繋がる想い①
その日はいつも通りだった。
騎士たちは朝食を食べると魔物討伐へと出かけた。
魔法省専用列車に乗って、少し離れた領地へ。一気に討伐すると魔力が淀んだ状態で危ないため、聖水を補給するタイミングを作って取りかかる。二日にかけて取りかかる案件だとライアン様が言っていた。
「慌ただしくなるから早めに夕食の仕込みしとくぞ」
クレイブさんの号令で料理人たちが厨房を慌ただしく動いている。
二日にかけて討伐すると言っても、騎士たちは一度この騎士団の拠点へ帰ってくるらしい。汽車に取り付けられた転移装置で帰りはあっという間だとか。
お兄様が作り出した転移装置のおかげで、騎士たちは野営を強いられることなく、身体を休めてまた魔物討伐に向かえるらしい。さすがお兄様だわ。国のためになる開発を担っている。ただ、まだ希少な物のため、装置を使えるのは帰りのみらしい。
(だからみんなの朝は早いのね)
汽車であっという間とはいえ、遠い場所ならばそれなりに時間がかかる。騎士たちは朝早くから出かけていった。
わたしはみんなに腹持ちのするスコーンをおやつに持たせた。ジャムを生地に練り込んで作った果実スコーンは、レモンや桃など余っていた果実を使って作った。
(無事に帰ってきてね)
そう願いながらわたしも夕食の仕込みを手伝う。
「ねえリーサ、団長と何かあった?」
「な!? 何もないけど!?」
察しのいいテオが急に尋ねてきて、わたしはしどろもどろになってしまった。
「ふうん。なんだか団長のほうが距離があったように見えたからさ。リーサから告白でもしたのかと思った」
す、するどい。わたしはテオから目を逸らす。
ライアン様は変わらず優しいけど、あの告白からわたしにむやみに触れることはなくなった。わたしを抱き上げて、膝に乗せることもない。そのことがホッとしつつも寂しく感じる。
ライアン様はわたしを撫でるときも慎重になった。まるで宝物に触れるかのようだ。
それは結婚の約束をしたからではない。彼が向ける視線は妹――いや、娘に向けるそれなのだと感じる。
(ライアン様はあくまでわたしを自分の息子のお嫁さんにって考えているのよね)
大切にされるのはくすぐったくて嬉しい。でも、彼の胸の内を考えれば複雑だった。ライアン様にとってもあの約束は果たされることのないものなのだ。
「……ねえリーサ、不毛な恋はやめてぼくを選びなよ」
考え込むわたしの顔をテオが覗き込む。
「正面から申し込むんじゃなかったの?」
「やっぱりリーサを幸せにできるのはぼくだと思うから」
テオはまだわたしを諦めていなかったようだ。彼の真剣な表情に申し訳なく思いながらも、わたしはライアン様との約束を利用させてもらうことにした。
「わたし、ライアンとも賭けをしたの」
「は?」
目を丸くしたテオにわたしはにっこりと笑う。
「わたしが大人になってもライアンのことを好きなら、結婚しようって。テオ、わたしに賭けを持ちかけたよね?」
「まじ……か……」
テオがわたしの足元でうずくまり、頭を抱えた。
「リーサはそもそも告白しないって言って、ぼくの賭けに乗らなかったじゃないか……」
「でも結果的にわたしはライアンと婚約したようなものだから、諦めてね」
「公爵が相手なら僕は何もできないよ……」
がっくりとうなだれるテオは、今度こそわたしを諦めてくれたみたい。いっぱい騙してごめんねと心の中で謝っていると、テオのほうはブツブツと恨めしそうに何か言っている。
「噓だろ……リーサに過保護だなとは思っていたけど……結婚? ぼくがリーサをたきつけたせいで団長も自覚を? くそ……一か八かの賭けになんて出なきゃ良かった」
「おい! この忙しいときに何サボってんだ!」
しゃがみ込むテオにクレイブさんから怒号が飛ぶ。
「料理長、ぼく今傷心なんですから労わってくださいよお」
「お前は副料理長なんだから、手ぇ動かせ?」
「鬼!」
「なんだと!?」
ぎゃんぎゃん言い合う二人を見て、わたしは初めてここに来たときを思い出す。
「あああ……久しぶりだなあ、二人の言い合い」
「リーサちゃんが来てから落ち着いてたもんなあ」
そんな二人を料理人たちが遠巻きに見ながら笑っている。
あのときはみんな余裕のない顔で二人の言い合いをスルーしていた。
今は殺伐とした空気もなく、料理人たちには余裕さえ見える。
そうして夕食の準備を終えたわたしたちだったが、その日、騎士たちが帰って来ることはなかった。




