ジャム聖女と公爵騎士団長⑩
「じゃあアリッサ、王都に残ると決めたのならしっかりやり遂げるのよ!」
「アリッサ、いつでも帰ってきていいからね。ハリソン、アリッサを頼んだよ」
陛下との謁見を終えたわたしたちは、王城にある停留場まで来ていた。両親は汽車に乗ってすぐに領地に帰ってしまうらしい。
「リーサを守るのがいつまで僕の役目かわからないけど……任せてください」
寂しそうに微笑んだお兄様と、瞳をうるうるさせたお父様が、何かをわかち合うように見つめ合った後、抱き合った。
「まったく、うちの男性陣は過保護なんだから」
「お父様もお母さまに対してそうだったの?」
呆れ気味に二人を見るお母様に訊ねれば、ふふっと笑ってわたしを見た。
「そうね。お父様の愛があったから私は聖女でいられたのかも。まあ……最近のハリソンの研究でそう思うようになったのだけど」
お兄様は愛が聖力を強めると言っていた。そのことを思い出していると、お母様がわたしの遥か後ろを見て目を細めた。
「アリッサも心配ないわね」
お母様の言葉に後ろを振り返ると、ライアン様がこちらに向かって来ているのが目に入った。ライアン様は一人だけ玉座の間に残り、陛下と王太子殿下とお話をされていたのだ。
「娘をよろしくお願いします」
お母様が頭を下げれば、ライアン様もその場で立ち止まって頭を下げた。
そして両親は、汽車に乗ってブルーベル領へと帰っていった。
「……さて。騒動は落ち着いたが、これから神殿の再編にオーキッド侯爵の後始末……やることは多い。僕もライアンも忙しくなるだろうな」
「ああ。陛下からレオニス殿下を中心として進めるように言われたよ」
お兄様がめんどくさそうに話せば、ライアン様が苦笑する。
「それで? リーサはどうしたい?」
お兄様の問いに、わたしは即答した。
「わたしはまた騎士団に通って、厨房で働きたい。聖女の力が必要なら、それにも応じたいと思う」
「そっか……」
お兄様はわたしの頭に手を置いて、優しく撫でた。子ども扱いはいつだって変わらない。
「ライアン、僕の大事なリーサを頼んだぞ」
「当然だ。リーサは俺の大事な婚約者だからな」
「そうかよ!」
お兄様はそう言い捨てると、笑顔で去っていった。こちらを振り返らずに手を振るお兄様へ叫ぶ。
「お兄様! ありがとう!」
――わたしを狭い世界から引っ張り出してくれて。
お兄様は少しだけ顔を後ろに向けると、優しい表情で微笑み、そのまま転移魔法で姿を消した。
「リーサはブルーベル家だけではなく、国の宝だ。俺は君に釣り合うように努力しないとな」
お兄様が消えた空間を見ながらライアン様が呟く。
「え!? わたしがライアン様に釣り合わないのでは!?」
「ライアン」
思わず口調が戻ったわたしにライアン様が顔を寄せた。
「周りに認めさせてみせるから、これからも側にいてほしい」
「うん……」
わたしの返事を待って、ライアン様がキスをする。
「俺の最愛はすぐ側にいると、あの頃の俺に言ってやりたいな」
「……ライアンは養子とわたしを結婚させようとしてたんだもんね?」
八歳のリーサとして片思いしていた、今は懐かしい思い出だ。
「もうその心配はない。リーサと俺の子がアスター公爵を継ぐのだから」
「ひゃ!?」
意地悪を言ったつもりが、逆に言い返されてしまった。わたしの顔にじわじわと熱が集まっていく。
「女の子もいいな。八歳のリーサは可愛かった」
「ひゃあああ……」
ライアン様はもうグイグイくるのをやめてはくれないらしい。
耐えられなくなったわたしは、ライアン様から顔を逸らそうとして失敗する。ライアン様に抱き寄せられたからだ。そして唇にキスを落とされる――。
「もう子どもになられたら困るからな」
唇を離したライアン様が切なげに囁き、わたしの心臓はドキンドキンと音を立てた。
「……魔力供給のため?」
「ハリソンがしばらくは必要だと言っていた」
頬を膨らませたわたしにライアン様がくすりと笑う。
「リーサに即効性のある魔力供給をできるのは俺だけだからな」
大義名分を手に入れたかのように、騎士団長様は誇らしげに微笑んだ。
「だから……」
「!?」
そう言って意地悪な顔で笑うライアン様は、またわたしの唇に迫ろうとしている。
「ま、魔力はもらったばかり……」
慌てて逃げようとするわたしの身体を、ライアン様ががっちりと囲う。彼の目が愛おしそうに細められると同時に、わたしの耳に甘い声が囁かれた。
「俺がしたいだけだ」
「!!」
全身甘いライアン様に囚われ、逃げ場のないわたしの唇は彼に捕まってしまう。
大好きな人との甘いキスは、わたしを幸せへと誘っていき、蕩けてしまいそうだ。
これから先、わたしの体質が落ち着いた後も、聖女の力を行使するたびにこの魔力供給を受け続けることになるなんて、このときのわたしはまだ知らない。
END
このお話はここで完結です!
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