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放課後の魔少女――十年の孤独  作者: 結城コウ
第二幕「詩都香の部屋」
62/106

9-4

 夜半に目が覚めた。

 また高原の出てくる夢を見ていた気がする。

 内容は思い出せないけど、やっぱりあいつは悲しそうだった。

 そこで気づいた。部屋の反対側から、啜り泣きの声が届いてきていた。

 常夜灯のナツメ球を光源に窺えば、ソファに横たわった高原の体が、嗚咽に合わせて震えていた。

(どうしたんだよ)

 俺が起き上がったのがわかったのだろう、高原は体の衝動を抑えようとしたみたいだが、無駄だった。

 紐を引っ張って蛍光灯を点けると、彼女は泣き顔を見られまじと体を裏返した。

「おい、高原……?」

 ソファの傍らにしゃがみ込み、その背に手をあてがう。彼女の体が、しゃっくりのように時折跳ねるのがわかった。

 そうしている内に、ようやく嗚咽を噛み殺すのに成功した高原が、ソファから顔を離して俺を横目で見上げた。

「誠介くん、もうどこにも行かないよね……」

 なんて目をしやがるんだ、この女は。俺の消失でこんなにも思いつめていたなんて。

「高原……」

 俺の呼びかけに応じて身を起こした高原が、そのまま抱きついてきた。ふんわりといい香りが鼻孔をくすぐった。

(ずるいな、俺)

 自力でこいつのハートを射止めたわけじゃないことは、他ならぬ俺が一番よく理解している。でも、このチャンスを逃す手はない。

 それにも増して、こんな彼女をどう慰めればいいのか、他に考えつかなかった。

 俺は高原の唇を奪った。

 ほんの一日前までは夢想だにしなかった、高原との初めてのキス。高原の唇は柔らかく、もぎたての果実のように瑞々しかった。

 首にかじりついてきたその腕をやんわりと解き、肩を抱いてさっきまで寝ていたベッドにそっと導く。枕元に置いた財布には、いつも通りアレが入っているはずだ。

「ん……」

 高原が軽くうなずくのを同意のサインと見なし、ベッドの上に横たえる。

 高原に気取られぬよう、静かに深呼吸。胸が破れるんじゃないかというくらい、心臓が激しいビートを刻んでいる。

 まず、アップにまとめられた彼女の髪を解いた。「癖がついちゃう」などと文句を言われたが、俺にとっては高原と言えばやっぱりこのストレートの髪型だ。

 それから、女の子らしいパジャマのボタンを外していく。二十歳過ぎの女性にしては飾り気のない白い下着が露わになった。高校時代に魅咲や一条にからかわれていた胸は、今もやはり小ぶりなままだった。

 高原は一切抵抗しなかった。こういうつもりで俺を家に招いたとはどうしても思えないが、一世一代の大チャンスに、このまま突っ切ってしまえという衝動の方が勝った。

(ごめん)

 言葉に出さず、なぜか誰かさんに謝る。次第に真っ白になっていく頭の中に浮かんだ誰かさんは、サイドテールを活発に揺らしていた気がする。

 辛うじて繋ぎとめられていた最後の理性が、財布の中のアレだけは忘れないようにと警告してよこした。

 そしてその夜、相手の弱みにつけこむような不本意な経緯ではあったが、俺は高原と結ばれた。それについて詳しくは述べまい。

 ただ、驚くべきことに――と言ったら失礼に当たるのかもしれないが――、高原は初めてじゃなかった。それだけは付け加えておく。

(こいつのお眼鏡に適った男って、どんな奴なんだか)

 俺自身はどうなんだろう? 本当に高原のお眼鏡に適ったのか?

 ――先ほどまでの興奮で血管の二本や三本切れててもおかしくない脳みそで、ぼんやりとそんなことを考えつつ、安心しきったような高原の寝息を間近に聞いている内に、いつしか俺も眠りに落ちた。

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