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666号室に戻れば、私は父親を元の中央に置いた。少々ずっしりとした全身は、けれども程よい大きさの円柱で持ち運びやすく、この容器自体は元々、病棟の何処かから持ってきたものだった。何処かまでは覚えていないが、別の容器に入れられていた内容物は全て、時が経っても腐る予感がまるで無かったので、これは最適だと私が生前死ぬ前に父親を入れる容器にしたのである。黄色と白の水玉模様が入ったラッピングは私が偶々ナースステーション付近で見つけたもので、父親にプレゼントするつもりで持ってきたもの。これが案外可愛く、クリスマスツリーの隣に置かれたプレゼントボックスのように見えるので、私は白いリボンで上を留めてお洒落させてあげた。しかし、これでは暫く父親を見ることが叶わないので、私は666号室にいる間だけリボンを解くことにした。リボンが擦れる音を立てて解け、固定されていたラッピングも重力に従って垂れ下がり、やがて落ちた。父親は死んだ際に臓物も何もかも黒焦げになってしまったが、なんと奇跡的なことか、運命か、この脳みそだけ綺麗に残っていたのである。脳が残っていることは、私にとっても都合が良い。脳には記憶も感情も全てが凝縮されて残るのだから、きっと喋ることも動くことも出来なくたって、私が記憶を探してあげていれば、きっと何かを感じてくれるはずだ。だから私は脳を容器に入れ、永遠の意味で「お父さんといたい」、その願いへ帰結させた。但、必然の可能性もある。
お父さん。また明日の夜も記憶探しをしよう。明日の夜、私はまた記憶を無くして、666号室に訪れた瞬間記憶を取り戻すのだ。そうして又言うのだろう。「一緒に探してあげようか」と。父親は過去の記憶を保持できず、きっと又何も思い出せないままだから。だから私が夜の度に教えてあげる。何度だって同じ場所を辿り、何度だって同じ疑問を投げかけよう。退屈ではない。幾千幾万の再演だろうと、私達は永遠なのだから。また何度でも旅をしよう。そして暁には、今度こそ同じ火の中で眠りたい——。
容器のラッピングを戻し、白いリボンを結んだ。可愛らしくめかした容器を両手で抱きしめると、何だか甘えているような、くすぐったい気持ちになり、確かな安心感が私の胸を浸すのだった。眠りから覚めれば、私達は又記憶を失くす。それでも記憶探しを繰り返し、又再確認するのだ。その夜が訪れるまで少し眠っていようと、私は父親を抱きしめたまま目を瞑った。




