孤独な東京
2020年4月。
希望に満ち溢れていた大学生活を夢見ていた大珂に、ショッキングな出来事が訪れる。
『コロナ禍のため、授業はオンラインで』
学校からの連絡に、ガックリうなだれる。
楽しみにしていた大学生活、いきなり目の前が真っ暗になる。
加えて決めておいた飲食店のバイトも店が自主休業となり、断念。
人と会わない孤独な東京暮らしが始まった。
基本人と会ったり遊んだりするのが好きな性分ゆえ、引きこもりの日々は想像以上にしんどい。
メンタルがそがれ、消耗していく。
さみしくてたまらない
高校時代の連絡網も、皆自分のことで忙しいのかあまり反応がない。
あんなになついていた田原も、彼女ができたといって手のひら返したように離れていった。
なんやねん、アイツ!
薄情なっ
どれだけ世話してやったと思ってんねん
バイトの予定も断たれ、このご時世だし他を探すも見つからず。
限られた生活費でやりくりするために、不慣れな自炊をする。
もやし、半額のカット野菜、わずかばかりの肉。
メニューは大抵野菜炒めかレンチン。
あー、坂越のうまい魚食いてぇ…
牡蠣焼いて食いてぇ…
そんな想いが頭をかすめる。
夢にまでみたひとり暮らし
自由を謳歌する都会暮らし
あこがれは夢と消え、現実には孤独と憂鬱しかない。
オンライン授業ゆえ、友達もできない。
話し相手もいない。
ふと我にかえると、何日しゃべってないんだろうと、恐怖におののく。
もしかしたらもう話せなくなってしまうかもしれない…
幻覚にも似た妄想に脳が支配される。
気が狂いそうだ
気分転換に電車に乗って出かけたが、車内でマスク越しにでも咳をしている人が隣にいた。
やめろや、コイツ
それが引き金だったのかもしれない。
自宅に戻ると、体調の異変を感じた。
なんやこれ
気持ち悪い
ブルッ
インフルエンザのように、激しい全身の痛み。
筋肉や関節が重い。
焼け付くような喉の痛み。
頭が熱い
体温計で熱を測ると、40℃近くもある。
ひどい寒気、震え。
胸の痛みと息苦しさ。
この症状…もしかしてコロナか??
ベッドに潜り込むも、苦しくて目が覚める。
この世の終わりじゃないか
そう思うほどの苦しさにもがく。
ネットで調べてコロナ対策のところに連絡し、指示を仰ぐ。
翌日、発熱外来を受診することとなった。
長い夜
このまま夜が明けないのではないかと思うしんどさ。
不安で、心折れそう。
翌朝
這うようにして病院へ。
『新型コロナウイルス 陽性』
やっぱりか…というブルーな気持ち。
完治するまで家から出れないという軟禁状態。
どないしょ…
もしかしたらこのまま死んでしまうかもしれん
事故物件にしてもうたらごめんやで
とりあえず家には連絡をいれておく。
それでも、誰も助けには来てくれない。
移動だって制限されてるし、身内といえど接触感染リスクを考えたら看病なんてできない。
テレビをつけたら連日コロナの話題。
病院で重症化した患者が苦しむ姿や、芸能人の訃報が報道される。
オレ…こんなところで人生終わるんかなぁ
こんなことなら東京なんか来なけりゃよかった
楽しかった思い出が走馬灯のように脳裏を流れる。
喉が痛く食欲もないため、水だけを飲んで過ごす。
寝て起きて水分とってまた寝て…もはや時間の感覚すらわからない。
助けてたすけて、だれかたすけてっ
ベッドの中目をつぶるたびに、そう祈らずにはいられなかった。
ピンポーン
部屋のチャイムが鳴る。
空耳かな?
人恋し過ぎて幻聴か…?
ピンポンピンポ~ン…
「若松さん、お届けものでーす。玄関前に置いといていいですか?」
よかった、幻聴じゃなかった。
ドア越しの人の声が、どんなにうれしかったことか。
「あ、はい。置いといてください、ゲホッ」
配達員の足音が遠ざかった後、こっそりドアを開ける。
そこには大きめの段ボール箱と、なつかしい名前があった。
『赤穂市坂越 高田美久』
「美久っ!?」
バリバリッ
ガムテを剥がし箱を開けると…
たくさんの食料品や飲み物やゼリー、そして手紙が入っていた。
『大珂へ、おじさんからコロナになって自宅療養していると聞きました。体調大丈夫?大学もオンラインばかりで、きっとさみしいよね。大珂は人が好きなお祭り男やから。笑 うちのみかんを使った新商品のお菓子の試作品も入れとくから、少しづつ食べてね。ビタミンたっぷりやからコロナウイルスにも負けへんで!辛い時はなんでもいいから連絡してきてな。話聞くくらいならできるから。今はなんも考えんと、ゆっくり休んでね。美久』
「ふぇ、なんでこんなこと…。オレ美久にひどいことしてきたのに…」
突き放して、遠ざけて、避けて。
軽くあしらって、男友達とばかりつるんで。
受験のストレスでとか理由つけて、ほんまは美久の純粋な想いに向き合うのが怖かったんや。
オレは美久が思うほど優しくもないし、まじめでもない。
でもそれを認めたくなくて。
オレがキャパオーバーで感情を爆発させた日の翌日、一晩中何かを考え悟った前向きな美久はすごくきれいで、強くなってて、驚いた。
たった1日でこんなに変わるなんて、叶わないと思った。
それ以来、オレは卑屈になって…自分の気持ちに蓋をして…
美久、美久。
逢いたい、今無性に。
バカやなオレ、いつでも会える近くにいた時はそのありがたさ、大事さに気づかなくて。
遠くはなれた今、他の誰もこんなことしてくれへんのに。
ずっと大珂を想ってる
そう言ってくれた美久の言葉に、偽りはなかった。
ボロボロボロボロ…
手紙を握りしめ、涙が止まらなかった。




