迷路イベント④
いじめっ子の兄の仲間たちも威勢はいいが、どうにも口だけなのか少しビビっているように見える。
その空気を感じたのか、いじめっ子の兄は仲間を鼓舞するように叫んだ。
「テメェら! 首狩り姫が怖ぇのは森だけだ! ここならそこまでのやつじゃねぇ!」
その鼓舞に仲間たちも「そっそうだ! 森じゃない【首狩り姫】なら倒せる!」「【首狩り姫】を倒せれば俺たちの名も上がる!」などと言っており、弱腰だったのが直ってきた。
あのいじめっ子兄の強気な発言って、ここが森じゃないからだったんだ。
別に森じゃないとダメっていうわけじゃないんだけどなぁ…。
まぁやるなら徹底的にやるけどね。
「じゃ、少し準備するからその間お願いね」
「任された」
「お任せを!」
私は二人に少しの間時間稼ぎをお願いする。
二人はそれを受け入れ、海花や黒花たちが前衛、ルカが後衛と言った形に分かれた。
「こっから先は」
「行かせません!」
「邪魔だテメェら!」
いじめっ子兄が突っ込んで剣を振ってきたのを、海花が指先から何か出して止めている。
あれは…ワイヤーかな?
細くて全く見えないけど、少し光ってるからたぶん金属関係だろう。
さてと、さっさと始めますか。
「『彼らは最初に十人いた』」
私が歌い始めると、彼らはびくっと反応した。
中には咄嗟に耳を塞いでいる者もいる。
確かに対処法として、耳を塞げっていうのがあったけど、今回に限ってはその行為は関係ない。
「『彼らの内のある者は喉を詰まらせ、ある者は寝過ごした』」
「誰かあいつを止めろっ!」
後衛が魔法で私を攻撃しようとするが、蒼花や銀花が後衛を攪乱しているため、こちらには攻撃が届きそうにない。
万が一届くようなことがあっても、私の護衛としてレヴィが肩に乗って待機している。
「『ある者は残り、ある者は半分となり、ある者は蜂に刺された』」
やっぱり歌っぽくないやつは少し読むの難しい。
歌なら流れで言えばいいけど、こういったのになると歌とは違くなる。
まぁ演劇と思えば問題ないと思うけどね。
「『彼らは一人ずついなくなり、次第に数は減っていった』」
私の歌が進むにつれ、いじめっ子たちの焦りが顔に出ている。
そして私はラストの一文を歌う。
「『四人、三人、二人。そして彼は一人となった』」
私は怖がらせる意味も込めて、少し意地悪そうな笑みを浮かべてラストの歌を紡ぐ。
ゆっくりと、恐怖を与えるように。
「『そして、誰もいなくなった』」
その瞬間、私たち十人にあるバフ効果が付与される。
さて、時間稼ぎももういいから二人を戻さなきゃ。
「ルカ、海花、もう時間稼ぎはいいよ」
私の声がちゃんと聞こえたのか、二人はさっと私の元に戻ってきた。
「こんなもんでいい?」
「お姉様実はやる気出てますよね」
「まぁ弟子の前だからね。っと、二人とも必要な分のペット以外戻しちゃって」
そう言って私は前に出る。
二人は私の言う通りに、必要な分のペット以外を戻す。
残っているのは私とレヴィ、そしてルカと海花と黒花と蒼花だけになった。
男たちは自分たちの身に何も起こっていない事に対して、不思議に感じてるようだった。
噂だけ聞いていれば、歌を聞けばデバフを食らうということがわかっている。
だが、今回に至ってはそれがない。
別に【童歌】や【詩人】スキルはデバフ効果限定ってわけじゃないんだけどね。
「そんなに怖がってどうしたの? もしかして足がすくんで動けなくなっちゃった?」
「うっうるせぇ! テメェらもいつまでビビってんだ! さっさと突っ込め!」
男たちは前に出て挑発した私に向かってくるが、なんだか相手の動きが少し遅く感じた。
もしかして、ウィルの特訓で他の人の動きを見続けたせいか、そういった力が気づかない内に鍛えられたのかな?
私は横に跳ぼうと足に力を入れる。
「あれっ?」
ステータスが上昇した自分の動きを把握していなかったため、思わず声が出てしまった。
それもそのはず。
軽く横に飛んで避けようとしたら、通路の真ん中ぐらいにいたのに壁際まで跳んでいたのだから。
「なっ!?」
男たちも驚いているが、正直私も驚いた。
だって1.5倍でこんなに上昇するなんて調べてなかったからね。
まぁいっか。
とりあえず呆けている後衛の魔法使いから…っと。
私は先ほどと同様に、足に力を入れて後衛の魔法使いが立っている場所まで跳ぶ。
後衛の魔法使い二人は、私の動きに追いつけず背後を取られてしまう。
そして私はそのまま間髪入れずに二人の首を斬り落とす。
んー、あっけない。
こんなんでよく喧嘩売ってきたなぁ。
あんまり対人してないんじゃないかな?
