第五次新皇居奪還任務 ③
※
それから二時間後。
負傷者の手当てや収容を終えた機動隊輸送車は大日川ダム近郊から撤退し終えた。
「ちょっとごめんよ」
「……ハッ! ご苦労さまであります」
「入ってもええか?」
「結構ですが、どういったご用件でありますか?」
任務に傾倒する警察官らしい返事に、黒田は頭をかきつつ答える。
「報告書を書かんならんから、ちょっと見物……いや、検分にな」
「そうでありましたか。お気をつけてどうぞ」
「ありがとう。あ、そうや。部外秘やよって俺がここに来たことは内緒な。ナイショ」
「了解しました」
敬礼する警察官に黒田も敬礼を返し、通行止めのバーをまたいで坂道を上っていく。
機動隊の任務を捜査一課の刑事が検分することなど無いし、すでに管轄も移管しているから黒田の出番などは無い。
若い巡査に嘘をついたことを申し訳なく思いながら、黒田は舗装された坂道を根気よく歩いていく。
「はあ、はあ、はああぁ……。結構しんどいな」
スーツに革靴、加えて夏の陽射しに体力を奪われながらも、破壊された放水車と乗り捨てられた輸送車がある更地までやって来た。
黒田は辺りを観察しながら門へ近寄っていくと、何もないはずの場所で何かにぶつかって足を止めた。
「いったいなぁ……。ホンマに透明なんやな……」
つい数時間前に近藤警視の話にあったとおりの現象に直面し、話し以上の感触に少し不安がよぎった。
しかし黒田にはこのタイミングしかない。このタイミングを逃したら、この事件は自衛隊の出動要請がなされ警察の管轄から完全に離れてしまう。そうなってしまったら、今日みたいに若い巡査に嘘をついて入り込むことなど出来なくなる。
「ごめんくださいな! ちょっと、話が聞きたいんやけどぉー!」
誰にどう訴えていいのか分からないが、とりあえずこちらの意思だけでも伝わればと、一番の大声で叫んでみた。自然と目線は門の少し上だ。
三十秒ほど待ってみたが反応がない。
「話だけでもあかんかな?」
もう一度、叫んでみた。
すると、正面にある門がわずかに開き、少女が顔をのぞかせた。
「どちら様でしょうか?」
「警察のもんだ。けど、誤解しないでくれ。捕まえに来たんとちゃうから」
一応、印象を良くしようと笑顔を作りつつ、警察手帳を開いて身元を明かす。
五秒ほど黒田を見つめていた少女が、ツイッと後ろを振り返り、すぐに向き直った。
「どうぞ」
少女は黒田を迎え入れる言葉を発してさっさと門の内側へ入ってしまう。
「あ、ありがとさん」
少女の愛想のなさにムッとしたが、目の前の透明な壁がいつの間にか消えていることに気付き、黒田はちょっと気分を持ち直して門を潜った。