建国祭
願ってもいないことだった。
確かに、建国祭の間、ジューベルは広場に集まった国民に、祝福の言葉を授ける。エルガーはいつも、王城の隅っこで、それを聞いていた。
エルガーは、必要とされていない人間だからだ。
「どうせ俺が抜けたところで、誰も気づきやしないだろう」
「本当に行くのですか、エルガー様?」
建国祭の当日である。街に降りようとしているエルガーに、ミーケが不安そうな顔をしていた。
「お一人で行かれるのは危険です」
「ルーカスもいるよ。現地で集合する予定だ。あいつ、アルシア様の護衛に選ばれたらしい」
なんだかんだで、実力はあるのだなと、エルガーは感心していた。それでも、ミーケは不安そうに、胸の前でぎゅっと両手を握っていた。
ひとつ背の高いメイドの少女の頭を、エルガーはゆっくりと撫でた。
「いつもすまないな、ミーケ」
変装用の服を着て、エルガーは、いつもより賑わう王都を見物した。露店の食べ物を買いたかったが、あいにく、細かい金は持っていないので我慢した。
エルガーは、王城よりも、王都の方が好きだった。ミーケやルーカスはいないし、道具屋といった怪しい連中がうようよしているが、空気はずっと軽やかで、自由だった。
なにせ、王城にいると、エルガーは暗殺の対象になってしまうからだ。王国の成り立ちが成り立ちであり、そして、兄の所業が所業なので、自分や、兄を狙う刺客は後を断たない。近頃は、エルガーの方が殺しやすいと見てか、エルガーの方にばかり刺客が来る。
それでも、あの兄を敵に回すことは、エルガーにはできなかった。
一通り街を散策して、エルガーはふらりと、路地裏に入る。
道具屋や、あの惚れ薬を扱っている店へ続く道のようでいて、まだ、明るい道である。
エルガーは、酒場と思しき店の扉を開けた。日が高い時間だ。そこには喧騒などなく、ただ一人の少女が、ちょこんと椅子に座っていた。
「やあ、お会いできて光栄だよ」
「ええ、私も。お会いしたかったです」
水色の髪に青い瞳。寒色の、妖精の様な彼女は、エルガーの婚約者のアルシア・ロドイスである。
エルガーと仕方なく婚約している彼女は、エルガーに近寄り、じっくりと、エルガーのことを見つめた。
「ルーカスから聞きました。私の名を騙って、惚れ薬を購入した不届きものがいると」




