穢れし奇魂④
レヴィとネウラに足止めを頼み、私とミラは廃村の建物を目指す。
当然だが人の気配は全く感じられない。
私以外にプレイヤーはいないようだ。
チラッと後ろを見るが、うまく足止めをしてくれているのか虫が迫ってくる様子はない。
とはいえ、時間はそう掛けられないので近くの建物から素早く調べる事にする。
「ふんっ!」
急いで調べると私が考えたのを察したのか、ミラが一番近くの建物の戸を蹴り破った。
確かに急いで調べるとは考えたけど、まさか戸を蹴り破るとは思わないよね?
だが唖然とするのは後だ。
今はあの子を探すのが先決だ。
私とミラが建物に入ると、中からは血生臭く、何やら嫌な臭いが漂う。
「うっ…」
暗視効果のある【梟の目】に入れ替えて中の様子を見る。
だが建物の中は赤黒く乾いた血が壁や床を汚していた。
そして床には白骨と化した遺体の頭部が落ちていた。
恐らくこの中で襲われたのだろう。
少なくともここが祠ではないだろう。
私たちは建物の外に出て違う建物へと向かった。
「ここも…」
もう十軒以上回ったが、どの建物も赤黒くなった血で汚された壁や白骨死体が落ちていた。
どうやらペカドさん一家以外に逃げ延びた村人はいないようだ。
残るは三軒…。
レヴィとネウラの事も心配だし早いところ戻らないと…。
「あれ…?」
「ミラ、どうしたの?」
ミラは今まで蹴り破って中を調べていたのにも関わらず、今調べようとした建物の戸は蹴り破らず普通に戸を開けた。
「この家…血の臭いがしない…」
「!? ミラ! 中に何かあるか調べて!」
私の指示でミラも私と別の場所を調べる。
棚や机に床、目につくところは片っ端から調べた。
だが、特に重要そうな物は何も見つからなかった。
それより、物が少なすぎる…。
もしかしてこの建物はペカドさんの家…?
ペカドさん一家は荷造りをしてたっていうし、必要な物は持って行ったのだろう。
だからここにはそこまで物が見つからなかった。
「ミラ、ここはたぶん外れだ。次の建物に行こう」
「はい、ご主人様」
でもあの家に関しては他と比べて荒された様子が見られなかった。
まるであそこだけ避けていたみたいに…。
「! ご主人様! この家も血の臭いがしません!」
「ならミラ、なるべく中を荒らさないように!」
「はいっ!」
逃げ延びた一家がペカドさん以外にもあった…?
いや…たぶんその一家は…。
ミラに続いて中に入ると、先ほどの建物と違い、中は荒されていた。
血の臭いがしないと言ってたミラも、内部がこうも荒されているとは思っていなかったらしく驚いていた。
「血の臭いはしなかったのに何故…」
「ミラ…。ここはたぶん…あの子の家だよ…」
立ち止まるミラを後ろから両手で抱き締める。
迫害を受けていた吸血鬼一族の一人としてミラは憤っているのだろう。
人種が違うならともかく、何故同じ村人同士なのにこのような事をしたのかと。
「ミラ…人は些細な事でも争うの…。そしてあの子の時は村に大きな問題が起こってた。それであの子が生贄になったにも関わらず事態は好転しなかった…」
「だからってこんな事をしていいわけないです…」
ミラは見てしまったのだ。
荒されている室内の壁に切り刻まれた呪詛の言葉を。
ミラは優しい子だ。
だからこの家の惨状を見て感情移入したのだろう。
でも今は立ち止まっているわけにはいかない。
私はミラを抱えて建物から出て残る一つの建物に向かう。
「っ!? これは…」
遠くからでは普通の建物のように見えた。
だが、焼け落ちない程度に抑えられたのか、建物の外側はところどころ煤で汚れていた。
戸に軽く触っただけでもへし折れてしまうほどだった。
そして内部は更に酷かった。
内部は一部を残して真っ黒に焦げており、白骨死体すら残っていなかった。
恐らく骨も残らない程に焼かれたのだろう。
それも建物が倒壊しないぐらいに調整されて…。
他の建物が血塗れに対してここだけ火災となると恐らく…。
「ここが村長の家なんだね…」
楽には殺さないということだったんだろう。
焼死は最も苦しい死に方と言われることもあるぐらいだ。
なんせ肺が焼かれて呼吸ができないのだから。
勿論溺死なども苦しいと言われているが、どちらが苦しいのかと言われても私にはわからない。
だが一つわかることは、あの子は村長に対してかなり強い恨みを持っていたということだ。
そんな村長の家にあの子がいるわけがない。
