8-17 少女との出会い
お腹も満たされたし、先に進むことにした俺たち。
ピギーウルフがいた魔穴のある一角は行き止まりだったので、亮が長剣で地面に残した印の逆側、つまり分かれ道の左側を進んでいる。
「ピギーウルフの焼き肉のおかげで全快できてよかったよな。それに、創太が魔穴を塞げて良かったよ。あれから出会わないもんな、ピギーウルフに」
「そうだな」
亮とは違って、心の片隅に違和感がある俺。
というのも、魔穴を塞ぐ以上の更なる試練というのがなんなのか気になるのだ。
創世の錬金術士、というのはなんなのか、改めて考えさせられる。
「あ、明かりが見えてきたぞ! 外じゃないか? 探索魔法は?」
「今のところ、敵はいなそうだ。行ってみよう」
この洞窟は、命に危険があるような罠はなかったので、魔穴から出るピギーウルフが脅威となって、こちら側へ来る人がいなかったんだろうか。たしかに、並の冒険者ではピギーウルフをあんなに相手にできないだろう。他の冒険者には会ったことがないが、それくらいは推測できる。
「こ、これは……」
俺たちは、やっと洞窟を抜けた。
燦々と降り注ぐ太陽。
土地はひび割れ、木々も枯れて……。
無骨な岩山に、木枯らしが吹く。
でも異様に、蒸している。
なんというか……大昔のガンマンのビデオで出てきそうな感じだ。ビデオ、つまり映画を録画した媒体のことだ。
「これは、人なんて住めるのか……?」
ついつい、口をついて出てしまった。
「創太! あの木陰に人がいるぞ! 倒れてる……!」
枯れた木に、項垂れるように横たわる小さな子。小学生くらいだろうか。手には、銅貨のようなものを握りしめている。
「ヒール!」
俺はすかさず回復魔法を唱え、マジックバッグの中からガラスの砂を用いて作ったガラスのコップに水を注ぎ、口にあてて飲ましてやった。
「あ、ありがとう……ございます……」
年齢でいうといくつくらいだろうか。
銅貨は多分この世界でのお金だろう。せいぜい10歳くらいの子どもが、親の同伴なしに買い物に行くものだろうか。それか、こちら側にはモンスターは出ないのか?
「食欲、あるか?」
女の子は、コクンと頷いたので、ピギーウルフの焼肉をあげた。あげた瞬間、目の色を変えてむしゃぶりつく女の子。
見たところ、着の身着のまま、身体も清潔には保てていない。生きるのがやっと、という印象を受けた。
本来ならば、消化のいいおかゆをあげるのがいいんだろうけど、ピギーウルフの焼き肉でHP MPともに全快することが証明されているのだから、無理してでも食べてほしかった。
「おい……しい……」
「もっと食べるか?」
「いいんですか? ありがとうございます!」
女の子は夢中で食べた。まるで、今まで何も食べていなかったように。水もよく飲んだので、これで一安心だろう。
落ち着いた頃、女の子はすくっと立ち上がり、改めてお礼を言った。
「助けてくれてありがとうございます。私は、リリーです」
「リリーはお金で何かを買いに行こうとしていたのか?」
「はい、薬を……。――!」
すると、一瞬にしてリリーの表情の雲行きが怪しくなる。
「うちの村、流行り病が蔓延してるんです。――! ごめんなさい! 近づいたりして。お兄さんたちに感染っちゃう!」
咄嗟に離れようとするリリー。その手を亮がガシッと掴んだ。
「大丈夫、俺たちは病では死なないから」
「えっ?」
「ちなみに、後ろにいる犬とくまはペットだから」
「……?」
リリーは気づいていなかったようで、俺たちの後ろを見て腰を抜かした。
「キャアアアァァ! ピギーウルフと、ワイルドベア!」
……なるほど。こちら側にもモンスターは出るってことか。貴重な情報を得た。
「大丈夫、ピギーウルフじゃなくて犬だし、ワイルドベアはペットだから」
「ペット? 飼っているの? 家畜じゃないのに?」
「そう。人は襲わないから大丈夫。安心してくれ」
「ポチ、いいこ。ごしゅじんのいうこと、きける」
「くまもとてもいいこ。えらいくま」
「なんかガウガウ言ってるよう……」
「大丈夫、俺にもそう聞こえるから。でも、このお兄ちゃん――創太だけは、ペットの言ってることがわかるんだ」
俺は亮の言葉に頷きながら言う。
「いいこだから、悪さしないって言ってるよ」
「本当? 優しいモンスターもいるんだね」
「ポチ、もんすたーじゃなくていぬなのに」
ちょっとポチは拗ねたようだった。
◇
「それで、薬か何か買いに行こうとしたのか? たった一人で?」
「そうです。村ではもう、動けるの、私しかいないから」
「道はわかるの?」
「あんまり……」
「そうじゃなくて、帰り道のほう。リリーの村へ行く帰り道は」
「わかります。……でも、どうして?」
「俺がリリーを元気にさせたように、村の人の病も俺たちが治すから。連れて行ってくれ。リリーの村に」
「そんなことが……できるんですか?」
「魔法使いだからさ、創太は」
亮はウインクして言う。
「まほう、つかい?」
「そう。だから安心してくれ。な、創太?」
……恥ずかしいからあんまりノリノリで言いたくないが、仕方ない。
「そう。俺は魔法使いだからね。任せてくれ」
そう言いながらVサインした俺を、ポチやくままで笑っている気がした。
だから嫌なんだ。柄にもないことをするのは。




