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異世界へ行った彼女の話:第二十八話

私がこの世界へ戻ってきて、目覚めてから大変だった。

最初に驚いたのはエルヴィンの姿だった。

私が知るエルヴィンはまだ線が細くて、青年って感じだったのに、目の前にいる彼は立派な成人男性だったから。


身長はあの頃よりも伸びていて、肩幅も広くて……まるで別人みたい。

最初であった頃に想像していた通り、イケメンに育っていた。

こんなイケメンさんなら、もう結婚しているだろうなぁ。

あぁ出来ることなら、彼の結婚式には出席したかった。

そんな事を思っていたんだけれど、話を聞くと、彼は未だ婚約者すらいない事実に驚いた。


驚く事が沢山ある中、一か月以上寝たきりだった為か……体が思うように動かないし、食べることも出来ない。

ベッドから起き上がれない日々が続く中、結婚し王となったライト殿下と王妃様がお見舞いにやってくる。

オリヴィアも私の姿に泣きながら抱きしめると、大粒の涙をこぼしながらに喜んでくれた。

どうやら彼女は私が居なくなってからまた城のメイドへ戻り、今では王妃付きのメイドになったようだ。




そうやってベッドで過ごす日々が続く中、私が去った日から6年もたっていた事実を聞き、狼狽していた。

池の中へ潜って、鯰に出会って数時間?そんなぐらいだったと思う。

元いた世界とこの世界の時間の流れが違うように、きっとあの池の底も時間の流れが違うのだろうと一人納得する。


一週間と二週間が過ぎゆく中、私はなぜかエルヴィンの部屋で療養生活を送っていた。

まだ多少は体にだるさが残っているけど、ようやく復活してきた。

私はベッドからノソッと起き上がり庭へと出ると、一人池の傍へとやってきた。

グレイはもういない。

鯰から受け取った手紙は、私が目覚めた時にはなくなっていた。

エルヴィンに聞いても、私の手には何も持っていなかったと言うし。

池の周辺を探して欲しいとお願いしたけれど、出てこなかった。

どこへいってしまったのだろうか。


私はユラユラと揺れる水面をじっと眺める中、金色の魚がクルクルと私の傍を回って行く。

やっぱりないな……

なんて書いてあったんのだろう。

そんな事を考えながら池をじっと眺めていると、ふと足音が耳にとどいた。


「もう起き上がっても平気なのか?あんまり無理するな」


心配そうな声に振り返ると、エルヴィンが焦った様子でこちらへ駆け寄ってくる。


「うん、大分よくなったから気晴らしにね」


そうニッコリ笑みを浮かべると、彼は支えるように私の腰へと手を回す。

その様子があまりにもスマートで何だかドキマギしてしまう中、チラッと彼へ視線を向けると、エメラルドの瞳がじっと私を見下ろしていた。

その瞳はどこか不安気に静かに揺れている。


「まだ帰りたいと願っているのか」


「ううん、みんながいう通り何をしても帰れないみたい。だからもういいの」


そう言葉にすると、グレンが死んでしまった現実に胸がギュッと締め付けられる。

私は痛みに耐えるように胸を掴むと、大きく息を吸い込んだ。


「そうか……お前はこれからどうするつもりなんだ?」


エルヴィンはそう話しながらに、腰を抱く腕を強めていく。


「うーん、どうしようかな。とりあえずお城は出て、街へ行ってみようと思ってる」


「なっ、なんで城を出て行くんだ?」


戸惑った様子の声に顔を上げると、私はニッコリ笑みを浮かべて見せた。


「今までご厚意に甘えてばかりだったから……。戻れないとわかった以上、お城でお世話になるわけには行けない。だから街へ出て、職を見つけて自活できるように頑張る」


不安だけどね……。

私の住んでいて世界とは全然違うし、簡単に職も見つけられないかもしれない。

でもグレンが私に与えてくれた人生をしっかり生きて行かなきゃ。

私は真っすぐに前を見据えると、池の向こう側に映る城壁を真っすぐに見つめた。


「……ッッ、待て、それなら俺の助手になってくれないか?今人手が足りなくてな……部屋は俺が用意する。報酬だって出す。俺にはあんたが必要なんだ」


「へぇっ!?いやいや、私は貴族様じゃないしお城に居る事自体おかしいでしょ。気遣ってくれてありがとう。優しいね」


「違う!!!」


エルヴィンはそう叫ぶと、私の腰を強く引き寄せそのまま胸の中へ閉じ込めた。


「どっ、どうしたの!?」


突然の事に戸惑う中、彼は逃がさないとばかりに強く抱きしめる。


「違う、俺は……あんたが戻ってきたら伝えたい事がいっぱいあったんだ。だけどあんたを前にしたら、なぜかなかなか言い出せなくて……。俺はずっと後悔していたんだ。あんたに何も伝えずに行かせてしまった事を……」


絞り出すような震える声に私はそっと彼の背に手を回すと、優しく包み込んだ。


「俺はあんたを引き留めたかった。でも俺は臆病で弱くて、だから見送る事しか出来なかった。でもお前が消えて……伝えることが出来ない現実に、心が壊れそうになった」


必死に伝えようとする彼の心に触れると、私はなんと返せばいいのか戸惑う。

きっとあの時彼に引き留められたとしても、私は帰っていただろう……。

でもそこまで私を想っていてくれた事実は素直に嬉しい。


「ごめんね……」


「違う、謝ってほしいわけじゃない。俺は……あんたが好きだ。愛しているんだ。今も昔もこの先もずっと。だから俺の傍に居てほしい。ただそれけなんだ!」


突然の告白に茫然とする中、抱きしめる腕の力が緩むと、私は恐る恐るに顔を上げた。

彼の顔はゆでだこのように真っ赤に染まり、恥ずかしそうに視線を逸らせる。


「えーと、それは……あの……」


「いい、答えはまだいらねぇ。あんたには大事に想っている奴がいると知っている。だけどちゃんと伝えておきたかった。あんたは俺を子供扱いしていただろう……わかってるんだ。でも今度からは俺を一人の男としてみてほしい。あんたの心からその男が消えるのかわからないけれど……俺はずっと待つよ。6年変わらなかっただ、今更変わるはずがない」


耳まで真っ赤に染めたエルヴィンは、エメラルドの瞳をこちらへ向けると、その瞳に私の姿が映し出される。

その瞳に胸の奥が小さく高鳴ると、頬の熱が高まっていくのを感じた。


「あっ、その、私は……うぅ……本当なの?」


そう弱弱しく何とか言葉にすると、彼はコクリッと深く頷いた。


「今はこれだけ我慢しておいてやる。これからは覚悟してろ」


エルヴィンは私に額へそっと顔を寄せると、チュッと唇を当てる。

驚きのあまり後退る中、私の頬もきっと彼と同じぐらい真っ赤に染まっているだろう。


「俺の助手になるように手配しておく。じゃぁまた後でな」


エルヴィンはしてやったりといった様子で口角を上げると、そのまま部屋へと戻って行く。

彼の背を姿を眺めながらに私は崩れ落ちるように膝をつくと、暫くその場所から動く事が出来なかった。



挿絵(By みてみん)




それから二人は……。


挿絵(By みてみん)

最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!

初のコラボ作品でしたが、完結が遅くなってしまって本当に申し訳ございませんでした。

またこういった形で、様々な方とコラボ作品が出来ればなぁと思っております。


素晴らしいイラストを本当にありがとうございました。

物語はここで完結ですが、二人の後日談等、ゆっくり更新できればと思っております。

またお付き合い頂けるよう、頑張ります。

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