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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第二話「アイスの魔女、ドロップの魔女」 8

 ネリエちゃん・アデライザさんと別れた私は、ここ数日の日課となっている果物屋訪問に向かった。


「どうもこんにちはです! ドーサックさん!」


 元気良く挨拶をしながら、店先に顔を出す。


「ん、お前か」


 陳列棚に商品の果物を運んでいた店主は私の方を向いて、


「メルエッタちゃんはまだ二階にいるぞ」


「じゃあ、家に上がってもいいですか?」


「おう、入れ入れ」


「失礼しますっ」


 呆気なく了承を頂いたので、私は気兼ねなく果物屋の奥へと足を踏み入れた。


 階段を上り、リビングに入ると、テーブルに向かい合って昼食を取っていたと思しき二人の姿が目に入る。大体の食器が空になっていることから察するに、どうやら食事を終えた直後らしかった。


「あら、ミズホちゃん」


 私の来訪に気がついたナインシィさんは、見る者を惚れ惚れとさせる微笑みを浮かべた。


「ちょうど、昼ご飯を食べていたところだったのよ。ミズホちゃんもどう?」


「いえ、屋外での業務に備え、城でしっかり栄養補給をしてきましたから」


「そう……じゃあ、デザートだけでもどう? 今からメロンを切る予定だったんだけど」


「そっちは頂きますっ」


 私は即答した。デザートは別腹なのである。


「ふふ、それじゃあちょっと待ってね。食器を片づけた後、メロンを切るから」


「アタシがしておく」


 椅子から立ち上がったメルエッタちゃんが、言うが早いか食器を手際よく運んでいく。


「あ、私も手伝うよっ」


「ふふ、ありがとう。それじゃお願いするわね」


 昼食の片づけを終えて、二人で雑談しながらデザートの到着を待っていると、やがて切り分けられた果物の皿の載ったお盆を携えて、ナインシィさんが戻ってくる。彼女曰く、メロンはだいぶ日にちが経って店頭に並べられなくなった代物だったらしいのだが、その所為で果肉が熟れて実に甘く、とても美味しかった。


「メルエッタちゃん、ちょっと寝癖がついてるわね」


 三人でテーブルを囲み、食後の茶を飲んでいると、ナインシィさんがおもむろに言った。


「あ、本当だ」


 ナインシィさんの言うとおり、幾つもの毛の塊が、ピンと有らぬ方向に立っていた。元々、森で初めて出会った時も髪の毛はボサボサだったし、あまり身なりには気を遣わないタイプなのだろう。殆ど他人と交流を持たない生活をしていたせいもあるかもしれない。


「え?」


 髪型について指摘されたメルエッタちゃんは、自分の頭に手をやって確認しようとする。


「ちょっと待っててね」


 そう告げてリビングを後にしたナインシィさんは、程なくして櫛を持って戻ってきた。愛用の一品だろうか。紅を基調とした上品な柄で、使われている素材も何となく高級そうに見える。何となくだけど。


「そのままじっとしてて。髪をとかしてあげる」


「え? いや、別にこのままで」


「まぁ、いいからいいから」


 遠慮しようとするメルエッタちゃんを強引に椅子に固定させ、ナインシィさんは手に握る櫛で彼女の髪を梳かし始めた。


「メルエッタちゃんは髪質が良いわね。手入れをちゃんとしたら、もっと綺麗な女の子になれると思うわ」


 褒めちぎりながら櫛を動かすナインシィさんに、メルエッタちゃんは顔を赤らめてされるがままになっていた。




 メロンを御馳走になった後、私とメルエッタちゃんは売り子として町中に出ていた。


「慣れてくると、物を売るのも楽しいものね」


 中央広場の中を進んでいる最中、メルエッタちゃんがしみじみとした口調で言った。


「うん、そうでしょそうでしょ。品物が消えていって売り上げが伸びていく感覚は病みつきになっちゃうんだよ~」


「いや、そういう意味で言ったわけじゃないんだけど……」


「ふふふ、タイムイズマネーなんですよ世の中……ところでさ、メルエッタちゃん」


 先ほどから気になっていた質問を、私は彼女にぶつけた。


「その隅にあるの、飴玉の袋だよね?」


 そう。彼女の抱えている番重には、新鮮な果物の隣に不思議な物が置かれてあったのだ。それは私の掌サイズの透明な袋で、中には赤や青など色とりどりの飴玉が入っている。


「ああ、これの事。ナインシィさんが、一緒に売ってみたらどうかなって」


「ナインシィさんが?」


「ええ」


 メルエッタちゃんの説明によると、彼女は都にやってくる際、退屈しのぎ用としてマジックドロップの素を持ち運んでいたのだそうだ。果物屋に宿泊するようになった後、彼女が売れ残りの果物で飴を作ったところ、店の主人達はたいそう彼女の作る菓子を気に入って、これを番重に入れて売ったらどうだと彼女に勧めたらしい。味を整える果実は店に幾らでもあったので、作る分には全く困らなかったそうだ。


「それで、今日から試しに売ってみることにしたのよ」


「へぇ……」


 何となく、私は自らの姿を彼女に重ねた。私もまた、自分で作った菓子を販売しているからだ。


「でも、まだ一つも売れないわね」


「最初はそんなものだよっ」


 顔を曇らせるメルエッタちゃんを、私は励ました。


「一つ、二つって売れていって、口コミで広まっていけばきっと沢山の客が来るから」


 と、その時。


「……あっ」


 記憶に新しい青年がこちら側に歩いてくるのを目に留め、思わず呟きを洩らす。


「貴方は」


「ん! やぁ、また会ったね」


 私に気がついた様子の青年は気さくな笑みを浮かべ、片手を上げて近寄ってくる。


 彼は、メルエッタちゃんと出会う前日にアイスを買っていった、茶色い服を身に纏った青年だった。


 トレードマークの羽帽子と、胸元のペンダントの放つ鮮やかな紫の輝きが印象的なので、記憶に残っていたのだ。

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