表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の矛  作者: 芥流水
十勝沖海戦
9/22

日本の誇り

長門型のターン

『長門』『陸奥』は戦艦『ヴァリャーグ』と戦っていた。


長門型、ヴァリャーグ級共に主砲は四○糎八門である。建造されたのは長門型の方が先である。


とはいえ、能力的には然程長門型が劣っている訳では無い。寧ろ、幾ら米国の協力が有ろうと、ソ連は水上艦を作り慣れておらず、更には乗務員練度の差も手伝い、長門型の方が有利なくらいである。


『長門』の主砲が火を吹き、海戦が始まった。


日ソ艦共に第七射撃迄は命中弾は無く、交互射撃に徹していた。然し、第八射撃で『長門』が命中弾を出した。


「砲術より艦橋。次より斉射」

八門の四○糎砲が唸りを上げる。九一式徹甲弾が敵艦の後方に命中し、射出機を吹き飛ばした。


「観測機より受信『命中二』」

『長門』艦長、矢野英雄大佐はその報告を受け、思わず微笑んだ。

「此れで『陸奥』も命中弾を出せば、勝ったも同然だな」


敵艦も、一方的にやられてばかりでは無い。第十射撃で、『長門』に直撃弾を得た。尤も、それと粗同時に『陸奥』も、敵三番艦を狭叉したが。


此れにより『ヴァリャーグ』には、『長門』と『陸奥』の計一六門の四○糎砲が、四○秒毎に降り注ぐ事になった。


敵艦には、既に五発の命中弾を与えているのだが、砲火は衰えた様子を見せなかった。


敵艦の第一斉射は幸い『長門』に当たらなかった。

「機関より艦橋、第六缶室浸水」

それでも流石は四○糎砲と言うべきか、微小乍らも損害を与えてくる。


轟音が響き、『陸奥』から第二斉射が放たれる。それが敵艦に一際大きい光を生み出した。


敵艦は引き続き発砲するが、その砲火は先程と比べて明らかに劣っていた。

「どうやら『陸奥』が敵主砲を破壊した様だな」

「はい。有難いです。此れを機に一気に撃沈したいですね」


そんな艦橋の声が砲術指揮所に聞こえたかどうかはわからないが、次の第五斉射で『長門』は二発の命中弾を出し、敵艦の第二主砲を潰した。


此れで敵艦の主砲は、その半分が破壊された。更には、その体の至る所から黒煙をたなびかせ、最早勝ち目は無きに等しかった。


それでも『ヴァリャーグ』の主砲は咆哮を続けていた。併し、それも虚しく次々と降り注ぐ弾丸に忽ち晒される。


そして、『長門』の第七斉射。『ヴァリャーグ』の第一砲塔前方に命中。艦首を切断された。


更に追い打ちをかける様に『陸奥』の第五斉射の一つが、先程破壊された第三砲塔に命中した。それは艦底部付近で爆発し、『ヴァリャーグ』の底に大穴を開けた。


此れらが決定打となり、『ヴァリャーグ』は継戦能力を喪失した。速力も大幅に衰え、隊列から落伍しかかっている。


『長門』と『陸奥』は敵三番艦から目標を外し、苦戦している『日向』を助ける為、敵四番艦に目標を定めた。


『長門』と『陸奥』の艦上で、主砲塔が旋回し、砲身が俯仰した。


一分後、『長門』『陸奥』から放たれた射弾が、敵四番艦に向けて、放たれた。


『日向』に向けて敵四番艦は既に第一斉射を放っていた。『日向』も必死に打ち返してはいるものの、如何せん、四糎も上の主砲を持つ艦への効果は少ない。


『日向』も『伊勢』と同じ道を辿るのか、と『日向』艦長橋本大佐は表面に出さなかったものの、内心、目の前が暗くなっていた。


突如、敵艦の前方に水柱が立ち上がった。

「『長門』と『陸奥』か……」

橋本大佐は安心した様に呟いた。


「『ヴァリャーグ』が沈んだのか……」

『カリーニン』艦長マールトゥは信じられない様に言った。『カリーニン』も敵がイセ・タイプ戦艦であったからこそ勝利を得ていたが、ナガト・タイプ相手には勝てるかどうかといった所であろう。


