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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
ブレイン・コントローラ
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第1話

 政府公安局は、先日財務局に爆破テロを仕掛けたテロ組織〝ハコブネ〟のアジトである、ネオイーストシティ南部の貨物港に装甲車数十台で乗り込んだ。


 それを即席陣地にして、オレンジの巨大クレーンが設置された、それなりの広さのコンテナ置き場を包囲していた。


「政府公安局だ! 大人しく銃を捨てて投降しろ!」


 立てこもる構成員へと機動隊の現場指揮官が呼びかけるが、その返事はコンテナの陰から襲い来る銃弾の雨だった。


 遮蔽物の装甲車やコンクリート製の床面に、バケツをひっくり返したように着弾する合間を縫って機動隊が応戦し、双方から悲鳴が時々上がる。


「うわ、派手に応戦して来ちゃった」

「勘弁してほしいねぇ。野球の試合終わっちゃうよぉ」

「困ったな。首位攻防戦だってのにさ」


 ドンパチ賑やかな正面の一方、政府公安局特殊部隊・通称〝0課〟は、海側から闇夜に紛れてコンテナ置き場へと小型艇で上陸していた。


「間に合わせるためにも、ちゃっちゃと仕事終わらせるわよ」

「ほーい」

「うーい」


 グループ電脳通信での中年男性コンビのぼやきに、現場指揮官のシチシ・ツルギが呆れ混じりに良い、2人は怠そうに返事をして小銃の安全装置を外した。


 その中年2人、カガミとギボシ、ツルギとクサナギは2人3組となって、移動をそれぞれ開始する。


「カガミも探偵さんの事考えてないで」

「えっ? ああ……」

「ふ。図星、か……」

「ギボシ兄、弾避けを頼めるだろうか」

「止めときなさい。ギボシでももっと使い道あるでしょ」

「爆弾持って突撃とか、か?」

「ひぇ……」

「冗談、だ」

「カガミさんの冗談怖いんですよ……」


 電脳通信内では緊張感のない会話をするが、現実世界では隙なく周囲を警戒し各々がコンテナの間を進んで、機動隊に応戦しているテロリストへ背後から奇襲をかける。


「なっどこ――」

「後ろだ! 後ろから――」

「なんだこのデカブツ――」

「何のこれし――なんだコイツ重ッ」

「まるで巨大な岩石――」

「バケモノ……」


 背後方面には一切誰も警戒をしていなかったため、0課の面々はスタン警棒1本で難なく全員を無力化・確保することに成功した。


「おやおや、とんだカカシだったねぇ」

「トーシロがイキってテロリスト名乗っちゃった感じなんで? 主任」

「そのようね。活動家崩れのただの半グレよ」


 コの字型の電脳ロックをうなじのインプラントに挿され、会話以外を制限されたテロリストの記憶を探ったツルギは、別に特殊な訓練を受けてもいない頭でっかちの学生が、インフルエンサーに感化された結果始まった、レジスタンスごっこである事を暴いた。


「この手の連中に限って、なんでこう無駄に行動力があるんだか……」

「若さ故、と片づけるには過ぎた火遊びだ……」


 それを聞いて、0課員は電脳通信の向こうにいる課長を含め、1周回ってバカになってしまった男女9人へ、かぶりを振ったり呆れた目線を送ったりする。


「……」


 しかし、彼らにデカブツだの重いだの、岩石だのバケモノだの呼ばわりされたカガミは、心がなんか傷ついてうなだれ、ギボシに肩をトントンされて励まされていた。


 彼らはプログラムで強制的に立ち上がらされ、1列に並んで護送車へと強制的に移動させられ始めた。


「どーしてこんな事しちゃったの? ネオイースト大卒だったら仕事には困らなかったのにさ」

「おっちゃん達より楽に儲けられたんだぜ?」


 カガミから手を結構雑に払いのけられ、フルフェイスヘルメットの様な頭部に、涙目の絵文字を表示するギボシをよそに、アマハラとオオグニが軽く事情聴取をかける。


「あっ、あなた達には無価値に見えるだろうな」

「この国はもう断末魔の悲鳴を上げているのだ」

「我々は人の心を失ったこの国の未来を憂いているのだよ」

「まあ、特にそこにいるような、身も心も鋼のヒトモドキには人の心など理解出来ようが――ぶべらッ」

「その言葉のッ! どこに人の心があるんだッ!」


 この期に及んで、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべて講釈を垂れたひょろ長い男は、目で指しつつ言ったカガミからではなく、激昂したクサナギに顔面を殴られた。


「うーわ! 動けない相手に暴力ですかぁ?」

「これだから政府の犬はさァ……!」

「ははっ、どうやら我々の考えは正しかったらしい!」

「この国の病巣がはっきりと見えたぁ!」

「落ち着けクサナギっ」

「僕らが粛々とやらないでどうするんだよぉ」


 頭に血が上ったクサナギを嘲笑して煽る連中へ、さらに追撃をかけようとする彼を、中年2人が前と後ろから抑えて彼らから離してなだめにかかる。


「ひどいなぁ! 我々には人権があるのにサァ!」

「もちろんあるわよ。――あなた達みたいな犯罪者にもね」


 効果があると見てさらに調子づきかけた彼らへ、ツルギは口だけに笑みを浮かべながら、底冷えのするようなドスの効いた低い声で忠告し、よく回るニヤケた口を強制的に黙らせた。


「クサナギ。後で課長のところに顔を出すように」

「……はい」


 ただ一言でサーッと青ざめたテロリストごっこを見て、冷静さを取り戻したクサナギは、俯き加減でそう答えてツルギの後に続いて歩く。


「――ということがあったんだ」


 その翌日。


 仕事で逃げたバイオ猫探しをするアイーダに着いていったカガミは、酩酊通り(ドランクストリート)の北に位置する、二日酔(ハングオーバー)い坂(スロープ)の路地裏に捕獲器を設置して、ナビと共に遠まきに様子を覗っていた。


 最中の時間つぶしとして、相談に乗って欲しい事がある、と前置きしてその出来事を伝えた。


 アイーダはいつもの名探偵スタイルで、その傍らにいるナビはいつもの白ライダースーツみたいな格好に、灰色のキャスケットを被っていた。


 いつもの灰色のMA-1を着るカガミの左手には、猫にとって快適な環境に制御できる移動用ケージが提げられていた。


「で、人の心というか、〝人間らしさ〟って何かを一晩中考えたけど分かんねえから、アタシに相談したってところか」

「ああ……」

「それ、世の中舐め腐ったボケナスの悪態なんだろ?」


 ターゲットのバイオ猫が興味を示している様子を、腕組みをして見ているアイーダは、カガミの言いたいことを先読みし、後ろでしょぼくれた顔の彼女へ首を傾げて言う。


「まあ、アイーダさんを煩わせる程でもない、な。自分で考えよう」

「ん。そうか」

「……」

「……」


 カガミは浮かない顔のままそう言ってやせ我慢し、アイーダはそれを真に受けて様子見に戻るので、


「――いや、気にするな、で終わる重さじゃないですよねっ?」


 その隣で彼女らの間で視線を往復させて話を聞いていたナビが、パチパチ瞬きしつつツッコミをいれて途切れかけた会話を繋いだ。


「そんな事は無い、ぞ……」

「あるじゃねーか」


 目が泳ぎ明らかにそんな事がある様子を見て、スマン真面目に考える、とアイーダは少し眉にシワを寄せて首を捻る。

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