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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第二章「アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~」(第一章を飛ばしてこちらから読むことも出来ます)
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第一話「森の小さな魔女」 7

 外から室内を覗かれる恐れがあるからと、カーテンは閉めたままにしておくことになった。ランプのもたらす淡い光が充満する部屋の中に、私とクラールさんは円形のテーブルに向かい合って座った。


――それにしても、城で王子様と二人っきりで過ごす夜かぁ……。


 何となく、ロマンチックなシチュエーションな気がして、私の胸はちょっぴりときめいた。尤も、王子様の方にはその気は無いだろうけれど。


「しかし、僕の方から押し掛けておいて、何もお返しをしないというのは気が引けるなぁ……そうだ」


 何かを思いついた様子で、クラールさんは服の袖をまさぐると、中から小さな袋を取り出した。


「クラールさんの袖の中って、ホント不思議です……」


 私は彼の腕をすっぽりと覆っている長袖を凝視しながら呟く。前も、クラールさんは同じ場所から道具を取り出した事があったのだ。その原理は、未だ解明されていない。


「まさか、超次元空間に繋がっているとかじゃないですよね?」


「さあ、どうだろうね」


 私の問いかけに、クラールさんは意味深な笑みを浮かべる。彼が口を閉じていた紐を解いて袋を開くと、中から沢山のビスケットが顔を覗かせた。


「このビスケットはとある名高い菓子職人の作品でね、とても美味しいんだよ……それと」


 クラールさんはまた袖に手を入れて、別の物品をテーブルに置く。今度は、インスタント紅茶のパッケージだった。彼は箱の中からティーバッグを一つ取り出すと、


「ミズホちゃん、水はあるかい?」


「はい、でもお湯じゃないですよ?」


「構わないよ。ちょっと、ティーカップに注いで持ってきてくれないかい」


 私は食器棚からティーカップを、机の上に水差しをそれぞれ持ってきて、クラールさんの言う通りにした。


「……あの、やっぱり水じゃ、ティーバッグの成分って溶けないんじゃ」


「まぁ、見ててよ」


 ニヤリと笑って、クラールさんはティーバッグを水の中へと落とす。


 次の瞬間、水の沸騰する音がしたかと思うと、カップの中の水は湯気を立てている紅茶に変貌した。


「えっ!? お湯になっちゃった!」


「どうだい、驚いただろ?」


 得意げな表情で、クラールさんは解説を始めた。


「このティーバッグにはちょっとした火属性魔法が掛けられていてね。水を注ぐと熱を発して、適当な温度に調整するようになっているのさ」


「へー、便利だなぁ」


「その分、値が張る代物だけどね」


「けど、どうしてビスケットとかティーバッグとか、袖の中にしまってたんですか?」


「非常時用に持ち歩いているんだ。世の中、何が起こるか分からないからね。ほら、備えあれば憂いなしってやつだよ」


「なるほど! 流石はクラールさんですっ!」


「はははは、照れるなぁ」


「……あれ? でも、ティーバッグは非常時に使えないような」


「……あっ」


 私の指摘に、クラールさんはかつてない衝撃を食らったような表情を浮かべた。




 クラールさんの用意した紅茶とお茶受けで、私達はちょっとしたティータイムを取ることになった。幸い、食器棚にティーカップは複数入っていた。


「夜中のささやかなお茶会っていうのも、良いものだね」


 カップの縁に口付けながら、クラールさんは穏やかな口調で言った。


「そうですねっ」


 私は高級ビスケットの甘美な味に酔いしれながら、彼の言葉に相槌を打った。


「カーテンを開いて、綺麗な星空を眺めながらお茶を飲めれば、もっと良かったんだけれどね」


「そうですね……でも、こういうのも風情があって良いと思いますよっ。何だか、お忍びの密会みたいですし……」


「お忍びの密会?」


「えっ、あ」


 あまりに夢心地の気分だったので、つい感情に任せて失言を洩らしてしまった。クラールさんは上品に笑って、


「へぇ、ミズホちゃんもなかなかロマンチックな事を言うんだね。そういうのは」


「あ、い、いえ。今のはあの」


「でも、愛する人とこんな風に静かな夜を過ごす時間は、きっと素敵なものだろうね」


「ひえ!? あ、あ、えあ」


 頭が熱暴走を起こしてしまい、言葉が思うように出てこない。


 やがて、私は頭の中が真っ白なまま、感情の赴くままに叫んだ。




「あいうえお! かきくけこ! さしすせそまみむめえええ!」


「ミ、ミズホちゃん落ち着いて! サ行の次はタ行だから!」

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