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一時限目が終わったタイミングで、私たち三人は教室に戻った。文化祭準備で学校中は騒がしく、ディアは興味津々にあちこちを見ては「あれは何だ」「これは何だ」と尋ねてきてとても楽しそうだ。
私たちのクラス、二年B組も廊下や教室中にカラフルな装飾品や沢山の衣装が広げられている。
うわ、メイド服、ギャルソン、警察官の制服、チャイナドレス、着物、フリルのエプロン、その他もろもろ・・・・。絶対に着たくない衣装がいっぱい。あれで接客とか、いやだなぁ。
「智子ちゃんも奈々子ちゃんもどこ行ってたのさ。もう一時限目でみんな衣装の着付けしちゃったよ」
「ご、ごめん・・・・」
「ほらほら、もう着付けは良いからこっち手伝って!看板作るの大変なんだから」
「うん」
私たちのことを見つけたクラスメイトの子によって教室の隅まで連れて行かれ、ペンキを塗るハケを渡された。看板を塗っているところはレジャーシートが敷いてあって、周りにペンキ缶が並べてある。
既に木の板には下書きが記されてあって、黒田蜜也が黙々と色付けをしていた。
「黒蜜、私たちどこやればいい?」
「ああ、来たのか。・・・・じゃあ、あんこはここを大まかに塗ってくれ」
「わかったよ」
「きなこは大まかに塗られているところを綺麗になるように仕上げてくれ」
「はいはい」
黒蜜が支持したところをペンキで塗っていく。
『黒田蜜也』は私たちの幼馴染で、あだ名は『黒蜜』だ。と言っても私たち三人がお互いにそう呼んでいるだけで、他の人は大体苗字か名前で呼ぶ。言わば、三人だけの特別な呼び名。黒蜜は学力はそこそこで、運動がよくできる。
昔はよく三人で遊んでいたし、今だって時々勉強会のようなことをする程仲が良い。
「一時限目は何してたんだ?」
「・・・・・・まあ、ちょっとね」
「そうか、でもいいのか?着付けしなくて。あんこもきなこもサイズは測ってあるとはいえ、一回着た
ほうが」
「いいよいいよ、本番一回着れば十分だよ!て言うか、着たくない」
「そうか」
「黒蜜は何着るっけ?」
「俺はギャルソンだよ」
「そっか」
三人で喋りながら看板にペンキを塗っていく。
黒蜜は着付けをしなかった私たちを心配してくれたけれど、正直なところしなくてよかった。あんな恥ずかしい恰好はなるべくしたくない。
するとピタリと蜜也は手を止め、私に尋ねてきた。
「なぁ・・・・」
「何、黒蜜?」
「あの転校生、めっちゃこっち見てきてるんだけど。何なの?」
黒蜜にそう言われて後ろを振り返ると、確かにディアがこちらをジトリと見つめていた。
ひえっ、なんか凄く「気に食わない」って顔してる!?
「ディア・・・・どうしたの?」
「なんでもない、気にするな」
いやぁ、気にするなと言われてもそんな無茶な。明らかに「不服です」って顔に書いてあるし。
「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
急に黒蜜は立ち上がってトイレへと向かった。
「どうしたんだろう、黒蜜・・・・」
「あんこ、ちょっといいか?」
ディアは黒蜜が教室を出て行ったのを見計らって私を呼びかけてきた。やけに真剣な顔をして。
「あんこ、あいつを信じないほうがいい」
「はあ?」
「あいつが殺気を僕に向けていた奴だ」
「はぁ??黒蜜が宇宙人だとでも言うの?」
「そうじゃないが、あいつは信用ならない」
「なっ・・・・・・!?」
一体ディアは何言ってるの?
黒蜜がディアに殺気?そんなわけないでしょ。黒蜜はディアのこと知らないんだし、何より私たちの幼馴染がディアにそんなことするはずが無い。
「しかしあいつは・・・・」
「もういい。今度そんなこと言ったら、もう口きかないよ。ディアは他のところ手伝ってあげて」
それだけ言って看板塗りに戻る。
最悪!ディアがそんなこと言うやつだとは思ってなかった!!
それからしばらくして、黒蜜が戻ってきた。
「ただいま、ってどうした。怒ってるのか?それとも調子が悪いのか?」
「・・・・なんでもないよ」
黒蜜が心配そうにに私に尋ねてきた。
こうやって私のことを気にかけてくれるのに、ディアに殺気なんて向けるわけないじゃない。もしかして、適当な事言って黒蜜と私を引き離そうっての!?
そうだとしたらディア、最低だよ。




