初めての魅了
魅了の力を初めて使ってしまったのは5年前、11歳の頃。
相手は家庭教師のカレン先生。
その頃の私は今のような男装はしていなかった。
いつもと同じくドレスの裾をつまみ優雅にお辞儀をして先生の目を見た瞬間、
先生の態度が豹変したんだ。
先生は急に抱きついてきて、私の頬に何度もキスをした。
「なんてかわいいんでしょう!あなたの望むことは何でもしてあげたい!」
いつも冷静な先生の異常な行動にびっくりして私は動けなかった。
「どうなさったんですか、カレン先生?!」
傍にいた母は慌てて先生から私を引きはがした。
「あぁ、あぁ…どうぞその子を私にくださらないかしら?
わたくし、命の限り愛し尽くしますわ。リリア、リリア、私のリリア…」
うっとりとした目をしてこちらに手を伸ばす先生は、知らない人のようだった。
まるで愛用の毛布を取られた子供のように、さらに必死に手を伸ばす。
「…これは魅了の力?」
私を背にかばい先生から守っていた母は、ハッと何かに気付いたように小さな声でつぶやいた。
「リリア、キッチンまで走って!」
言うなり、母は私の手を引いてキッチンへと急いだ。
そして、戸棚から取り出した黒コショウを数粒、追いかけてきた先生の口の中に放り込んだんだ。
先生は一瞬驚いた顔をしたあと、盛大に顔をしかめて咳き込んだ。
しばらくむせたあと、母に出された水を飲んでからはじわじわと元気がなくなり、最後には真っ赤になって帰ってしまった。
次の日、失態へのお詫びと家庭教師を辞めるとの内容が書かれた手紙が届いた。
母は先生のしたことを口外しない代わりに、先生にも昨日の出来事を決して話さないよう記した手紙を書いた。そして、明日また家に来るようにとも。
「先生は悪くないし、むしろこちらの落ち度よ。今あなたの新しい特性が現れるなんてね。
…一時の気の迷いと思ってもらうためには、もう先生に近づかないほうがいいわ。
でもその前にもう一度だけ、リリアのその力がどういうものか試させてもらいましょう。」
そして分かったことは、私の魅了は一人一回限りということ。
魅了が解けたすぐあとも二日後も先生の目を見たけれど、もう一度魅了にかかることはなかった。
その後、父母と慎重に調べた結果、私の魅了の力は月の巡りとともに発揮されることが分かった。それ以来、その時期は家族以外には会わないように過ごしている。
――そうだった。思い出した。久しく人にかけていなかったから忘れていた。




