ドキドキの距離
夏休み中の3年生送別会でのボヤ騒ぎのため、一ヶ月間弓道部は活動自粛を言い渡されていた。
そのため新学期の始まった9月中は予定していた試合などにも出れず、学校での実践練習も週一でしかできず、後は校内各所の清掃活動を黙々とするのだった。
「大珂のせいやからね!こんなことになったの」
まゆみや智之から責め立てられてもどこ吹く風。
「まぁボヤで済んだからよかったやん、自粛も一ヶ月だけやから来月の遠征には行けるし」
10月には香川県の高校との練習試合を兼ねた強化合宿があり、連休中向こうで1泊するという部員全員楽しみなイベントが待っている。
それまで中止になったらおそらく袋叩きにされていただろう。
来月は私誕生日なんだよな…
美久は密かに思い描いていた。
合宿、誕生日。イベント事が重なる10月。
ただの幼なじみから脱却できるきっかけにしたいと。
「何にやけてんの?美久ちゃん」
妄想で顔が緩んでいるところを洋子に見られ、赤面。
「ううん、なんでもない」
道場を隅々まで拭き掃除し、汚れた雑巾をバケツで水洗いし絞る。
雑巾を干すと、今度は道場内の神棚にお供えしている榊を取ろうとするも、微妙に手が届かず苦戦。
「ほら」
すると見かねた大珂がさっと取ってくれた。
「…ありがとう。無駄に背が高いのよね」
「高いところの物とるのは任せてくれ」
幼い頃同じ背丈だった幼なじみは、いつしかグングン背が伸び、今では見上げるほど違う。
「大珂今何cmだった?」
「178くらいかな?180cmくらいほしかったなー」
「バスケやバレーの選手じゃないんだからそんなにいらないでしょ、弓道には」
「美久は?160あるんか?」
「…158」
「ははー、かわええなー」
約20cmの身長差。
大珂は美久の頭をクシャクシャと触った。
「あー、やめてーっ。前髪ボサボサになるーっ」
動きやすいようにとトップでまとめていたおだんごがグシャグシャになる。
じゃれ合うふたりをみて、まゆみと洋子はほらね、と言わんがばかりにほくそ笑む。
「なんだかんだで仲いいよねあのふたり」
大珂は
気付いてないんだよね
私がいま
どんなにドキドキしてるか
弓道するようになって
筋肉質になったその腕が
たくましくて
男らしくて
子どもの頃
同じ高さだった目線が
いつしか見上げる位置になって
こげ茶色のサラサラの髪
日焼けすると赤くなる白い肌
わりと整ったきれいな顔立ち
瞳の色も薄めで
なんでこんな急にかっこよくなったの?
もうただの幼なじみになんてみえないよ
私のこの気持ち
どうしたらいいの?
そんな純真な乙女心を全く解せず、
おちゃらけてばかりの大珂に若干腹が立つ美久だった。
それでも、相変わらず帰りは自転車で一緒の下校。
方向も時間も同じだから、あえて別々にする理由もなく、という大義名分がもうまかり通っている。
「今日メシ食っていくか?おかんがたこめしいっぱい炊いたから美久もどうやって」
「わぁ!大珂ママのたこめし大好き♪いくいく」
「マジで色気より食い気やんか」
「いいもんっ。今日めっちゃ掃除頑張ったからお腹へったし」
初秋の夕暮れ、西に傾いた太陽が長い影を作る。
重なった影は、まるで手を取り触れ合っているようで。
なんか今日はドキドキがいっぱい…
胸いっぱいでもお腹はすく。
来月までがんばってお肌の手入れしよう。
爪も磨いて、きれいにしよう。
ちょっとでも大珂に気付いてもらえるように
恋すると健気に、自分を磨こうとする気持ち。
女の子なら自然にこみ上げてくる。




