穢れし奇魂⑤
「神を倒すだと…? 思い上がりも甚だしいわ!」
土地神が叫ぶと同時に、クエスト発生の通知が届いた。
どうやらこれが今回の事件の本当のクエストのようだ。
―INFO―
特殊クエスト:穢れし土地神
荒ぶる神となった土地神を倒し、その魂を鎮めよ。
クエスト期限:無期限
※土地神を倒せなかった場合、土地神が近隣の街へと進行を始めます。
土地神の宣言通り、私が止められなかったら街を襲うつもりのようだ。
「小娘二匹で我を止めるなど笑止!」
土地神が少女同様に虫を操りこちらに向かわせる。
「誰が二人だけだって言った?」
だが、その虫たちは私とミラの元に届く前に巨大な物に押し潰された。
「なっ!?」
「ネウラたちを忘れてもらってたら困るかな!」
「ギュゥゥ!」
先ほどまで足止めをしていたレヴィとネウラがこちらに戻ってきて私の側に来る。
「ごめんねお母さん。あの子止められなかった…」
「ううん…ネウラたちが気に病む事じゃないよ…。でも今は…」
「うん…! あれを倒さないとあの子が浮かばれないもんね!」
「ギュゥ!」
あの子の事で悲しむのは後だ。
今はあの土地神を倒さない事には異変は終わらない。
「この下等生物風情がぁぁぁぁ!」
土地神は操った虫を潰された事に腹を立てたのか、怒りを露わにする。
とはいえ、少女の能力が虫を操ることだけだったことから、あの土地神の能力の一つはわかっている。
だがその他の能力についてはまだわからないため、迂闊に出るわけにはいかない。
戦闘において実力差のある相手には接近戦の方がいいという話もあるが、信仰の落ちている土地神の実力がどれほどなのかというのはわからない。
しかし、本当に力が戻っているなら虫なんか操らずに自分の手で攻撃すればいい。
それをしなかったということは、力はまだ戻っていないのかもしれない。
ならっ!
「『ファイアランス』!」
私は虫関連のモンスターの弱点である火系統の魔法で攻撃する。
「くっ!」
土地神は虫を射線上に集めて攻撃を防いだ。
だが、防御に使った虫はその1/3程が燃えて地面に落ちた。
いくら土地の虫を操れたとしても、無限のいるわけではない。
つまり数を減らせばその分あちらの手数も減っていくはずだ。
私は続けて火系統の魔法で攻撃を続ける。
「ちぃっ!」
私の狙いに気づいたのか、もしくは下手に虫を減らされるのを嫌がったのか、今度は虫で防御せず回避した。
だが私の攻撃を避けたところで、こちらは一人ではない。
「なっ!?」
私の攻撃に気を取られていた土地神は、いつの間にか土地神の近くに回っていたミラの回し蹴りを無防備に喰らった。
ミラの回し蹴りを喰らった土地神は、勢いを殺せずそのまま祠があった森の奥の方まで蹴り飛ばされた。
あの様子だとミラも怒ってるんだろうなぁ…。
それにしてもミラの一撃であれほど吹き飛んだってことは、やっぱりまだ力は戻っていないのだろう。
それに土地神だとしたら力の源はその土地の信仰だ。
その信仰がなくては土地神も力は弱まるはず。
ではどうやって力を集めていたのだろうか。
考えられるのは怨念といった恨みだろう。
だがもし恨みが力の源だとして、村を襲った時がピークになるはずだ。
それ以降は村人から恨みの念といったものは回収できない。
しかし、土地神は少女から力を奪った時にこう言っていた。
『五十年でこれぐらいか』と。
そうなるとこの五十年間に何かしらの方法で力を集めていたのかということになる。
少女が集めていた力…源…恨み……まさか…!
少女が何度倒されても復活する理由は倒された事による恨みを抱かせるため…!?
それを集めて力に変換していた…?
