とうろん台
暗くなった坂越遊歩道は、静かで誰もいなかった。
初秋の夜風は少し肌寒く、人との距離を縮めてくれる。
「お待たせ〜」
小走りで美久は大珂の元に駆け寄った。
「どしたん?」
「誕生日の前に、プレゼント渡しときたくて」
「えっ?」
「1日早いけどハッピーバースデー」
ジャンパーのポケットから取り出されたのは、リボンが結ばれた小さなライムグリーンの箱。
「…開けていい?」
「どうぞ」
リボンをほどきそっと中をのぞくと…
「わぁ…」
そこには、オープンハートスタイルのネックレスが入っていた。
高校生の身ゆえティファニーとか4℃とかもちろん高級な物ではないが、オシャレでかわいらしいアイテム。
「かわいい…!」
正直大珂にこんなセンスの良いものを選べるとは、と驚きを隠せない。
「1日早く渡しといたら、明日誕生日当日の朝目覚めた時からいい気分で過ごせるかなって思って」
「うん、うん!そうやねっ、ありがとう!めっちゃうれしいっ」
思えば今まで誕生日にこんな大層なプレゼントをもらうことはなかった。
さすがに幼なじみだからといってそれはない。
せいぜいケーキとかジュースおごるとか、消えてなくなる食べ物くらい。
それがかたちにも記憶にも残るプレゼントに変わる。
つきあいだしたらこんなに変わるものなのか…としみじみ、あらためて喜びをかみしめる。
「大珂の誕生日は12月、その時私何しようね。今からワクワクする」
フフッ、とほほ笑む姿に愛おしさを感じる。
それは、今までより深く、相手を想う気持ち。
「明日、バーベキューの時これつけてきてくれる?」
「もちろんっ」
10月は若松家の三男、大珂の弟の海斗も誕生日。
なので毎年大珂父がお祝いに海鮮バーベキューを催してくれる。
「ほんまは今つけたいけど、服が…」
「あっ、タートルやからつけにくいよね」
「髪にも絡んでしまいそうやし」
背中までおろしている長い髪を、大珂はやさしく撫でた。
ドキッ
ドキドキドキ
そ、そんなことをされたら私…
ギュッ
「ありがとう」
思わず大珂に抱きつく。
うまく言葉にできない気持ち。
側にいてくれてありがとう
プレゼントありがとう
彼氏になってくれてありがとう
いろんな想いをひっくるめてのありがとう
そのすべてを伝えるハグ
あったかい…
服の上から感じる体温
今まで一歩踏み込めなかった距離に、
今スッポリと入っている。
大珂は一瞬戸惑いながらも
すぐに胸のうちに引き寄せ、抱きしめた。
ザワ…
ザワワ…
寄せては返すせとうちの波の音。
あの日東かがわで聞いた波の音と同じように
静かでやさしい、心落ち着く周波数。
「美久…」
目と目があって、その先は自然と瞳を閉じて。
ふたりは初めてのキスをした。
とうろん台の下で。




