表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔の主  作者: 猫親爺
第二部 -鞠智一族編-
22/23

1章-4 襲来

バトル回です。

住職無双! は、無理だった様です。

 その夜、慈恵は本堂で一人瞑想していた。

結跏趺坐(けっかふざ)を組み、本尊前で揺れる二本の蝋燭を見つめ。


勝軍(かつとき)が逝きおって、もう3ヶ月か……)


莫逆の友であり、頼れる戦友でもあった来栖の祖父・勝軍。

彼が亡くなってからの数ヶ月は、流れる様に過ぎ去っていった。


(宗像三女神はああ言っておったが、鞠智(きくち)か……。

例え酒呑童子と組んだとしても、それ程の脅威では無かったんじゃが……)


『脅威では無い』のではなく『脅威では無かった』

慈恵の目下の悩みはそこにあった。


(陰陽師家の当主は、もう然程(さほど)の法力もないじゃろうし、頼る訳にはいかん。

とはいえ、儂一人でなんとかできるもんでもなさそうじゃの。

となれば、高野山(おやま)に頼るしかない……か)


高野山。

弘法大師空海が開いた、真言密教の聖地。


平安の昔より、高野山には表と裏がある。

表の高野山は真言密教の聖地として、民衆や時の権力者に信仰されている。

だが裏の高野山は、日本をまさに裏から支えてきたと言っても過言ではない。

各地に跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、人に(あだ)なす物の怪や妖かしを討伐してきたのは、裏高野である。

裏高野は、代々法力僧と言われる妖怪退治のエキスパートを養成してきており、これもまた妖魔討滅を悲願とする裏比叡を主導して、この日本を魔の者たちより守護してきた。


しかしそれも今は昔。


慈恵の若かりし頃でさえ数十人だった法力僧は、今や両手に足りる人数しかない。

しかも、その個々の力は目を覆いたくなる惨状である。


(仕方がない。本来であればこちらから出向いて対処するべきであろうが、この際は彼奴等の出方を待つしかないの)


 瞑想している筈が、遠近に心が乱れる。

慈恵にしては珍しいことだ。


と、蝋燭が揺らめく。

扉も窓も閉め切った本堂の中で、だ。


(ほう、早速来おったか)


ゆっくりと瞼を開くと、蝋燭の灯りに揺れる本尊が見える。

そして背後からは、威圧する様な気配が押し寄せて来た。


「はて、この寺には妖かしどもがよく来るが、感じたことのない気配じゃの」


(とぼ)けた様に言う慈恵に、しかしその気配は無言のままで、身動(みじろ)ぎする様子も無い。


「ほほう、名乗りもなしか」


そう言いながら、慈恵の右手はゆっくりと懐に伸びていく。

その時、唐突に背後から野太い声がした。


「我こそは酒呑童子なり。

慈恵、おぬしには言い尽くせぬ恨みがあるが、まあよい。

今宵この刻を以て、おぬしには消えて貰おう」

「酒呑童子とは、一別以来じゃな。で、何か?また儂に調伏されたいのか?

わざわざ出向くとは、殊勝な奴よの。

その意気に免じて、今回はきっちりと滅してやろうかの」

「っ!いつまでその強気が保つのか、楽しみじゃなっ!」


(うそぶ)く住職に向けて、酒呑童子の身体から衝動波が襲いかかる。

が、そのときには既にそこに住職は居ない。

いつの間にか本尊の前に移動していた住職は、右手に持った独鈷杵(どっっこしょ)を酒呑童子に向け、左手で素早く刀印を切る。


「さても馬鹿の一つ覚えか。

臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!」


早九字を切るが早いか、住職の身体が青白い光に包まれた。

更に住職の左手は印を結んでいく。


「威靈無窮盡 浩瀚願無邊……」

「どっちが馬鹿の一つ覚えじゃっ!」


酒呑童子は真言の完成を待つことなく、手に持った身の丈ほどもある金棒を叩き付ける。

本堂の床が木っ端微塵に砕け、辺りに木片が飛び散った。

住職はそれを横に(かわ)しながら、それでも左手で順に印を結び、伏魔真言を唱え続ける。


「……弟子深沐受 叩請伏魔祟 急急如律令!はぁっ!」


真言が完成すると同時に独鈷杵を酒呑童子に突き出すと、独鈷杵の先から出た不可視の波が酒呑童子に襲いかかる。

しかしそれは、同時に周りの闇から突然湧き出た異形の者に阻まれた。

為す術なく消え散った異形の者を追い掛ける様に、酒呑童子の金棒が突き出されてくる。


「ふんっ!」


跳び退って(とびずさって)躱した住職が着地した瞬間、闇の中から異形の者が飛び懸かってきた。


「グギ……ィ」


しかし、住職の身体を包む青白い光に触れた瞬間、溶ける様に消えた。

それをものともせず、次から次へと異形の者達が襲い懸かる。

その様は、まるで闇が異形の者へと姿を変えていく様に。


「流石は慈恵、やるのぉ。しかし多勢に無勢、いつまで保つかの」


酒呑童子はにやにやと嗤いながら、金棒を振り回している。

住職は内心の焦りを隠しながら、闇の中から際限なく飛び掛かってくる異形の者を滅していく。


「酒呑童子よ、ぬしはいつからそんな腰抜けになった。

我が手を汚さず、手下を(けしか)けるとは、酒呑童子とも思えん所業よの」

「なんとでも抜かせ。今宵ばかりは逃がす訳にはいかん。

慈恵、覚悟せいっ!」


言うが早いか、住職に向けた左掌から衝撃波が迸った。

異形の者を躱していた住職は、衝撃波を避け損ねて、左肩を掠めてしまう。


「ぐっ!!」


かろうじて体制を立て直した住職は、本堂の壁に向かい跳んだ。


「逃すかっ!」

「オン! バサラ ヤキシュ ウンッ!」


更に追いすがる衝撃波を独鈷杵の先端に生み出された光で受け止め、一気に壁をぶち破った。

境内の闇の中に飛び出た住職は、しかし四方八方から襲い掛かる異形の者たちを躱すのが精一杯で、本堂の破れた壁から突き出された金棒を避けることができない。


「オン!マサラギラン デイ ソワカ!」


孔雀明王の真言により、瞬時に強化された身体は、金棒を叩き付けられても潰れることはなかったものの、住職は闇の中に弾き飛ばされる。

それでもすぐに住職は起き上がり、更に真言を唱え始めた。


「オン! アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ……」


しかし唱え終わる前に、酒呑童子の追撃が来る。


(まずい!間に合わんっ!)


衝撃波の直撃を覚悟し、住職は身を固くするが、酒呑童子の攻撃は突然目の前に現れた羽団扇(はうちわ)によって受け止められていた。


「ほほう。懐かしや、酒呑童子か。久しいのう」


そこには山伏装束に身を包んだ異形の大男が立っていた。

良いところで終わりましたが、次回は助っ人の大活躍!(かも)

しかし、バトルシーンは私には難しいかも。。。


----ご意見・ご感想等々、お待ちしております!

----多少なりともお気に召しましたら、お気に入り登録をして頂けると悶え喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