すっと元いた場所を見てみると、やはりというか予想通りというか、男たちは固まっていた。
って、よく見たらクオががっつり見てたのか、気絶するようにウィルに肩を抱えられていた。
流石に中学生ぐらいの女の子にとっては、今のはショッキング過ぎたかもね…。
「てっテメェ! 今のはなんだ!」
いや、なんだって言われてもなぁ…。
まぁ強いて言うなら…。
「さっきの歌の効果」
「なんで歌でそんなにステ変わるんだよ!」
「そこまで答える必要ある?」
「ぐっ!」
まぁさっきの歌を歌うと、PT所属のプレイヤーとペットに『喪失の加護』っていう特殊なバフが付くんだよね。
そしてその効果は、効果中常時1.1倍のステータス上昇と、このバフが付いた味方がいなくなる毎に10%ずつ効果が加算されるといったもの。
つまり一人になるとステータスが二倍になるといったスキルだ。
だけどこの歌の効果を発揮させるには、プレイヤーとペット含めて十人ジャストじゃないといけない。
つまり、味方がいないと効果が発動せず、味方がいなくなればなるほど効果が強くなるという、一部の矛盾が生じるスキルなのだ。
だけど、私たち三人でとなれば話は別だ。
私たちはそれぞれペットを所持している。
そして偶然か必然か、私たちはペットを含めると丁度十人になるのだ。
まぁネウラを入れると十一人だけど、流石にあの子を出すわけにはいかないので仕方ない。
そして召喚獣の特性上、召喚石に戻すとデバフは消えないがバフの効果は消えるという事がある。
これを利用して歌の効果を高めることができるのだ。
それを相手に教える義理はないから教えないけどね。
「で、なんだっけ? 森じゃないから倒せる? 大したやつじゃない?」
「ひっ!?」
私はゆっくりと男たちに近づいていく。
「ねぇ…」
「…何」
「お姉様…実は怒ってる?」
「たぶん」
あたしはお姉様の鏖殺シーンを見ながらルカに話しかける。
それにしても…。
「お姉様の沸点がよくわかりませんね…。自分の事じゃ怒らないと思っていましたのに」
「たぶんあれ、自分の事でじゃない」
「ならなんですの?」
「たぶんだけど、ウィルの師匠の自分が弱いと思われたらウィルが可哀想だから、あんな感じでやってる。と思う」
「つまりウィルのためにああいう威圧をしながら虐殺をしてると?」
ルカは静かに頷く。
確かに、お姉様が自分の事で怒るのであれば、以前の事もああはならなかったですものね。
とりあえず、今あたしたちがやることはただ一つ。
「あれは師匠あれは師匠あれは師匠あれは師匠あれは師匠ナマハゲじゃないナマハゲじゃないナマハゲじゃないナマハゲじゃないナマハゲじゃない…」
呪詛のように呟いているウィルを落ち着かせてあげることよね。
クオちゃんの方はルカが引き受けてくれましたし、あたしはウィルを抱きしめて落ち着かせてあげる。
まぁ中学生ぐらいの子があんなの見たら。普通はトラウマになりますもの…。
実際、いじめっ子たちは仲間たちと壁に寄って肩を組みあってガクガクと震えてますものね。
この世界の場合、悪い子にしてるとお姉様が来るぞーの方が効くんじゃないかしら?
直接こんなこと言ったら説教されると思いますけどね。
って、気のせいですかね。
レヴィが結構大きくなってるんですけど…。
あれって…ドラゴンよね…?
少し小型だけどあれ絶対ドラゴンよね?
「レヴィ、立派になって」
「いやそこじゃないでしょ!?」
「きっとレヴィも成体になった。めでたい」
「あれそれで片づけていいものなの!? どう見てもあれ水龍とかそこら辺の系統じゃない! ワイバーンじゃないのよ!?」
「わんぱくでもいい、たくましく」
「お姉様と一緒になって蹂躙してる様をわんぱくで済ませちゃダメでしょ!」
なんであたしが突っ込み役に回らないといけないのよ!
誰か突っ込み役手伝ってー!
忙しさのピーク過ぎましたので更新再開します。
更新日程は以前通りの予定です。