つまり少女が倒されれば倒される程、土地神が強くなるというシステムにしていたのかもしれない。
それがもし正解だとしたら随分悪趣味な事をしたもんだ…。
もし私の考えが正しかったとして、プレイヤーがそこまであの子を倒した数が多くなかったとしてもミラの蹴り一発喰らった後の反応がないのが不自然だ。
レヴィとネウラは周辺を警戒し、一発喰らわせたミラは飛んで上から警戒している。
だがその考えはすぐに打ち消された。
突如地面が大きく揺れ始めたのだ。
「何っ!? この揺れは!?」
「! ご主人様! あれっ!」
空にいるミラの声が聞こえたので、揺れに耐えながら上を見てミラの指差している方を見る。
するとそこには…。
「何…あの巨大な物は…」
祠のあった位置に二十メートルはある巨大な人型の土でできたゴーレムらしきものが聳え立っていた。
「この感じ…もしかして…」
「ネウラ? 何か感じたの?」
「気のせいかもしれないけど…周囲の木々や植物の生命力が減ってるような…」
植物系モンスターであるネウラには周囲の木々の状態がわかるのかもしれない。
そのネウラが感じた違和感。
木々の生命力が減っているということは…。
「あれが力を土地から吸ってる…?」
「たぶんそうかも…。でもそんなことを続けたらこの一帯の土地が死んじゃう…」
「土地が死ぬって詳しく言うとどういうこと…?」
「土地が死んじゃうって事は、そこから新たな命が生まれないって事なの…。土も草も生物さえも…」
所謂砂漠化のようなことと同じなのだろうか?
いや、ネウラの口調からするとそれよりももっと酷い状態なのだろう。
しかし、土地から力を吸うなんてことができるのはこの場で一人しかいない。
つまりあの巨大なゴーレムは…。
「土地神…! 貴方って神はどこまでこの土地の事を恨んで…!」
「ご主人様、あれはもう土地神などではありません。浄化しきれない程の不浄を抱え、ただその土地を憎むだけの存在になってしまいました。かつての私の一族のように…」
いつの間にか降りてきたミラは私の言葉に自分の考えを付け足す。
「しかし、ネウラ姉様のお話が本当だとしたら、早く倒さないと大変な事になります。ですのでご主人様、申し訳ありませんが血を頂けませんか?」
「…うん、わかった」
すっと素肌を晒すと、ミラはそこに牙を立てて私の血を吸う。
今回は急ぐということからか、ゆっくりではなくなるべく急いで血を吸っている。
前回同様三割程HPが減り、ミラは口を離した。
そしてミラは能力解放したため、成人ぐらいに成長した。
「では私が空から攻撃を仕掛けます。ご主人様やネウラ姉様、レヴィ兄様は地上からお願いします」
「ギュゥ!」
「任せて!」
そう言うとミラは再度空に上がった。
私たちもあのゴーレムを止めるため、地上から攻撃を仕掛ける事にする。
「じゃあ私とレヴィが攻撃を仕掛けるから、ネウラはあのゴーレムの足を止めて。木が一杯あるこの森なら、ネウラの力で拘束できるはずだから」
「うん。木々が弱ってる部分に関しては数で何とかカバーしてみる。お母さんも気を付けてね」
「ありがと。じゃあ行くよレヴィ!」
「ギュゥ!」
私とレヴィは巨大ゴーレムの元に駆ける。
私は右側、レヴィは左側からだ。
敵が巨大な分、下手に固まるよりは分散して攻撃した方が被弾する確率は低くなるからだ。
ゴーレムは私たちが動いた事に気づいたのか、その巨大な腕で攻撃しようとする。
それをネウラが木々を操ってゴーレムの腕に巻き付かせて動きを止めようとした。
とはいえ、かなり力が強いのか止まりはしなかったが、かなり減速はした。
私はその攻撃を避け、そのままゴーレムの腕の上に乗る。
目指すは頭部!
腕の上を走っていると、進行上に二メートル程の人型のゴーレムが腕から生えてきた。
「邪魔っ!」
私は【切断】スキルで見えている線をすれ違い様に斬って前に進む。
幸い小さなゴーレムはそんなに硬くもなく、動きも鈍かったので簡単に斬る事が出来た。
恐らく能力のほとんどをこの巨大ゴーレムの作製に回しているのだろう。
とはいえ、これがもっと期間が経っていたらこんな簡単にはいかなかっただろう。
このタイミングでこの事件に関わっていて本当によかった。
でなければもっと大事になっていただろう。
「でもいくら弱いって言っても…」
私の前には無数のゴーレムが立ち並んでいる。
その数は優に五十は超えていた。
だが、その数は次の瞬間には半分に減らされた。
空を飛んでいるミラからの援護射撃がゴーレムを襲ったのだ。
いくら能力解放していたとしても、まさかの一撃で倒すことに驚いたが、攻撃した痕をよく見ると血で濡れていた。
そういえばミラってHP減らす代わりに威力の高い【血魔法】使えるんだったね。
「でもこれなら行ける!」
ミラが数を減らしてくれたおかげで、突破しやすくなった。
だから私は全力で駆け抜ける。
進行上どうしても倒さないと進めないゴーレムだけを倒して私はそのまま巨大ゴーレムの頭部へと向かう。
後ろから無視したゴーレムが私を追おうとするが、すぐさまミラの射撃で粉々にされる。
このまま頭部まで順調と思いきや、巨大ゴーレムは残り片方の腕で私が乗っている腕の肩部分の付け根辺りを狙って殴った。
すると付け根部分が破損し、私が乗っている腕全体にヒビが広がり、次の瞬間にはバラバラに崩れた。
「自分で腕を壊して落とすなんてっ!」
とはいえこのまま大人しく落下したら頭部に行くまでに時間が掛かってしまう。
「ギュゥ!」
「レヴィ!?」
レヴィの声がする方を向くと、レヴィがこちらに尻尾を振ってきた。
どうやらあの尻尾を足場にして飛べということなんだろう。
全くレヴィも無茶苦茶な事させるなぁ。
でも…!