ならばあの子は祠から動かされていないということになる。
「でも祠の位置が…」
一通り建物を回ったが、祠のような建物は見当たらなかった。
とすると祠は森の中にある可能性が高い。
でも一体どの方角に…。
悩んでいる私の裾をミラが引っ張る。
「ご主人様! ミラが上から見てみます!」
ミラはそう言うと影を羽にして真上に飛んだ。
そして周りを見渡したミラが私に向かって叫ぶ。
「ご主人様! あの方角に何やら建物があります!」
ミラは腕を伸ばして建物が見えた場所を指差す。
「わかった! ミラ降りてきて!」
方角がわかれば後はこっちのもんだ。
私は降りてきたミラを受け止め、ミラを抱えて見つけてもらった建物に向かって駆ける。
幸いそこまで離れた距離でなかったが、何故か道が整備されてなく、木でうまく視界を遮られていたので見つからなかったようだ。
祠と思わしき建物に着くと、ミラが村の建物の中に入った時よりも悲しそうな顔をする。
「ここには…強い死の臭いがします…」
「死の臭い…?」
「はい…。ミラたち吸血鬼は血という一種の魂を喰らっています。故に死というものが他の種族よりも感じやすいのです…」
「それがここからはする、と…?」
ミラは小さく頷く。
となるとここが例の祠で間違いなさそうだ。
ゆっくりと祠の戸を開けてみる。
どうやら何かが襲ってくるといったことはないようだ。
中は真っ暗で暗視効果があるスキルを持っていなければ何も見えなかっただろう。
祠に入ってすぐ目の前には大きな穴が開いていた。
しかもかなり深い穴だ。
この深さにしたのは生贄となった者が出てこれないようにするためなのだろう。
「じゃあご主人様。ミラがご主人様を抱えて下に降ります」
「あっうん。ありがと、ミラ」
今度は私がミラに抱えられる形になり、ミラはゆっくりと穴の中に降りていく。
下まで着いてしまえば今度は私の魔法で上まで登れるからね。
【落下耐性】があるとはいえ、例えば下が針山とかだったらダメージ喰らうし、安全に降りれるのならそれに越したことはない。
少し経つと下に着いたのか足が地面に着いた。
軽く来た入口を見上げるが、確かにこれは脱出できない高さだ。
あの子はここにどんな気持ちでいたのだろうか…。
暗視効果のある目で回りを見ると、土や埃まみれの木彫りの人形や食器が落ちていた。
人柱として一緒に供えられた物なのだろう…。
私はすっと両手を合わせて目を瞑る。
「…さてとっ」
恐らくあの子はこの穴の中にいるはずだ。
私は白骨死体の中にあの子と同じぐらいの背丈のものを探す。
白骨死体の中には大人ぐらいのが何体かいたが、その正体については予想がついたので再度手を合わせる。
「ご主人様っ!」
どうやらミラが何か見つけたようだ。
私はミラの元へと向かう。
「この白骨死体…歳も若そうですし、年数も百年以内のようです」
「ということは、この白骨死体があの子だね」
「恐らく間違いありません」
「なら早くこの白骨死体をあの子の元に…」
「それは困るな」
「「っ!?」」
突然背後で男の声と何かが歩く音が聞こえた。
私はミラを庇うように後ろを向いて脇差を抜く。
声がした方にはカタカタと口元を動かすガイコツがいた。
「せっかく力の溜まってきた依り代を奪われては敵わん」
「依り代…? この子に何をしたの!」
「何もしとらんよ。強いて言うなら力を貸した程度かのぉ? その娘、この村に恨みを持っていたのでな。だから力を貸してやったのだよ」
「力を…まさかあの虫は!?」
「左様。あれは我の力の一部よ」
「何でそんなことを…」
「何故…だと…?」
「っ!?」
その瞬間、ガイコツから怒気のようなオーラが出た。
「我がこの土地をどれだけ護っていたと思っている! それをこの土地の者は忘れ、都合の良い時しか我を崇めようとしない! そのような土地の者に我が何をしようと問題なかろう!」
「くっ! 【急激成長】っ!」
やばいと思った私は白骨化した少女を抱えたミラを片手で抱えて一気に成長する木に掴まって祠を脱出する。
祠の天井を突き破り、急いで開けた場所に移動する。
開けた場所に移動できた瞬間、祠の方から爆発音が鳴り響いた。
ぱっと後ろを向くと、どす黒いオーラを発しながらこちらに向かって歩いているガイコツがいた。
「っち…あのまま祠にいればよいものを…」
「それより、さっき言っていたあの子に力を与えた理由って…まさか…!」
