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自分の目を疑った。何度も目をこすって確認した。
・・・しかし、目の前にいる人物は間違いなくディアらしい。彼は、得意げな顔で私の反応を窺っている。
「どうだ、これで文句はないかい?」
「も、文句ありまくりよ!何なのその姿!?しかもあんこの傷口舐めたし・・・!」
言葉を失った私の代わりに、きなこちゃんがこれでもかと質問をする。もはや噛みつきかねない勢いだ。
うわぁ、さっきまで私たちディアのことを上から見てたのに。急に目線が上からになって、凄く変な気分。
しかしそんな私たちのことなど気にせず、ディアは悠然と説明を始めた。
「僕みたいな冥王星の者は、皆この術が使える。対象とする者の血を自分の体内に取り込むことで、体のつくりを解析し、コピーすることが出来るんだ。ちなみにこれは、性別が違っても自分の性別に直してくれる」
「それであんこの血を舐めたっていうの!?最っ低!!」
「お前が言ったんだろう?種族が同じなら、恋愛も可能だって」
「それはあくまで、あんこが好きになったらよ!!でもまぁ、まず有り得ないことなんだから」
「そんなこと分からないだろう。それとも何だ。お前には、彼女の気持ちが全てわかるとでも?」
「つくづく腹の立つ野郎ね・・・!」
ディアもきなこちゃんも私のことを置いてきぼりで、どんどん話を進めていく。最早、私が口を挟める隙も無い。
何でこの二人、常に喧嘩腰なんだろうか。もっと仲良くしてくれれば、話も脱線することがないのだろうに・・・。
「とにかく、あんたなんかをあんこが好きにならないわよ!」
「それは分からないだろう。僕が彼女を恋に落として見せる」
「えっと、あの」
「へぇ~、出来るもんならやってみなさいよ!」
「いいだろう、後で後悔しても知らんぞ」
ああ、勝手に色々決まってしまったみたいだ・・・。「もう勝手にして」なんて諦めてる私も、やっぱり適応能力高いのかな?それを喜んでいいのかどうなのか、悩みどころだけど。
そんな私の苦労など知らないディアは、私に手を差し出した。大きくて、どこからどう見ても人の手だ。
「これからよろしく」
にっこりと笑って・・・これは握手を求めてるのかな?
でも、ちょっと順序が違うんじゃないのかな。冥王星って、自己紹介っていう文化無いの?
出会って初めての言葉も、プロポーズだったし。握手云々の前にすることないのかな。
・・・しょうがないな。
「私の名前は安田智子。いい加減、『君』とか『彼女』じゃなくて名前で呼んで?じゃないと、いつまでたってもディアを好きになることなんてないよ」
「安田智子・・・」
「そう。で、こっちが木山奈々子ちゃん。私はあんこって呼ばれてる。奈々子ちゃんのことは、きなこちゃんって呼んでるの」
「お前、なんて上から目線な呼び方止めてよね」
「じゃあきなこちゃんも、ディアのことあんたって呼べないね」
「あんこは意地悪だねぇ・・・」
私の言葉に、きなこちゃんは苦笑した。
私抜きでどんどん話を進めた罰だよ。そう笑ってから、ディアの方を向き直す。
「こちらこそよろしくね、ディア」
「私もいるの、忘れないでね」
そう言って、差し出された手を握る。きなこちゃんが、横から一言付け足す。
ディアは、心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ああ!」
握り返された手は温かみを感じられる、本物の人の手の様だった。
こうして私たちの日常に、ディアと言う非日常を受け入れた。
ディアは服着てますよ。裸じゃないですから!