1章-2 投資効率
今回はかなり短いです。
新しい屋敷での日常の一コマですね。
「この成果は凄いですね……。
たった数ヶ月で数十倍じゃないですか」
リビングで来栖は、春美からの報告書と説明に目を瞠っていた。
一千万円から始めた投資が、運用開始から四ヶ月で億を越えている。
来栖でなくとも驚くのは無理のない話だった。
「確かにここまでの成果については、それなりに納得できるものだと思います。
が、運用資産が増えていくにつれ、投資は難しくなっていきます。
現状の数億であれば問題ありませんが、これの桁が一つ、二つ上がれば、投資効率は落ちていくかと」
来栖の前に坐っている春美は、淡々と説明を続けて居る。
「いや春美さん。そんなに増やす必要はないんですよ?
ぼく達が暮らせるだけの収入があればいいですし、そんなに豪勢な生活をしている訳でもありませんしね」
家は持ち家で経費と言えば固定資産税くらい、改装や補修はベリアルと春美に任せたところ、たちまち終わってしまった。
また食事等は紅葉と琴女がその季節の食材を使って美味しく調理するので、平均的な四人家族より少し多いぐらいで済んでしまう。
光熱費も同様で、更に言えば絶対にこれらが必要なのは来栖と紅葉だけだという特殊事情もある。
強いて金が掛かると言えば、電気代が中堅企業並であるところだろうが、これは完全に経費である。
「お言葉ですが、私と秋美、冬美に与えられた任務は、来栖様からお預かりした大切な資産をどこまでも増やしていくことだと考えております。
将来的には外資系投資銀行の向こうを張って……」
「いえいえ!そこまではしなくていいですってば。
さっきも言った様に、ぼく達が必要なだけを市場を混乱させず誰にも迷惑を掛けずに儲けていきましょう」
「……承知致しました。来栖様のご命令であれば、是非もございません。
秋美と冬美にも、その旨徹底させます」
「我が儘を言う様で、ごめんなさいね?
でもぼく達が投資銀行の向こうを張れる様な資産を持ってもしょうがありませんしね」
「来栖様は本当に欲がございませんね……。悪魔にとっては天敵の様な方ですわ……」
春美はそう言いながら、来栖に熱い視線を向ける。
少し潤み始めた美しく碧い瞳は、そのノーブルな顔立ちと相まって、女性を知らない来栖の胸を高鳴らせるに十分なものだ。
「んっ、ごほんっ!」
無言で視線を交わす二人を遮る様に、リビングの入り口からわざとらしい咳払いが聞こえる。
慌てて来栖が視線をやると、そこにはお盆にティーセットと珈琲、お茶菓子を載せた紅葉が居た。
「来栖様ぁ、春美さぁん、お茶を淹れてきましたので、休憩にされませんかぁ?」
にっこりとひまわりの様な笑顔で、しかし目は完全には笑っていない。
少し冷たい汗が流れた来栖を余所に、紅葉はテーブルの上に茶器を置いていく。
「あ、あっ、ありがとう!そうだね、春美さんちょっと休憩しましょうか」
悪い事をしていた訳でもないのに何故か慌てた来栖は、テーブルに広げられた資料を端に寄せていく。
「そうですわね……そう致しましょうか」
少し睨む様に紅葉を見ていた春美は、慌てて同じ様に資料を片付け始める。
来栖には春美の「ちっ」という舌打ちが聞こえた様な気がした。
紅葉も座り込んで三人でお茶をしていると、琴女がひょっこりと顔を出した。
「紅葉様、食材がそろそろ少なくなってきております。
昼食の準備は大丈夫ですが……」
「あっ、ごめんなさい!お買い物に出掛けようと思ってたんですが、座り込んじゃってましたぁ……」
紅葉は慌てて立ち上がると、琴女に向かってぺこんと頭を下げた。
「すぐに行ってきますね!」
「お手数ですがお願いしてもようございましょうか?
取り敢えず、わたくしの方で必要なものを書き出しておきました」
そう言って紅葉にメモを差し出す。
それを受け取った紅葉は、またワタワタと頭を下げていた。
「あっ、ごめんなさい!ありがとうございます!すぐに行ってきますね!」
そう行って慌ててリビングから出て行く紅葉と、そんな紅葉を追い掛ける夏美。
そんなに慌てなくてもいいのにね。
「ではお仕事のお邪魔をしては申し訳ございませんので、わたくしもこれで。
何かご用がございましたら、お呼びくださいませ」
琴女さんはそう言うと、行儀良くお辞儀をして出て行った。
「さて……では、今後の方針についての続きを話しましょうか」
そう言って来栖が向き合うと、春美は少々残念そうに肯くのであった。
執筆は、正直なところ余り進んでいなかったりします。。。
来週分は既にピンチかも。。。
頑張りますっ!
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