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魅了をかけちゃった!③

「僕は大丈夫です。正気に戻ったようでよかったですね。」


自分が悪いのにと思いつつ、リリアは答えた。


「あぁ。普段は決してあんな軽薄な行動はしない。

頭がおかしかったとしか思えない…。

君がすごく蠱惑的に見えて、なんともたまらず…失礼!」


魅了されていた時を思い出したのか、一瞬トロンとした目をしたが

すぐに我に返ったようだ。



「本当に申し訳なかった。えっと、改めて君の名前をうかがっても?

俺はサイラス サリヴァン。サイラスと呼んでくれ。」


「僕はリアム …アトウッドです。」


軽く握手をしながら、改めてサイラスの顔をしっかり見る。


引き締まった顔に、意思の強さを感じさせるキリッとした眉、

射抜くような鋭い目。


安易に人を近づけさせない印象を与えるが、やわらかく弧を描く薄めの唇が

雰囲気を和らげていた。


まさに「凛々しい」という言葉が当てはまる顔立ちといえる。


対して、顔立ちはともかく、ダボダボの男物の服に暗緑色のローブを

羽織っているリリアは、「野暮ったい」という言葉が当てはまるだろう。


サイラスの服はサイズがピッタリで素敵だなとぼんやり眺めていると、

赤い色が目に飛び込んできた。


「怪我したんですか?!」


左腕の袖が破れ、血が染み込んでいる。

さっきまでは気が動転していて気付かなかった…。


「あぁ。岩に引っ掛けて切ったんだ。それで、家が見えたから、

ちょっと洗わせてもらおうと思って…」


「傷口を見せてください。」


サイラスは袖を二の腕まで捲り上げた。


「ちょっと失礼します。」


リリアは井戸水で丹念に傷口を洗い、畑からとってきた薬草を貼った。


「この葉っぱは?」


「これはヤロウです。うちではちょっとした傷の止血によく使っているんです。」


「薬草に詳しいのか?」


「育てて売っているくらいには。おばあちゃんが詳しくて。」


出してもいい情報か吟味しながら、慎重に答えていく。



「市場に出しているのか。行ったら会える?」


「いえ、最近は人にお願いしているので。」


そう、今は市場で知り合ったおじいさんに代わりに売ってもらっている。

以前はおばあちゃんが売りに行っていたが、おばあちゃんは

2年前に亡くなった――。




リリアがおばあちゃんの家に来たのは、13歳の頃。

両親が事故でこの世を去った年でもある。

初めは父方の叔父の家に引き取られたが、リリアは歓迎されなかった。


「実の子でない娘に掛けるお金は持ち合わせていない」

言外からそんな雰囲気をヒシヒシと感じた。


なのでリリアは自ら、祖母の家に行くことを申し出たのである。

その提案は、リリアが18歳になったら家に戻り、

叔父の決めた相手に嫁ぐことを条件に許された。



男装は祖母からの案だった。

「ここにはリリアを守れる人がおばあちゃんしかいない。

男の格好をしているほうが、女の格好よりも危険性は低くなるだろう。

いざというときにも動きやすいしね。」


おばあちゃんの言う通り、ズボン姿は畑仕事もしやすく気に入っている。

おばあちゃんと暮らした2年の間、あらゆることを教わった。

料理・掃除・薬草の育て方・お金の使い方・身を守る術などなど。



そう、こんな黄昏時は人の顔がはっきりわからなくなるから

犯罪に特に注意しないと――。


「あ、もうすぐ暗くなります!早くお帰りにならないと。」


リリアはハッと気付いてサイラスに言う。


森を抜ける道は、灯りを持っていないと足元が覚束無い。

特に今日のように月のない夜は、1m先が見えないほど真っ暗である。



「…そうだな。今日は灯りを持っていないし。また改めてお礼に来るよ。では。」



「いえ、お礼は不要です!」

あわてて発したリリアの声は、サイラスには届いていないようだった。


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