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帝国の矛  作者: 芥流水
十勝沖海戦
13/22

攻防戦-防

重に重巡の活躍です

 高雄型重巡四隻と、利根型重巡二隻は敵巡洋艦、駆逐艦を相手に大立ち回りをしていた。


「右砲戦用意。目標右三○度、敵軽巡」

『利根』艦長、西田正雄大佐の命令を受け、『利根』は『紀伊』に向かい走る敵水雷部隊に主砲を向けた。

 八門の二○糎砲が火を噴いた。


 利根型は、当初最上型と同じ一五・五糎砲を搭載する計画であった。しかし、そこに起こったのが、社会主義勢力の欧州進出であり、第二次倫敦海軍軍縮条約である。


  第二次倫敦海軍軍縮条約の結果、日本は二○糎砲艦の所持可能量が増えた。その結果、利根型は二○糎砲に換装された状態で建造された。


 最上型の主砲を二○糎砲に換装するという計画もあったのだが、

「確かに一五・五糎砲は二○糎砲に火力で劣るが、速射性能で十分に補える」

「新たに戦艦や空母の建造で忙しいのに、四隻も主砲換装出来ない」

「二○糎砲に換装したら、第二砲塔に仰角を与えなければいけないので、不恰好だ」

 等の反対意見が続出し、敢え無く取り止めに成ったのであった。


 利根型は二○糎五○口径連装砲四基八門を装備しているが、それらは全て艦橋前部に集中している。後部は飛行甲板と成っており、射出機(カタパルト)二基が設置されている。又、格納庫内には水偵六機が収納されており、他の重巡の二倍となっている。その為、利根型は艦隊の重要な目として機能している。


『利根』は三斉射目に、命中弾を得た。途端に敵艦が火達磨となる。

「魚雷に命中したか。よし、目標、後方の駆逐艦。砲撃始め」


 敵駆逐艦は旗艦が撃破されたにも関わらず、尚突撃してくる。敵艦は単縦陣を敷いていた為、『利根』は余り砲を旋回させずに新たな斉射を撃った。


『利根』から放たれた八発の二○糎砲が着弾し、敵艦の周囲に水柱を立てる。いや、それだけでは無い。高雄型重巡三番艦『鳥海』も、『利根』と同じ敵水雷部隊に砲撃を開始していた。