「そうよ! あの娘にあの力を与え、この土地の生物を操らせ村の者を襲わせた! 愉快だったぞ? あ奴らが泣き喚き、怨嗟の声を上げていたのは…」
「まがりなりにも土地神なのに…」
「まがりなりではない! れっきとした土地神だ!」
「土地神ならその土地の人を守るんじゃないの!?」
「あのような奴らなど守る必要などない!」
ダメだ全く話を聞こうとしない。
土地神は土地の影響や信仰の影響を受けやすいっていう話を聞いた事あるけど…。
土地を何とかしようと力を使っているうちに魂が穢れてしまったとかなのかもしれない…。
そしていつしか疲弊した魂が負の感情を受け止めてああなってしまった…だとすると私にはどうしようもできない…。
「だがいくら困ったとはいえまさか人柱を捧げてくれるとは思わんかったわ。おかげで利用できたわ」
「利用…?」
「あの娘を人柱にしたところで何も起きないとして怨嗟が溜まるように仕向けれたわ!」
「!? あなたって人はっ!」
「どういう…ことです…?」
「なっ!?」
私が顔を横に向けると、人柱となった少女がいた。
少女はオロオロとしながら土地神の元へと近づく。
「嘘ですよね…? あれは神様の力が足りなくて…だから何も…」
「……」
土地神は何も答えない。
だが少女は必死になって土地神に問う。
「何も起きなかったのは神様がわざとやったなんて…嘘ですよね…? それに私の家族も一緒に生贄になったけどそれでも力が足りなくて…」
「もうよい」
「えっ…?」
「茶番はもう終いだ」
「そんな…。だって神様は私を助けて…。この身体も神様がくれて…」
「そういえば記憶を少し弄っておったがそのせいか…。お前の身体などただ虫で繋ぎ合わせて形を保ってるにすぎん。そのような身体で我に近づくてない」
土地神からの拒絶の言葉。
少女はその場に崩れるように座った。
「そういえば力を返してもらわんといけないのぉ…」
土地神は骨の手で少女の頭を掴む。
その瞬間、少女は苦しそうに叫ぶ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 痛い痛い痛いぃぃぃぃっ! がみざまなんでぇぇぇぇ!」
「お前に少しずつ怨念を集めさせて力を溜めさせたにすぎん。それを回収しているだけだ」
「ぞんなぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁ!」
あまりの光景に私は動くことができなかった。
だが、その光景もすぐに終わった。
力を吸い取ったのかわからないが、土地神は少女を投げ捨てる。
少女は痙攣したように時折反応するぐらいで、小さく何かを呟いていた。
私はハッとして少女に近づく。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。———…ごめん…なさい…」
少女は壊れた機械のように同じ言葉を呟いていた。
だが、その言葉も無くなり、少女は物言わぬ人形となった。
そして少女に追い打ちを掛けるように、少女の身体が次第に霧散していった。
慌てて少女に触れようとすると、触れた部分から霧散していき、もはやどうすることもできなかった。
霧散して消えた少女のいた場所には、小さなガラス玉のような物が残っているだけだった。
それを私はそっと手に取る。
「ふむ、五十年でこれぐらいか…。まぁよかろう」
声のした方を見ると、先ほどのガイコツは消えており、代わりに白い着物を着た成人ぐらいの男性がいた。
「やはりちゃんとした身体というのは良いものだ。あの娘も少しは役に立ったようだな」
土地神の言葉に放心していた私はピクンと反応する。
「さて、更に力を強めるためにどこぞの街でも襲うとするか」
その言葉に私は強く反応した。
「―ない…」
「小娘、何か言うたか?」
「そんなことさせない!」
私は下を向いたまま叫んだ。
だが土地神はそれを聞いて笑い上げる。
「ハッハッハ! 小娘一人で我を止めるというのか? 人が神に勝てるとでも思っているのか?」
その言葉を聞いて私はゆっくりと立ち上がる。
「勝てる勝てないじゃない…。人を不幸にするだけの神様なら…そんなのが神様だっていうなら! 触れる事ができるんだったら…私は神様だって倒してみせる!」
脇差を抜いて振り返り、土地神に向けてそう宣言する。
あの少女のような子をこれ以上出さないために。
あれ話が重くなってる…?(無意識




