42 父との会話
第二王妃ミラベルとの和解の翌日。
私とアイリス姉さまは、ヴィルクリフの私室にやってきていた。
ヴィルクリフは、ソファに腰かけたまま、私達を見ない。
私達を、手招きすることもなく、立ち上がることもなく、ただひたすら、手元にある本に目を落としている。
「お父様。私達、明日にはこの国を立ちます」
アイリス姉さまの言葉に、ようやくヴィルクリフは顔を上げて、私達二人を見た。
しばらく沈黙が続いた後、ヴィルクリフはアイリス姉さまを見る。
「どうしても行くのか」
「はい」
「この国を捨てるのか」
その言葉に隠されているものに、アイリス姉さまは思わず笑みをこぼす。
「私はどこにいても、お父様の娘です」
目を見開くヴィルクリフに、アイリス姉さまは、私の手を取って、続ける。
「ヴィオレッタもね」
私は、久しぶりに、アイリス姉さまが父と呼んだ男を、真正面から見つめた。
男は一年前よりも、なんだか年を取ってしまったような気がした。
新緑の色の瞳は濁り、その下には、深くクマが刻まれている。
私が彼を見ていると、男は眉根を寄せ、いぶかしむようにつぶやいた。
「なんだその顔は」
男は私に向かって、言葉を発している。
「人間みたいじゃないか」
そう問われたので、答えることにした。
私はもう、答えを持っているから。
「私は人間です」
男の顔に、驚きが浮かび、次いでなにかをこらえるような、不思議な表情に変わった。
「そうか。そうだったか……」
ギュッと右手を握りしめる手に力がこもったので、右手を振り仰ぐと、アイリス姉さまが優しくほほ笑んでくれる。
「ヴィオレッタ。俺の視界から、勝手に出ていけ」
それだけ言うと、父は本に目を戻してしまい、もう、私達を見なかった。
「……お父様。またね」
それだけ言って、私はアイリス姉さまの手を引いて、扉の外に出た。
もう私があの人に会うことはないのかもしれないけれど、これでいいのだ。
二人で手を繋ぎ、王宮の廊下をとぼとぼと歩いていると、アイリス姉さまが笑いだした。
「ヴィヴィも罪作りね」
「そうですか?」
「あの人、泣いてたわよ」
アイリス姉様は、首をかしげる私に、くすくす笑っている。
その言葉が、なんとなくくすぐったくて、私はそのよくわからないむずむずとしたものをごまかすように、アイリス姉様の腕にしっかりと抱き着いた。





