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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第三話「禁術使いを突き止めろ!」 5

 メルエッタちゃん逮捕騒ぎから一夜明けた翌日。普段より早く目覚めた私は菓子職人としての本来の職務を迅速にこなした後、罰として命じられた清掃作業へ従事する為、四階の廊下を進んでいた。昨晩のうちにアデライザさんから伝えられていたので、階段を上がってから空き部屋までの道順は既に把握している。


――今日はドーサックさんの店に行くの、遅くなるなぁ……。


 廊下の窓から早朝の街の景色を見下ろしながら、私は心中で呟いた。幾ら掃き掃除や雑巾掛けが得意とはいえ、空き部屋とやらの規模次第では、作業を終えるまでに多大な時間を費やしてしまうかもしれない。昨晩の一件もあるし、メルエッタちゃんの顔を今すぐにでも見に行きたいのも山々なのだが、その想いは現時点では我慢しておくしかなかった。


――でも、仕方ないよね。結局、自分が悪いわけだし。


「……よし、とにかく今日は頑張ろうっ」


 自分を鼓舞しようと独り言を呟きつつ、視線を上げる。爽やかな蒼に染まる朝の空を見つめているうち、肺の中が爽やかな空気で満たされていくような気がして、感情もだんだんと上向きになっていった。


 外の風景に心を和ませながら歩を進めているうち、廊下の突き当たりが見えてくる。なるほど、如何にもずっと人が訪れていなかったような陰気な雰囲気に包まれている部分だ。扉は私の部屋と同じような外観をしている。


 ドアの前に立った私はノブを握る。長く放置されていた部屋なので、錆び付いて開かないのではないかと若干の危惧を覚えたものの、扉はあっさりと開いた。ひょっとすると、アデライザさんの言っていた『もう一人』がもう来ているのかもしれない。


――結構早い時間帯だし、私の方が先だと思うけど……。


 疑念を抱きながら、部屋の内部へ足を踏み入れる。まず、夥しい塵と埃に塗れた灰色の世界が視界に広がった。次に、足の踏み場も殆ど見当たらないほどうず高く積まれた物体の山、山、山。色褪せたブリキ製の玩具、何となく芸術性を見いだせないこともない落書きのような絵画、不気味な形状をした異形の像などなど、一見してガラクタにしか思えない物があちらこちらに散在している。続いて、室内に新鮮な空気をもたらしている開け放たれた窓に気づく。最後に、部屋の端で地道にガラクタの類を壁際に寄せて歩き道を確保しようと試みている女の子が目に入る。


「あれ?」


 思わず、私は戸惑いの声を上げていた。懸命に作業に勤しんでいる相手が、自分の顔馴染みであることに気がついたからだ。相手の方もまた、突然の声にこちらを振り向く。先ほどドアを開けた際に無反応だったのは、恐らく清掃に集中していて耳に入らなかったのだろう。


「……ミズホちゃん?」


 来訪者が私であると知った相手の女の子が、困惑したように名前を呼んでくる。室内に流れる微風が、肩口まで伸ばされた黒髪をサラサラと揺らし、彼女の着用している可愛らしいエプロンドレスの裾を穏やかにはためかせた。


 そう。部屋の中で私より先に掃除を始めていたのは、他ならぬネリエちゃんだったのだ。


「どうして、ミズホちゃんがここにいるの?」


「私は……アデライザさんにこの部屋を掃除するように言われて」


 昨夜の一件を説明すると、メイドの少女は両目をパチクリとさせて、


「じゃあ、ミズホちゃんも私と同じなんだ」


 と呟く。


「私と同じって事は……」


「私も昨日、失敗しちゃったの」


 ネリエちゃんはしゅんとした面持ちで語り始める。昨晩、晩餐会の給仕を手伝うことになった彼女だったものの、城に招かれた貴族達の前に料理の載った皿を置こうとした際、手元が狂って盆を落としてしまい、食べ物をテーブルや客人達の膝辺りなどにぶちまけてしまったらしい。それで、私と同じペナルティを受ける事になったのだそうだ。ただ、アデライザさんから空き部屋の清掃を命じられてからは朝方まで自室で謹慎していたので、私が共に罰を受ける事になっているとは知らなかったらしい。


「そっか……ネリエちゃんもだったんだ」


「うん。せっかく重要な仕事を任されたのに……私、その」


 彼女は少し言い淀んだ後、


「緊張しちゃって」


 と、消え入りそうな声で言う。


「しょうがないよ。同じ立場だったら、私だってすっごくあがってたと思う」


 意気消沈している様子の彼女を励まそうと、私は努めて明るく言った。


「起きちゃった事は仕方ないよ。ネリエちゃんはいつも真面目に仕事をしているから、アデライザさんもそんなに怒ってないと思うし。罰さえしっかりこなせば、きっと大丈夫だよっ」


「……ありがとう、ミズホちゃん」


 少しは元気を取り戻した様子で、少女は私に微笑んだ。

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