8-18 エルーシャ村
リリーの村まで歩くこと15分程度。
道中の風景は、初めてこちら側へ来た時と変わらなかった。
荒れて、枯れて、何もない世界。
あると言えば、水がなくても生きられそうな強い草と枯れた木だった。
モンスターに出会わなかったのは、運が良かったからなのか、そもそも出会うことが珍しいのか定かではない。少なくとも、ここ最近はモンスターは出ていないと、リリーは言っていた。
「ここです。私の村は」
リリーが案内してくれたエルーシャ村。
牛や馬、鶏などの家畜が少しと、枯れた畑。
あばら家のような家は、数十軒ほど。
今までどうやって生きてきたのかを聞いたところ、行商人と家畜を物々交換したり、女性を人買いに売ったり、男性は村の外で労働するなどしてなんとか食い繋いで来たらしい。
……女性を売るっていう文化がある世界なのか、と心苦しく感じる。
だが、やがてそれも難しくなり、全身に発疹と高熱が出る病が蔓延し、運良く感染していないリリーが1人で村を支えてきたという。だが、それももう困難となりつつあり、意を決して村を出た、と。
「すごい有様だな。どうする、創太」
「とりあえず、一軒一軒あたって回復して周ろう。この村をどうするかは、それからだ」
「……だな」
俺たちは感染予防のため、口布をつけ、まずはリリーの家に行った。
「リリー、おか……えり……。ごめんね、ママ何もできなくて」
「大丈夫だよ、ママ。助けてくれる人を連れてきたから」
リリーの家には、母親と、弟妹の3人のみ。父親は、村の外へ出稼ぎに行っているらしい。
3人とも、かなりの高熱と、赤く渦巻く発疹が顔を含めて全身に出てきてしまっている。俺は医者ではないので原因はわからないが、生命に危険があることだけはわかった。
「リリー、村の人はみんなこんな感じなのか?」
「ううん。うちはまだマシな方だよ。もっと前から患っている人は、身体中が真っ赤だもの」
「創太、これは急がないとやばいな」
「ああ」
俺は、木のロッドに光属性のMPを集める。
――全集中だ。全部の家を訪問する時間はない。人が健康に、元気になるイメージ。元気で明るい村をイメージするんだ……!
「――エリアヒール!」
――ブワッ!
俺の身体から、緑色をした風が巻き上がる。風はやがて村を包み込んだ。
病変である赤い発疹はリリーの家族から浮かび上がり、やがて空気中に浮遊した。その周囲を、緑色の回復魔法が包み込み、浄化をしてから宙へ霧散した。
「す……すごい……。ソウタさん……。女神フロレンス様みたい……」
――女神フロレンス様? ここは、万象の女神フレイヤ以外にも女神の信仰が厚い世界なのか……?
「リリー、身体が嘘のように軽いわ」
「お姉ちゃん!」
「ママ、テリー、アリー! 良かったわ! 元気になったのね」
「さすがだよ、創太。俺にもできることがあればいいのにな……」
「たくさんあるさ。この村をなんとか復興させないと」
リリーの母親は、起き上がって地面に座り、土下座した。
「なんとお礼を申し上げたらいいのか……。助けてくださってありがとうございます。もう……助からないと思っていましたから……」
「そんな、顔を上げてください!」
「創太、後ろ」
振り返ると、村人が家の外に集まって全員土下座をしていた。俺は、恐れ多く思うと同時に安心した。
「無事で何よりです。さぁ、顔を上げてください。我々は当然のことをしたまでですから」
そう言うと、1人の老人が顔を上げた。
「私はエルーシャ村の村長です。なんとお礼を申し上げたらよろしいか……。本来であれば、お礼に金銭を差し上げるべきだと心得ておりますが、申し訳ないことに、この村には何もありません。女子を差し出す他、恩返しの方法はございません……」
「お礼なんていりませんよ。本当になにもしてませんから。な、亮」
「あ、ああ……」
と言いつつも、俺も亮も心臓がバックバクだ。女子を差し出すだって? いつの時代だここは。そんなことされても、慌てふためくだけだ(俺たちが)。
「お礼を言うなら、リリーに。俺たちをここまで連れてきたんですから」
「おお、ありがとうリリーや」
「うん。でも、私のことも助けてくれたんです。隣村へいく時に、途中で倒れてしまったから」
「何から何まで……」
また頭を地面に擦り付ける村長。
そんな大層なことをしたつもりはないから、逆に申し訳なくなる。
「もう、お礼は大丈夫ですから。それよりこれからのことを一緒に考えましょう」
「……と、言いますと?」
「この村の、再建ですよ」
「――! ですが、どうやって」
「どうするんだ、創太?」
「なんとなく、できる気がするんだ。でも、その前に、腹ごしらえだよな?」
俺は【マジックバッグ】の中から、亮が作ってくれたテーブルと椅子を何セットも取り出した。
「亮のおかげで、パーティーが開けそうだ。いいな、大工のスキル」
俺の言葉に亮はパァッと顔が明るくなる。そしてすぐ、鼻頭を指で擦った。
「いや、俺にもできることがあって良かったよ。大したことじゃないけどな」
「りょう、すごい。たいしたこと」
「りょう、えらい。えらいこと」
「ははは。ポチたちもすごいって言ってるよ」
「マジか、照れるな、褒められるって」
俺は【マジックバッグ】の中から、常備食や水、ピギーウルフの焼き肉を出した。
「さぁ、まずは腹ごしらえを。お腹がいっぱいになったら、村を再建しましょう!」