「レヴィありがとっ!」
私は落下しながら体勢を変えて、こちらに振られたレヴィの尻尾を思いっきり踏み込む。
レヴィの振りと私の強化された脚力を利用し、勢いよく空に飛ぶ。
そして落下している土壁を次々に足場兼加速装置として利用して巨大ゴーレムの肩部分を目指す。
まぁ土壁を蹴って移動するのは以前タウロス君がやってた真似だけどね。
巨大ゴーレムの肩に乗れた時にはHPは五割を切っていた。
勢いもあったため、さすがにタウロス君のように無傷とはいかなかった。
とはいえ、ここまで来ればあとはこっちのものだ。
私は自分に重力魔法を掛けてから巨大ゴーレムの頭部に乗り、てっぺん部分に手を置く。
「『チェンジグラビティ』!」
私が自身に掛かっている重力を入れ替えた瞬間、巨大ゴーレムは自身の重さに耐えられなくなり、ゆっくりと膝をつき、そのまま全身を地面に倒した。
一方巨大ゴーレムに乗っていたはずの私は…。
「ふぅ…。ミラありがと」
「倒すなら倒すと言ってください。てっきり私が狙撃するものと思っていたんですから」
倒れる前に巨大ゴーレムを蹴り飛ばして上に飛んだ。
そこをミラにキャッチしてもらったわけだ。
「それで、ここからどうするんですか?」
「勿論追撃するよ。力が足りてなかったから土地の力を奪ったぐらいだし、そこまで余力があるとは思えないからね」
「では私が先に攻撃します。ご主人様は止めを。なので少し手を離してしまうので腰辺りに掴まっててください」
私はミラの言う通りに腰辺りを掴んでぶら下がる。
ミラは腕を爪で引っ掻いて血を空中に散らす。
「『ブラッドレイン』!」
空中にまき散った血が硬化し、矢のように巨大ゴーレムを目指して落下して巨大ゴーレムの周囲を貫く。
更にミラは血を流して今度は三つ又の槍の形状にした。
「ふっ!」
ミラはその槍を巨大ゴーレムの頭部目掛けて思い切りぶん投げた。
ぶん投げた槍は、見事頭部に命中して風穴を開けた。
私はその光景を見て、もうこれミラ一人でいいんじゃないかなぁと考えてしまったが、それは仕方ないだろう。
やっぱり空を飛べるっていうのはそれだけでも有利なんだなと改めて実感した。
とはいえ、ミラたちばかりに任せてもいられない。
『チェンジグラビティ』の効果が切れたのか、巨大ゴーレムが身体をゆっくりと起こそうとする。
だが身体中穴だらけになっており、ヒビも全身に広がっていた。
「じゃ、ミラいってくるね」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
私はミラから手を離して落下する。
落ちる前にミラが私が攻撃しやすいように位置を考えて移動してくれたおかげでちょうどいい位置に落下できそうだ。
私は打刀の紅椿を抜く。
「『付加―【紅蓮魔法】!』」
私が唱えると打刀が炎を纏う。
そして巨大ゴーレムが立ち上がり、ちょうど中心の位置に私は落下している。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
打刀を振り、巨大ゴーレムに切っ先が刺さり、そのまま重力に従って落下しながら斬っていく。
ミラの攻撃によりボロボロになった巨大ゴーレムは、打刀を止める程の強度が残っていないのか、引っかかることなく刀を通した。
地面まで着いた私は、振り返り打刀を横に振ってから鞘に仕舞う。
それと同時に巨大ゴーレムは斬った部分から燃えだし、そのまま仰向けにゆっくりと倒れた。
『ミラはマップ兵器を使った』
『範囲内の敵に大ダメージだ』
空も飛べて砲撃もできてマップ兵器も使えて近接もできる…あれ? やっぱりミラ一人でいいのでは?(困惑
結構あっさりですが力のない神様なんてこんなもんですよ…(震え声+言い訳




