生命と身体を触媒にして召喚されるんだぜ?」

「そうなんだ? なんか、色々と知ってることと相違があるけど、まぁ普通は悪魔と契約したらそれまでなんだろうから、知識として集約され難いのかな」

「というか、そもそも悪魔の召喚に成功した例なんて、少ないんじゃないかな。

悪魔が召喚できる程の知識と知恵があれば、それを行うことのリスクも当然知ってるからね。

あたしの知ってる限りでは、来栖様の前に成功したのはファウストって奴で、そいつも結局、メフィストフェレスなんて下級の悪魔しか召喚できなかったしな」

「えっ? ファウストって実在の人なんだ?

ぼくはてっきり、単なるドイツの伝説だと思ってたよ」

「いや、奴は成功したよ。ただ、訳の解らんことをやってたみたいだけどね。

あたしゃ七百年程前に、魔界で奴の魂を見たことがあるよ」

「あれ? ファウストって最後は恋人の祈りで救済されるんじゃなかったっけ?」

「そんなことないよ? あたし見たもん」

「そうか……それじゃ最後の部分は完全フィクションなんだね」


まぁ、ゲーテも民間伝承を元に書いたってことだから、物語の流れとして結末を弄ったのかな。

でも、死体がなくなってるというのは……。


「あっ、ベリアルこれはまずいよ」

「なんで?」

「だって、楓の死体は残ってるし、楓の両親にも納得して貰わないといけないから、警察を呼ばないといけないんだけど、加害者が消えちゃってるよ」

「警察? 加害者? 何それ?」

そうか、悪魔であるベリアルには、人間界の常識というものがないのか。

「警察っていうのは、犯罪者を検挙する為の組織だよ。

加害者っていうのは、犯罪行為を行った者、今の場合だったらさっきまでここに居た強盗のことだね」

「よく解んないけど、そんなの関係者全員、記憶の改変をしちゃえばいいんじゃないの?」

「そういうことはあまりしたくないんだ。

できればこの世界、ベリアルから見たら人間界かな? そのルールに則ってやりたい」

「ふぅん………難しいんだね。

それじゃさ、さっきやったみたいに、人型を作ってそれを加害者っていうのにすれば?」

「それしかない様な気がするけど、ただ意識がちゃんとあって自分がやったことを認識してないと後が面倒かな」

「簡単だよ。魔界からあたしの眷属の下っ端を呼んで、人型に入らせればいいんだ」

「それ良いアイデアだとは思うけど、大丈夫かな?

取り調べとかがあるから、人間界を良く知らないとまずいよ?」

「大丈夫、大丈夫。下っ端の奴等は人間界に入り浸ってるからね。

あたしはたまにしか来ないからよく解らないこと多いけど、あいつ等ならちゃんとやるよ」

「そうなんだ? 最近物騒な事件が多いのはそのせいなのかな?

でもまぁ、それでお願いできるならお願いしたいね。

ただ、殺人の罪もあるからかなりの間拘束されると思うけど、そこも大丈夫かな?」

「あたしの命令なら大丈夫だよ。

あいつ等絶対服従だから。

文句なんて言わないし、言ったら塵に還すだけだからね。

それに悪魔にとっての数十年なんて、長い寿命から考えたら一瞬だよ」


そう言って笑うベリアルの笑みは、文字通り悪魔の笑みだった。

これにて1章は終幕です。

感想なんかを頂けると喜ぶかもしれません。

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