風向きは、変わる
少しづつ、幼なじみふたりの間柄に変化がある事を、周りも薄々気づき始めてきた。
美久は、弓道部をやめることにした。
最初に打ち明けたのは親友たち。
これにはまゆみも洋子も戸惑いを隠せない。
「どうして…?大珂くんと何かあったん?」
「もしかして別れたとか??」
「ないない、それはない。だけど、ちょっと距離は置こうと思って」
「もしかして田原くんが原因…?」
洋子が心配層に尋ねる。皆田原の異常な執着には違和感を抱いていたのだ。
「まぁないとは言いきれないな。あの子私のこと目の敵にしてるし。でもそれだけやなくて、去年やった巫女のバイトもまた声かけてもらったし、最近お父さん腰痛めちゃって。みかん畑の手伝いもせなあかんから」
部活休みの日曜日、美久は弓道場をこっそり訪れ、室内を隅々まできれいにした。
神棚に手を合わせ、感謝を伝える。
「楽しい時間をここで過ごさせていただき、ありがとうございます」
大珂はメキメキと上達し、来年は個人戦でもインターハイを目指せそうなレベル。勉強の成績も学年トップクラスだし、文武両道を貫いている。
自分がその邪魔をしたくはなかった。
部室に荷物を取りに行くと、男子の部室からライバル?田原が出てきた。
美久に気づくと、ペコッと頭を下げる。
「どしたん?今日部活休みやろ?」
「道着持って帰るの忘れて…洗濯したくて」
「私、部活やめたから」
「えっ!?」
「大珂のことよろしくね」
「…もしかして僕が原因ですか?あんなこと言ったから…」
ううん
美久は静かに首を降る。
「これは、私の問題やから」
朝の登校も、別々にした。
今までどちらかの時間に合わせていたのを、それぞれのペースにした。
朝の弱い大珂は、本来ギリギリに行きたい派なのだ。
美久はそれを知っていたし、夜遅くまで勉強しているのもわかっていたので、自分は先に行くことにした。
その様子をみて、双方の親たちは大慌て。
「つきあってるんやなかったのか!?」
「もしかして別れてもうたんか?」
それを子どもたちは否定。
ある日、大珂の留守中に美久は若松家に行き、事情説明に伺った。
そして若松父に熱く語りかけた。
その夜
「大珂、ちょっとええか」
風呂上がりにキッチンのダイニングテーブルで呼びとめる父。
「…大学、行ってええよ」
「マジで!?」
でも何で急に…
「昼間、美久ちゃん来たんや」
「美久が??」
「おじさんに一生のお願いって。大珂がどれだけ真剣な思いをもって進学したいのか、おじさん知ってるの?って。あんなすごいプレゼンされたら叶わんよ。オレにとっては娘みたいにかわいいあの子に頼まれたら、断れん」
「そんなこと…」
大珂は、胸が熱くなった。
「ちゃんと礼いうとけよ。言っとくが、あの子を泣かすようなことがあったらこの話は無しやからな」
バタン
父親は静かにキッチンを出ていった。
『美久、ありがとう。あのガンコ親父が折れてくれた。絶対一発で合格するから』
ピコン
返信
『大珂なら、大丈夫。応援してる』
短いからこそ、伝わる想い。
ひとりの時間が増えて、美久は変わった。
「最近美久ちゃん、なんか大人っぽくなったね」
洋子やまゆみにはそう言われるようになった。
芯のある大人の女性へと変貌を遂げつつあるよう。
決して大珂と近くにいて疎遠ということもなく、時々作ったお菓子などを差し入れたりした。
ところがどうしたものか
男というのは、そんな彼女の優しさにアグラをかいて。
大珂は徐々に彼女を空気のように、軽く考えるようになっていった。
それは、受験のストレスから逃れたい防衛反応なのかもしれない。
美久の気持ちを無視するように、弓道部の男子たちとカラオケに行ったり、夜中まで遊び歩いたり、タバコを吸い出したり好き放題するようになった。
高校3年生になり部活を引退すると、受験勉強に専念するどころか、完全にグレて堕落し出した。
反抗期と言ってしまえばそれまでだが、美久と会うこともしなくなっていた。
「あんなやつもうやめなよ」
親も友人たちも、口を揃えてそう言い出した。
普通に考えたら自然消滅状態だ。
それでも、美久の気持ちは変わっていなかった。
「風向きは、いずれ変わるから」
好き勝手やって自分のことを見向きもしなくなった、連絡すらしない、近所にいながら会いもしない彼氏に、愛想を尽かすことなく想い続けた。




