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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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第一話「飛ばされて、異世界」 7

「ううっ……なんで。どうしてスカンクなのよっ」


 社会の理不尽に対する批判の言葉を呟きながら、私は癒し屋を後にした。悲しさ少々と、尋常じゃない悪臭が目に染みているせいで涙が止まらない。しかしまた、何故スカンクがペットとして流行しているのか全く分からない。


「ママー、あの女の人すっごく臭ーい」


「しっ、見ちゃいけません」


 すれ違う母子のどこかで聞いたような会話に、私の目からほとばしる激流は更に強さを増した。心なしか、周囲の人々の視線が私に集中している気がする。私が一体何したっていうのよっ。


――でも、本当にここって異世界なんだよね。


 両手の甲で目元を拭い、私は周囲を見回す。周囲にはまるで、私が読んでいたファンタジー小説のような町並みが広がっていた。車や信号機、それに自動販売機といった文明の利器類は全く見当たらない代わりに、素朴な味わいの店やら家やらがずっと連なっている。人々の格好も時代錯誤で、ブレザーもスーツもタンクトップもフンドシも着ている人間は皆無で、甲冑を着込んだ戦士やら怪しげなマントを羽織った青白い青年やら客の呼び込みを必死で行っている町娘がそこら中をたむろっていた。


 周りを観察する度、私の心中にふつふつと興奮が沸き上がってくる。ここには試験も無ければ受験も無いし、宿題も無ければ平日も無いし、お金も無ければ家も無い。私は晴れて自由の身なのだ。


「……あれ?」


 何だか不穏な事を考えたような気がして、私は首を傾ける。そして数十秒後、五センチくらい地面から飛び上がった。弓を背負った少年が私とすれ違い様にビクッとのけぞる。しかし、気にするような余裕は皆無だ。


「ああっ! そういえば、お金どうしよう!?」


 先ほど、癒し屋で治療費を払えず困っていた事をすっかり忘れてしまっていたのだった。


「こんな時は、こんな時は……そう! 市役所!」


 政府に助けてもらおうとの結論を下し、私は側にいた見るからに農夫っぽい冴えない顔をしている中年男性の胸倉を掴んでグイグイと引っ張った。


「ごめんなさいっ!」


「うわっ! 何するんだいきなり!」


「ちょっといいですか!?」


「全然良くない! 離してくれ!」


「市役所はどこにあるんですか!?」


「シヤクショ!? そんなもんどこにもない!」


「そんなっ! お金が無くて困ってるのに!」


「知るか!」


「どこに行けばタダでお金貰えるんですか!?」


「そんな都合のよい話があるか! 働け!」


「私まだ未成年なんですっ!」


「子供だからって甘えるな!」


「大人には子供を守る義務があります!」


「他人の世話をする義理なんてない!」


「でも困ってるんですっ!」


「そんなに何とかしてほしかったら城へ行け!」


「城はどこにあるんですか!?」


「見て分かんねえのか!」


「分かりました!」


「分かったら離せ!」


「はいっ! ありがとうございましたっ!」


 中年男性の胸を離し、勢いで近くの民家の窓に頭から突っ込んだ彼に背を向けて、私は王国の中心部にこれでもかというくらいそびえ立っている城を目指し、猛ダッシュした。




――私って今、もの凄く世界を感じている気がする……。




 空を切り、地を蹴って、私は大きな目標へ向けて一歩一歩確実に近づいていく。道行く人々が驚いた表情で私を見つめてくるのが、何となく心地よかった。そう、今の私は風。風になった私は、最早誰にも止められない。目の前に広がるは栄光へのロード。だんだんとゴールに近づくにつれ、私の脳裏には今までの苦労が走馬燈のように甦ってきた。受験勉強。毒舌女神。ゴブリン。スカンク。中年男性。ここまで来るのに、私はどれだけの血と汗と涙を流してきただろうか。いよいよ、ラストスパートをかける時が来た。足の回転を早め、終盤に温存していた体力を使う為のギアチェンジを行う。息は酸素を取り入れようと細かく弾み、体からは汗が滝のように流れ出ている。心臓はとっくの昔に悲鳴を上げている筈だが、不思議と私の気分は来れ以上無く高揚していた。恐らくこの状態がランナーズハイというものなのだろう。そうこう考えているうちに、私の視界の中には城の正門がついに姿を現した。あそこが、最終目的地だ。今まで踏み越えてきた沢山の犠牲に報いる為に、私は負けるわけにはいかない。そう、私を支え続けてくれたみんなの為にも。最後の最後、私は全力を振り絞って風と、そして大地と一体化する。


「絶対に私は立ち止まるわけにはいかないのー!」


「止まれ!」


「落ち着け!」


 そのままの勢いで門を潜り抜けようとしたが、二人の衛兵にすんでの所で押し止められる。うう、後もう少しだったのに。


「君! ここはトロスベリア城だぞ!」


「一般人は用が無い限り出入りを禁じられている!」


「用ならあります!」


「何だい、言ってみなさい」


「内容によっては私から上司に掛け合ってみよう」


「お金下さいっ!」


「帰れ!」


「二度と来るな!」


 私はもの凄い剣幕で城からつまみ出されたのだった。

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