いや、三六糎とはいえ、既に多数の砲弾を喰らっている。此れでナガト・タイプの砲弾を受けてしまえば、忽ち撃沈されるだろう。


そこ迄考えてマールトゥは艦内電話を取り上げた。


敵艦の主砲塔が旋回してゆくのを見て、橋本大佐は何とか窮地を逃れた、と一息ついた。


先程敵艦は『伊勢』を戦闘不能に陥らせる為に、八回斉射を行った。ここで、『日向』に同じだけ手間取れば、『長門』『陸奥』に先手を取られてしまう可能性が大きい。

「そうなれば敗北は必至。と思ったんだろうな」

砲を向けられた『陸奥』艦長小暮軍治大佐は独りごちた。


相変わらず敵艦には『日向』の三六糎砲弾一二発が三○秒毎に降り注いでいる。


『長門』と『陸奥』が第二射撃を行うのと敵艦が新たに第一射撃を行うのはほぼ同時で有った。


『陸奥』の射撃は敵艦後方に落下したが、『長門』の射撃は敵艦の正面に巨大な水柱を噴き上げた。

敵艦は『長門』と『陸奥』の至近弾に前後から挟まれた形になる。


敵四番艦の射弾は『陸奥』の後方に水柱を立てた。


そして第三射。『陸奥』は三度目の正直といった所か見事に敵艦に四○糎砲弾を命中させた。

「砲術より艦長。次より斉射」


どうやら『陸奥』は先程の戦闘でヴァリャーグ級戦艦との戦闘のコツを掴んだらしい。確かな手応えを小暮大佐は得た。


敵艦の射弾が『陸奥』を飛び越え、左舷側に降り注ぐ。その内一発は至近弾となり、『陸奥』を揺らした。どうやら水上戦のコツを掴んだのは、此方だけでは無いらしい。


主砲発射を告げるブザーが鳴り、『陸奥』が敵四番艦に対する第一斉射を放った。

八門の砲口から巨大な火焔が吹き出し、交互撃ち方の倍に匹敵する衝撃が、『陸奥』を震わす。


敵四番艦の艦上にも、発射炎が確認出来る。


小暮大佐が見つめる中、敵四番艦の周囲に飛沫が上がった。水柱が敵艦の姿を隠す。


水柱が崩れ、敵四番艦の姿が明らかになる。


小暮大佐の目に飛び込んで来たのは、巨大な火焔であった。『陸奥』の射弾は、敵四番艦の後部に命中し、火災を起こした様である。


その直後又もや敵艦が水柱に姿を消す。

「あっ、『長門』が狭叉しました!」

観測員の嬉しそうな声が艦橋に伝わって来た。


併し、喜びも長くは続かなかった。敵弾の飛翔音が此れ迄以上に大きくなったかと思えば、『陸奥』に衝撃が走った。敵四番艦の直撃弾を受けたのだ。

「砲術より艦長。四番砲塔に被弾。使用不可能」

「了解。このまま砲撃を続行せよ」


『陸奥』は六門に減った四○糎砲で尚も砲撃を続ける。更には『長門』も斉射を開始し、愈々敵艦は追い詰められていた。


『陸奥』の第三斉射が敵艦を襲う。弾着と同時に敵四番艦の艦上に火焔が踊った。併し、それも一瞬のことで、敵艦は直様水柱に隠れた。


小暮大佐ははっきりと手応えを感じていた。水柱が崩れ、敵四番艦の姿が見えると、それが間違いでは無い事が確認出来た。


敵艦の姿は黒煙に覆われ、最早艦上の様子は全く見えないでいた。あと一押しで、戦闘力を失いそうに見える。


その一押しは『長門』が実行した。『長門』の第一斉射は、黒煙に覆われた敵艦を、正確に捉えた。


敵艦の後方部から、艦橋より高く炎が吹き上がった。その後艦体は『長門』の砲弾が命中した辺りで折れ、水中に沈んで行った。


併し、『陸奥』は此れで安心、という訳にはいかなかった。敵四番艦が最後に放った斉射が『陸奥』に向かって、進んでいた。


弾着の水柱は『陸奥』の左右両舷に上がり、艦橋には強烈な衝撃が伝わって来た。

すわ誘爆でも起こしたのか?と思ってしまうほどの強烈な一撃であった。

「副長より艦長。煙突に被弾。缶室被害軽微」

副長からの報告に小暮大佐はふぅと息を吐く。

「運が良かったな。下手をすると艦橋に直撃していたかもしれん」


此れで『長門』『陸奥』は二隻の敵艦を屠った事になるが、まだ海戦は終わったわけでは無い。


小暮大佐は戦場を見渡し、次なる獲物を探した。

次は扶桑型のターン(予定)


誤字、脱字、ココがおかしいという所が有りましたら、知らせて頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