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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第一話「森の小さな魔女」 11

「誰か、住んでいるんでしょうか」


「でも、こんな危ない森の奥に人が住んでるなんて、普通では考えられないけどなぁ」


「人じゃなくて鬼婆だったりするかもですね……」


「とにかく、近寄ってみよう」


 私達は音を立てないよう慎重な足取りで、建造物に近寄った。その途中、


「ミズホちゃん、これを見て」


 何かに気が付いた様子のクラールさんが、囁き声で少し離れた地面を指し示す。


「草が踏まれて、土が不自然に抉れている。これは足跡だよ。それも、靴を履いている者のね」


「じゃあ、やっぱりここには人がいるんでしょうか?」


「だろうね……無人にしては建物も綺麗だし」


 そう呟いて、クラールさんは建物を見つめた。多少、蔦が絡まっている程度で、小屋の外観は彼の言ったように殆ど汚れていない。


「誰も住んでいない家って、自然と一体化してたりしますもんね」


 近所にあった廃屋を頭に思い浮かべながら、私は言った。


「ミズホちゃん、覚悟はいいかい?」


 小屋の扉の前に立ったクラールさんが、小声で問いかけてくる。私が小さく頷くと、彼はコンコンと控えめにドアを叩いた。息の張り詰めるような緊張感に包まれて反応を伺っていると、


「いつもより随分と早いお届けね」


 建物の中から聞こえてきたのは若い女性の声で、私とクラールさんは思わず顔を見合わせた。


「材料はまだ大分残ってるし、後二週間は遅くても良かったのに」


 呟きながら声の主は私達の方へ歩いてくる。


 扉が僅かに開き、住人がその陰から顔を出す。


――あれ?


 目の前に現れた相手の姿を見て、私は困惑した。小屋の中から半身を覗かせたのは、私よりもだいぶ背丈の低い、小さな女の子だったのだ。容姿は勿論のこと、身に付けている衣装も特徴的で、町中の女魔術師が着用している独特の服を纏い、頭にはこれまた如何にも魔法使いとでもいうようなとんがり帽子を被っていた。濃い緑色の髪はろくに手入れがなされていないのか、腰の辺りまでバサバサに伸ばされている。


 外見は幼い筈なのに、俗世から離れた老齢の雰囲気を身に纏っている印象を受けるのが、とても不思議に思えた。


――森の……魔女さん?


 思わず、そんな呟きを心中で発した。だが、困惑したのは相手の方も同じだったらしい。


「……って、え?」


 と、彼女の表情は見慣れない相手にすぐさま硬直する。


 呆然と声を洩らした女の子は、予期せぬ来訪者を目にして虚を突かれたように両目を見開き、私と同様に驚いているクラールさんの顔をまじまじと見つめ、身体を硬直させた。パチパチ、と彼女の明るい紫色をした瞳が閉じては開かれる。


 気まずい沈黙が私達の間に流れた後、


「……アンタ達、誰?」


 我に返った様子の女の子は、私達二人の顔を交互に見つめながら、淡々とした口調で訊ねてきた。その口調には見知らぬ相手への敵意より、好奇心の方が多く含まれているように感じられた。


「あ、僕達はね」


 慌てて、クラールさんが爽やかな微笑みを浮かべて言う。その首筋には、仄かに冷や汗が滲んでいた。まさか、彼も小屋の住人が幼子とは予想していなかったのだろう。


「別に怪しい者じゃないんだ……ただ、ちょっと話を聞きたくてね。お母さんかお父さんは中にいるかい?」


「私は一人暮らしよ」


「あ、そうなんだ。それは失礼……えっ?」


 今度は、彼の方が驚きの呟きを洩らす番だった。


「ここには、君しか住んでいないのかい?」


「ええ」


「こんな危ない森の中に、一人で暮らしてるの……んですかっ?」


 言葉少なに返答する少女の顔を、私はまじまじと見つめる。そんな私を、彼女はじっと見つめ返してくる。その大人っぽい眼差しに、私は気圧されてしまい、思わず敬語口調になってしまう。


「危ない……というのは多分、貴女達の価値観ね」


「価値観……?」


「でも、私にとってはそうではないの。この森全体が、私にとって庭のようなものだから。危ないと感じたことは一度もないわ。だって、物心ついた時から知っている場所ですもの」


「はぁ……」


 分かったような、分からないような。変な物言いをする子だな、と私は思った。ただ、マセた子供といった印象は不思議と感じなかった。


「……ずっと立っているのもなんだし、長話になるのなら中に入る? お茶くらいはあるけど」

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