『利根』の八門、『鳥海』の一○門、計一八門の二○糎砲弾が敵駆逐艦に降り注ぐ。砲弾が直撃した駆逐艦は、黒煙を出し、速度が著しく衰えるか、瞬時に巨大な火柱と化す。


 一隻が落伍、二隻が沈没した敵駆逐艦は、戦艦への雷撃をあきらめたのか、くるりと反転した。


「敵駆逐艦変針。離脱する模様」

 それを聞いた西田大佐は即座に叫んだ。

「魚雷だ!面舵一杯。針路三五○度!」

 それを受け、『利根』は右に艦首を振る。敵艦はまだ射撃圏内にいる為、砲塔も、正面を向く様に旋回した。


 見張員が目を凝らすと、確かに幾条もの白い筋が『利根』に向かい伸びてくる。

「前方より雷跡多数!」

 西田大佐は、正面を見据えて仁王立ちをしている。

『利根』は魚雷に対して、既に艦首を正対させており、もう既に命令を出す必要は無い。


『利根』は魚雷が迫り来る中を、尚も敵駆逐艦に向け砲撃していた。横では『鳥海』も魚雷を撃たれたのか、右に艦首を回していた。


 するすると音も無く、魚雷は『利根』へ向かって来た。

「雷跡、本艦の右舷を通過」

「雷跡、本艦の左舷を通過」

『利根』は運良く、敵駆逐艦の魚雷を躱し切った。


「何とか避けることが出来たか……」

 西田大佐が息を付こうとしていた時であった。突如轟音が聞こえてきた。


「何事だ」

 西田大佐の疑問に答える様に、見張員から報告が上がってきた。

「『鳥海』が一本避雷した模様」


 しばらくして、通信室から報告が入ってきた。

「『鳥海』より入電。『我避雷スルモ戦闘ニ支障ナシ』」


「そうか……」

 西田大佐は漸く先程付き損ねた息を付いたのであった。



 派手な爆発音を上げ、『扶桑』『山城』の三六糎砲弾が、敵水雷部隊の周囲に水柱を立てた。


 至近弾を受けた艦は、水柱に飲まれ、撃沈したかに見える。併し、水柱が収まってみると、ピンピンとして、『扶桑』『山城』に向け、突撃して来る。


 副砲の一五糎五○口径単装砲も火を吹く。『扶桑』は先程敵戦艦の最後の一撃で四番主砲塔が潰された影響で、右舷側副砲も一基使用不可能に成っている。

 併し、其れでも両艦合わせて一五門の副砲が右舷側を守っている。


 敵水雷部隊は其れでも、『扶桑』『山城』に向かい突進していたが、三六糎砲弾と一五糎砲弾の洗礼に一隻、又一隻と撃破されて行く。


 その時、横合いから敵艦へと砲弾が飛翔してきた。

 見ると、高雄型重巡一番艦『高雄』が、前部の二○糎連装砲三基六門を斉射していた。


「今まで何をやっていたんだ……」

『山城』艦長、原鼎三大佐の呟きが漏れた。併し、これはある意味理不尽でもあった。


『扶桑』と『山城』に向かい突っ込んで来ている敵艦は、元々レーニングラード級空母二隻の護衛に回っていた艦であった。

 ところが、赤軍空母は二隻とも、南雲中将率いるGF(連合艦隊)機動部隊によって、海の藻屑と化してしまった。


 空襲自体は一度で収まり、-機動部隊の第二派攻撃隊は、敵空母部隊の残党に止めを指すこと無く、戦艦部隊の攻撃に向かった-空母を護衛していた部隊は、戦艦部隊に合流しようとした。併し、駆逐艦の中に至近弾により缶室に損害を受けている艦が有り、直ぐには合流出来ない状態であった。


 漸く追いついた時は、既に海戦もたけなわと成っていた。その時、不幸にも赤軍水雷部隊の目に止まったのが、『ガングード』を叩きのめしていた戦艦二隻であった。


 赤軍水雷部隊は、即座に攻撃を仕掛け様としたが、すんでの差で『ガングード』は撃沈された。併し、水雷部隊は目標を変えることをせず、『扶桑』『山城』に突っ込んで行った。


 空母護衛をしていた水雷部隊が、海戦に途中から参加したことは、赤軍にとって、寧ろ嬉しい誤算となった。完全にGFの虚をついたのである。

 もし、この部隊が二倍程度の規模だったならば、或いは『扶桑』か『山城』の何方か一隻を、撃破出来ていたかもしれない。

 つまり、現実にはそうは成らなかった。


 不意を付かれ、『高雄』の横からの砲撃を受けた赤軍艦隊は、俄かに怖気付いて、破れかぶれに魚雷を発射し、逃げ出した。


「面舵一杯。針路三四○度!」

 原大佐は当然の様に、魚雷と正対となる角度に艦隊針路を向ける。

「砲撃続行」

『山城』の舵が効き始めるより前に、原大佐は新たな命令を出した。


『山城』が面舵を取り終え、舵を中央に戻すと同時に砲塔が旋回した。

 そして、敵駆逐艦に三六糎砲が追撃をかけた。


「魚雷右舷通過」

「魚雷左舷通過」

 敵魚雷は次々と『山城』の横をすり抜けて行く。抑もの距離が遠過ぎることも有り、全く当たらない。

「正面より雷跡!」

 見張員の報告が飛び込んできた。

 今から変針した所で、間に合わない。魚雷が、『山城』の立てる水圧に跳ね飛ばされることを、祈るのみだ。


「雷跡消えます。当たります!」

 見張員の悲鳴に近い報告に、原大佐は腹に力を込めて前を向いた。


 瞬間。『山城』を、かつて無い程の衝撃が襲った。

「艦首右側に避雷。速度二○ノットに落ちます」


 航海長の報告を聞き、原大佐は深く息を吐いた。

 これで魚雷は全て過ぎ去り、『山城』はこの海戦最大の山場を乗り越えたのであった。

海戦は次で終わります。


併し、戦争自体は未だ未だ続きます。

人間とはかくも醜いものかな。


誤字、脱字、此処がおかしいという所有りましたら、教えて下さると嬉しいです

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