第18話:南方作戦(その1)
学校が始まったので投稿ペースが下がります。すみません。
自分の顔から噴出した汗が、頬を伝っていくのをこの男は感じていた。ここはインドネシアのとあるジャングル。インドネイアのジャングルは非常に蒸し蒸ししており、例えるなら重装備を着てサウナの中にいるようだった。あたりに見えるのはもうここに来て見慣れた忌々しいくらいに生え広がっている木々や草花だけであった。
男は日本陸軍の正式装備を着て、背中には男の身長よりも一回り大きい三八式歩兵銃を背負ってその場に伏せていた。地面の土の匂いが嫌でも匂ってくる。そして男は目を細くして前方一帯をくまなく睨みつけるようにして見た。すると、左斜め前から草がわずかに揺れた。男はあわや見逃すところだったと思いながら、背負っていた三八式歩兵銃を握り締め、銃口をその動いた先に向けた。男は自分の心臓の音が本来よりも大きくなっていること、呼吸が荒くなっていることに気づき、なんとか落ち着かせようとするが、生理現象に近いそれを簡単に抑えるのは、まだ軍に正式に入隊して2年のこの男でも不可能であった。
また草が揺れた。男は生唾を飲み込み、そこを凝視した。敵であれば狙撃する。見方であれば・・・などと考えていると、男は体の力が抜けた。
その人の大きさもある草から頭が出てきてあたりを見渡している。その顔は紛れもない日本人だしい平たい顔であった。男は立ち上がる。現れた兵士は一瞬男を警戒して銃を向けるが、彼が友軍であるとわかった途端に銃を下ろした。
「探しました、黒田軍曹!」
「ああ、すまない。」黒田軍曹という男は面目ない顔になって兵士に言ったが、兵士は遠慮した様子で言い返した。黒田は始めは自分の小隊と共に作戦を行っていたが、敵の奇襲にあいはぐれていたのだ。この兵士は黒田を探しに来たのだ。
「さぁ、黒田軍曹。早くお戻りになりましょう。」兵士はあたりを軽く見渡しながら言った。
「そうだな。」黒田は兵士にゆっくりと静かに先導されながら移動を開始した。
<南方作戦>
日本軍とイギリス軍による東南アジアのアメリカ拠点を奪取するんのが主な目的である。始めは、フィリピン攻略までは日本軍単独であったが、ハワイ沖海戦後にアメリカに宣戦布告したイギリスも加わったせいか、南方作戦は予定よりも早く進んでいた。ちなみに今度行われるパプアニューギニア攻略作戦通称”分断作戦”の準備も着々と進んでいた。
時は変わり、ガタルカナル島南東部海岸線沿い アメリカ陸軍某宿営地
「綺麗だな・・・」イグリス新兵はガタルカナルの星空に感無量な気持ちで眺めていた。彼はここに配属されてまだ1年も経っていない。彼が住んでいたニューヨークではビル群の明かりで星空なんて滅多に見れなかったが、ここには宿営地から放つ光以外に星空を遮る光は一切なく、晴天観測では好都合な場所であった、ここが戦場じゃなけでば。
「おお、ここにいたのかイグルス。」
「ジャックか。」イグリスは姿は見えなかったが、声で誰かはすぐにわかった。イグルスの方に歩いてきたのはイグリスの同期の友達で先祖はイギリス人のジャック新兵であった。
「また星を眺めているのか?」ジャックは半分呆れたような声で笑った。イグリスがムッとした表情でそうだがと不機嫌そうな声で言い返した。
「まぁまぁ、そう怒こるなって。趣味は人それぞれだろ。」ジャックはイグリスの返答にからかうような声で言った。イグリスはたまにジャックはあの紳士の国と言われるイギリスの血を本当に引いているのかと疑問に思うことがある。ジャックはイギリスというよりはラテン系に近い乗りなのだ。そう思っているとジャックは何かを思い出したかのように声を上げ、手に持っていた瓶をイグリスに渡した。
「なんだこれ?」
「酒だよ。見ればわかるだろ。」ジャックは当たり前のように言うが、ここは宿営地からやや離れて、光も届かないためかなり暗く今でもビンのラベルはおろか、ジャックの表情ですらよくわからない状態であった。
「お前は陽気だな。」
「なんの。陽気さが俺の良いところさ。」イグリスが皮肉を込めていった一言をジャックは軽く受け流した。
「ん?イグリス?なんか聞こえないか?」
「は?」ジャックが何か聞こえるとイグリスに言った。それを聞いたイグリスは耳を澄ませてみた。風が草木を揺らしている音、遠くから響く潮の音、そして、そんな聞きなれた音とは違う音がだんだん大きくなって聞きた。それは何かが風を切りながら飛んでくる音に聞こえた。そして、上空で何かが破裂するような音が聞こえたと思って空を見る彼らが見たのは、南北戦勝記念日などで打ち上げられる花火の火粉が地上の宿営地に降り注いでいる光景だった。
ガタルカナル島沖 重巡<最上>
「艦長。後続の<高雄><鳴海>も砲撃を開始しました。」
「よし、どんどんぶち込めと言っておけ。」<最上>艦長である木内がやや荒っぽい口調で言った。重巡<最上>を旗艦とする強襲部隊はジャカルタから出撃後ガタルカナル島のアメリカ陸軍の基地へ砲撃を行っていた。
「しかし、なぜに艦砲射撃なのか?」木内は首にかけていた双眼鏡で砲撃している地点を見ようとしたが、見えるのは遠くの炎の光だけで、あとは暗くて何も見えない状態であった。木内は考えるような顔つきで双眼鏡を目から離し、暗くなっている艦橋内で隣にいるであろう男に言った。
「上層部の考えはなんでしょうか?提督?」木内が話しかけた男は強襲部隊提督”萩野 実”。荻野はしばらく黙り込むと艦橋内に響く声で木内に言った。
「おそらく、牽制だろう。」萩野はまるで景色を眺める詩人のような顔つきで遥か先の燃え上がる砲撃目標の方向を眺めていた。
「あとそうだ。あまり打ち込みすぎるなよ。砲撃目標はここだけじゃないのだからな。」荻野は木内に向かって言った。木内は恥ずかしそうに頭を掻いた。
強襲部隊はここの基地をあと2斉射したら、まるで次の獲物を狙う獣のようなオーラを漂うわせながら(陸地から見た者からしたら)去っていった。