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アイスクリームの魔法を手に入れた!~森の魔女と、魔吸の禁術~  作者: 悠然やすみ
第一章「アイスクリームの魔法を手に入れた!」(2013年11月3日に完結済みです)
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最終話「私の大切な人達」 6

「無理だよ……そんなの」


 目元を両手で拭いながら、私は呟くように口を開く。どれだけ手の甲で擦っても、熱い雫は枯れる事無く流れ続けていた。喉の奥が腫れ上がって痛くなり、呼吸は乱れて苦しくなる。それでも、こみ上げてくる鼻水を啜りつつ、私は途切れ途切れに訴えた。


「どっちか一方だなんて、選べない」


――ワガママですね。


 一拍の間を置いて、女神様からの呆れたような返事が耳に届いてくる。


――そんな虫のいい話を押し通せると、本気で思っているのですか?


「ワガママでいいもんっ」


 私は半ばムキになって言い返した。


――しかし、不思議です。


 先ほどまでとは打って変わり、聞こえてくる彼女の声は小さな戸惑いを含んでいた。


――御自身が生まれた世界で過ごした日数の方が多い筈なのに、どうしてこちらの世界にそこまで拘るのですか? 住み慣れた家が恋しくないのですか?


「恋しくないわけ、ない……」


 最早、胸が一杯で何も考えられないのに、言葉は自然と口を突いて出てくる。自らの心情をそのまま吐露していくかのように、私は時折しゃくり上げながら、気持ちに任せて喋り始める。


「お母さんにだって、お父さんにだって会いたいよっ。お婆ちゃんにも、お爺ちゃんにも、学校のみんなにだって……でも」


 大きな感情のうねりが襲ってきて、私の話はそこで一旦途切れる。擦り続けていた目をふと開くと、大粒の涙が幾つも幾つも宙に浮かび上がり、私の周りを漂っている事に気がついた。それらを眺めている内に、堪えがたい感情が強くこみ上げてきて、私の口を力任せにこじ開け、外へと飛び出していく。


「でも……明日は……明日は……ドーサックさんと久しぶりに会う日なんだもん!」


 叫ぶと同時に感情のタガが外れ、抑えの効かなくなった私は心の中にあった思いをぶちまけていく。


「もし私が元の世界に戻っちゃったら、約束、守れなくなっちゃう……おじさんと明日、会えないよ……おじさんだけじゃない、クラールさんにも、王様にも、城のみんなにも。そんなの、絶対に嫌だもん……だって」


 次の瞬間。私は溢れる涙も拭わず、顔も分からない女神様に向かって、勢いよく叫んだ。




「だって、私の大切な人達なんだもん!」




 しばらく、女神様からの返事はなかった。光に包まれた空間に、私の啜り泣きだけが虚しく木霊する。


 どれくらい、時間が経ったかは分からない。


――分かりました。


 気持ちの高ぶりが少しだけ和らぎ始めた頃、何かを決意したような彼女の声が聞こえてきた。その感じに淡い期待を抱いた私はすかさず訊ねる。


「じゃあ、私に『二つの世界を時間を巻き戻しつつ行き来出来る能力』をくれるんですか?」


――それは無理です。


 女神様の即答を受け、私はがっくりと両肩を落とす。


「それじゃあ、せめて私が最初に提案した……」


――そちらも駄目です。その代わり、こうしましょう。




――『私が片方の世界で貴女を演じ、一定の間隔で住む世界を交代する』のです。




「……え?」


 思いもよらぬ、というよりは斜め上に突き抜けた提案を受け、私は目を丸くせざるを得なかった。


「それってつまり……女神様が私になりすますって事ですよね?」


――その通りです。


「どうして、そんな事をする必要があるんですか?」


――こうすれば、貴女に特別な能力を授けなくとも、私の力で両方の世界を行き来する事が出来るでしょう?


「いや、それは分かるんですけどっ」


 いつの間にか、驚きから涙を流す事も忘れていた私は、首を傾げながらも質問を重ねた。


「女神様が私のフリをして生活する理由なんて、無いような気がするんですけど……」


――いや、実を言うとですね。


 彼女の返答はどこか楽しそうな響きを含んでいた。


――ずっと、下界というものに憧れていたんですよ。今まで神様になりたくて必死に試験勉強してましたけど、いざなってみたら毎日が急がし過ぎるし、天界からほとんど出れないし、規則が厳しくてなかなか干渉出来ないし。もうヤになっちゃうていうか。たまには別の世界にトリップしたりして羽目を外したいな、なんて考えてた所だったんです。プロジェクトに参加して頂いた貴女のアフターケアと考えれば、絶好のチャンスかなと思いまして。


「そ、そんなアバウトな感じで良いんですか? 女神様の仕事とか……」


 何故か私の方が不安になってしまっていた。しかし、当の本人、いや本神といえばそこまで深刻に考えている様子もなく。


――ヘーキです、ヘーキ。細かい事は全部、部下の天使達とか低級の神様に任せておけば問題ないですし。あ、そういえば。学校生活というものも経験してみたかったんですよね。上から見てると、何だか色々と行事があって楽しそうで。今から通うのが待ち遠しいですよ。


「で、でも。私のフリをするって一体どうやって」


――大丈夫ですよ。私、これでも神様ですから。貴女の姿を真似する事くらい簡単です。じゃ、そういう事で。


「え、あ、あの。勝手に決めないで下さ……あ」


 話している途中から、私の体が再び目映い光に包まれていく。


――今から色々と準備の取りかかりますので、貴女は取りあえず今いる世界の方にしばらく滞在していて下さい。では。


「あ、あのっ!? まだ提案を受けるってわけじゃ」


 全ての言葉を言い終わらないうちに、私は再び見えない力に引っ張られていったのだった。




「ちょ、ちょっとー!」

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