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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
ドラゴンフライ
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第1話

 悪徳巨大企業(メガ・コーポ)はびこり、どことなく雑巾くさく冷たい雨が降る、近未来都市国家ネオイーストシティ。


 その片隅にある格安飲み屋街・酩酊通り(ドランクストリート)の裏通りに面した、低層ビルにあるアイーダ探偵事務所長の女で探偵のアイーダは、今日も今日とて暇を持て余していた。


 つい数分前まで、誰も事務所に来ないのでいつも通り街を歩いていたが、落とし物捜し1つ起きず、あえなく帰宅したアイーダは事務所の窓際にある長椅子に寝転がっていた。


 ワイシャツの上に、スラックスと同じ茶色のベストを着ているアイーダだが、本人のビジュアルとスラリと長身な体格であるため、だらけているだけでも画になっている。


「なんでこう仕事がねえんだろうな」

「まあ探偵が暇なのは良い事ですよ。困っている人がいないって事ですし」

「アタシが困るってパラドックス起きてっけどな」

「なるほど、うまいですねぇっ!」

「収入は不味いけどな」


 事務所内をメイド服姿で掃除している、介護用アンドロイドのボディな超性能美少女型人工知能ナビと、内容がペラッペラな会話をするアイーダは、電脳通信による操作で何気なしにテレビをつけた。


 ちなみに公安局特殊部隊・通称〝0課〟員で、ナビの監視の名目で同居する、全身義肢の巨躯きよくの女・カガミは、この日は聞き込みの仕事で不在にしている。


「〝今、ネオイーストシティの若者に人気! バイキング鍋をご紹介します!〟」

「ぶつ切りの肉とか入ってそうなネーミングですねぇ!」


 やっていたのはちょうど昼の情報バラエティで、大きくて分かりやすい字幕の背景に、こぢんまりとした鍋テーブルを囲む、若い女達の映像とナレーションが流れていた。


「語源の方までさかのぼってんじゃねえ。――テレビ見えねえだろ目の前に来るな」

「テレビなんかよりっ! ナビちゃんをじっくりこってり見て下さいっ!」

「自分を見てほしい飼い猫かお前は」


 シュババ、と寄ってきてアイーダの視界を占拠する、透き通るスカイブルーの目以外は真っ白い頭のナビは、どかそうとするアイーダの手を除けつつ、ムスッとした顔でアイーダへ叫ぶ。


「とりあえずどけ」

「ぬわー。良いじゃないですかっ。どうせひまならナビちゃんを愛でても罰は当たらないと思うのですがっ」

「暇つぶしじゃねえの。これも仕事の一環なんだよ」

「何割ぐらいなのです?」

「3割」

「ほぼ暇つぶしじゃないですかーっ」


 頭を動かしてもナビの顔が追尾してくるため、アイーダは半身を起こしてナビの肩を掴むと、ブーブー文句を言う彼女を隣へ半ば無理やり座らせた。


 画面内では売り出し中の若手男芸人コンビが、実際に具をトングで掴んで手に持っている1~2人用のアルミ鍋へ、規定の3種類の具を投入していた。


「ナビちゃんn二乗にじょうつの秘密機能の1つ原価計算機能によりますと、これだと500クレジットは損ですね」

「ぼったくりじゃねぇか。――今いくつつった?」


 わざわざ赤下縁眼鏡のホログラムを投影し、眼鏡を中指で直す仕草を見せるナビは賢そうに眉間にしわを寄せる。


「まあこのお店観光地ですしね。我らが醸造アルコール純度99%の飲んだくれの通り(ドランクストリート)とは違いますよ」

「それもそうだな。……ナビ、ちょっと鍋探してもらっていいか?」

「おっ、ジェネリックしちゃいますかっ。はいはいはい、お任せ下さいなのです!」


 アイーダに続いて立ち上がったナビは、反対側にある住居へのドアに向かって歩きつつ、くるり、と両腕を伸ばしつつ回って、にこやかにサムズアップして答える。


「このナビちゃん、アイーダさんのなくされた靴下まで把握しているのでー」

「それはありがてえけど、気付いてるなら回収してくれ」

「えっ、カガミさんへのテストではなかったのです?」

「んなことしねえよ。アタシだって見つけられねえモンはあんだよ」

「恋のお相手とかです? いやまあ、見つけてしまわれるとナビちゃんは泣きますけど」

「それは必要ねえんだよ。カブトムシみてーに集まってきやがる、お前らみたいな連中のおかげでな」

「はうあっ」


 ゆっくりそのまま回りながら進んでいたナビは、アイーダから若干遠回りな愛情を受け、矢で撃ち抜かれた様に胸を押さえたせいで、回転が速くなって転んだ。


「大丈夫か」

「まだあばっばっばっば」

「せめて二足歩行してくれ」

「アッハイ」

「ロボ声もやめろ」


 中腰になって助け起こそうとしたアイーダだが、ぐるぐる目になっているナビの、ブリッジ体勢で前に進み出すなどの奇怪な挙動に、彼女は困惑した様子で口元に笑みを浮かべる。


「たしかこの辺に……」


 1世紀ぐらい前のロボットみたいなカクカク挙動をしつつ、住居側に入ってすぐ右にある、ほぼ使わないキッチンまで移動したナビが吊り戸棚を開けた。


「――んぎゃっ」


 すると、ステンレスの小さめな両手鍋をのせていた、伸縮ラックの手前にある脚が壊れていて、鍋がナビの頭に降ってきて被さった。


「どっかへこんでねえか?」

「それは問題ないのです」

「そりゃよかった。……」

「電脳が焼けそうな笑顔でどうされました?」

「ああいや。なんかしっくりくるなと思ってな」


 安心した様子で1つ息を吐いたアイーダが、じわじわと肩をプルプルさせて笑いつつ、ヘルメットのように鍋を被るナビへ言う。


「しっくりこないで下さーい! これじゃ《()()()()()じゃなくて()()()()()ですーっ」


 素早く鍋を手に持って喚くナビの一言が、アイーダのツボに入ってしまい、彼女は近くのダイニングテーブルに手を置いて、うつむき加減でしばらくクツクツと笑っていた。


「――今気付いたけどよ、あれって家でやったら普通の鍋じゃね?」

「あっ、ですね……」


 それが落ち着いた頃に、目をちょっと見開いたアイーダが、ぼそっと至極客観的な発言をしてナビを頷かせた。

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